第三十一話 ダンジョン!!
雰囲気が第一章に戻ってきた気がします。
ようやく何か始まった気がする。
俺は、淡い光の粒を踏みしめながら地面へ着地した。
足元の土は長年踏み固められたように硬く、森の湿った匂いが濃く漂っている。
目の前にそびえ立つのは、石のレンガを積み重ねた古い建物。
建物というより、年代を感じさせる巨大な円形の遺跡。
ひび割れた表面には、かつてここが人の手で造られた痕跡がかすかに残っていた。
そう、それはダンジョンだった。
その入口の前に、人影が二つ。
光を遮るようにこちらへ振り返る。
「主人様!待ってた!」
「俺様、30分前から居たぞ!」
声の主はアテナとイバラだった。
アテナは尻尾を軽く揺らしながら駆け寄り、イバラは両腕を組み、誇らしげに胸を張る。
二人の全身からは、獣人としての気配と戦気が滲み出ていた。
この二人を派遣した理由はただ一つ。この新たなダンジョンを攻略するためだ。
そして二人を選んだのは、戦闘面で圧倒的な“戦闘狂”であること。
戦えば戦うほど強い。
だから、楽に進めると踏んだ。
「よし、じゃあさっさとダンジョン攻略するぞ。」
そう声をかけ、俺たちは重い空気の漂う入口へ足を踏み入れた。
このダンジョンはヴェルデンの森の奥で最近発見されたもの。
魔物が大量にいるらしく、かつてはヴルドがこの森の領土を“勝手に”占領していたという話だ。
もしかすると、その兄・ヴェイドの痕跡があるかもしれない。
サマエルの調べでは、もう数年姿を見せていないらしいが。
「ムォォォォオッ!!」
低く、地鳴りのような咆哮。
洞窟内に潜んでいた影が揺れ、巨大なミノタウロスが飛び出した。
牛の頭、太く盛り上がる腕。
硬い石床を踏みしめた瞬間、振動が足元に伝わる。
「ほい!」
アテナの身体が風を裂いた。
彼女が踏み込んだ瞬間、光が走り、ミノタウロスの動きが止まる。
断絶魔法を纏った素手の一撃
刃物なしでも“切り裂く”ように力が流れ、魔物は抵抗する間もなく崩れ落ちた。
アテナは獣人。
その力は、攻撃というより“叩き切る”という表現が似合う。
これでは武器すらいらないだろう。
「ウガァァ!!」
奥からもう一体。
怒りの声をあげながら突進してきたが、
彼女の武器、黒茨ノ大牙が一撃で魔物の動きを断ち切る。
太い影が萎むように、ミノタウロスは静かになった。
やっぱり、この二人を連れてきて正解だ。
ミノタウロスはBランク程度、この二人はSはあるだろう。
だが……本題であるここにヴェイドの痕跡はない。
そして、ここにいるモンスターを配下にするにも、知性が足りない。
となると、一旦引くべきだな。
――いや、待て。
そういえば、“星界律”があった。
星の特性そのものを操る能力。
戦闘向きではないが、日常やサポートに使える力。
俺の持っている能力、魔法だ。
《上手く使えばかなり最強になれるぞ。
やり方次第ではヴェイドなんて、楽勝だ。》
ヴルドの言葉が胸に蘇る。
「……なるほどな、」
「主人様!どうする?」
アテナが俺の顔を覗き込む。
「一旦洞窟から出よう。」
俺は決めた。
この洞窟を、能力の訓練場として使う。
城の近くで星界律を使えば、巻き込みが起きる危険がある。
だが、ここならある程度離れているしダンジョンも案外頑丈。
ここで能力を鍛え、いつの日かこの能力、配下を使い、世界を滅ぼす。
その為に、ヴェイドをぶっ倒し俺は魔王として正式に加入する。
「イバラ、今度俺と模擬戦に付き合ってくれないか?」
俺が言うより先に
「え!あたしは?」
アテナの慌てた声。
なんでお前が出てくる。
「ふん!選ばれたのは俺様のようだな!」
イバラが勝ち誇ったように鼻で笑う。
「まぁ、アテナもたまに付き合ってくれよ。
イバラもずっとは疲れるだろうしアテナもさ、ね?」
「分かった……声かけてね。」
アテナはしょんぼりしつつも、素直に頷いた。
その表情を見て、少しだけ嬉しくなる。
アテナ、大人になったな、と思う。
城へ戻った瞬間、廊下の奥からバタバタと駆け寄ってくる足音が聞こえた。
振り返ると、シドウが焦りで目を丸くしながら飛びつく勢いで近づいてくる。
「主人!あのエルとか言う子、とんでも無く強いですよ?」
息を切らしながらエルを指差すシドウ。
その指の先では、小柄な少女――エルが、嬉しそうに武器をくるくると回していた。
小さな手とは思えないほどの扱いの良さ。
目は獲物を見つけた子猫のように輝いている。
強いのは当然だ。俺の子なんだから。
……まぁ、産んだわけではないが。
「えへへ、褒めても何も出ないよ?」
明るい笑顔。
うん、やっぱり俺の子だ。
エルはどうやら、素の戦闘センスが桁違いらしい。
さらに持っている固有能力は、"武器の錬成"。
槍、剣、鞭、斧……
単純な形状の武器なら、彼女は手を翳すだけで生成できる。
ヴルドのように血を使う必要もなく、身体への負担もない。
その時点で十分に強すぎる。
だが、それだけでは終わらない。
エルが錬成する武器には、ランダムで特殊効果が付与されるらしい。
例えば、剣には持ち主の力を最大限に引き上げる補助効果。
槍には炎属性の魔法が宿ることもあるとか。
付与されるのはランダムそのものだが、かなり強い。
「パパ!すごい?」
期待に満ちた瞳で、エルが俺を見上げる。
その表情は、褒められるのを待つ子犬のようだ。
「ああ、凄いな。
流石俺が育てただけはある。」
エルはぱぁっと顔を輝かせ、尻尾があれば振っているだろう勢いで跳ねた。
いつか大量の配下を組織するとき、それぞれの部隊を作ることになる。
その時は……服装や装備の統括を、エルに任せてもいいかもしれない。
そんな想像すら浮かぶほどだ。
そんなことを考えていると――
突然、アスからの急報が届いた。
至急、部屋に来てほしいという。
……なんだ?
何をやらかした?
俺はすぐさまアスの部屋へ向かった。
もちろんシドウを巻き添え……いや、連れてね。
――――――――――――――――――――――
マルシオン王国(元)、今は瓦礫と霧だけが残るかつての国。
その果て、枯れた大地の中央にぽつんと建つ小さな小屋がひとつ。
風で軋む扉がゆっくりと開いた。
「ヴァルヴィスさん。いい加減にして下さい。
魔王を野放しのまま……それでいいんですか?」
入ってきたのは、一人の男だった。
すすけたマントを揺らし、険しい顔で小屋内を見渡す。
彼の名は、ラグノス・ダルヴェイン。
ヴァルヴィスのかつての相方。
部屋の片隅では、ヴァルヴィスが椅子にもたれかかったまま、無精髭に触れていた。
その髪と髭は長く放置され、まるで時間が止まっているかのよう。
だが、その眼だけは濁っていない。復讐心の炎だけが、底で静かに燃えていた。
散乱した新聞には、各国で発生した事件や魔王の動向が掲載されている。
どれも読み込まれすぎて皺だらけだ。
「魔王……アイツか、、」
ヴァルヴィスは新聞を握りつぶすように丸め、空を仰ぐ。
その表情には、ただの怠惰ではなく“固めた決意”が滲んでいた。
「野放し……違うな。俺は、待ってるんだよ、アイツに復讐できる時をな、、
魔王、ライトを叩き潰す。俺はいつだってそのつもりだし、いつでも出来る体制は整ってるんだ……
時が来るのを待ってるだけ……」
彼の手が埃をかぶった太刀へ伸びる。
刃はくすんでいるが、その重みは今も変わらない。
柄に触れた瞬間、空気がわずかに震えた。
その目は、かつて英雄と呼ばれた男のものではない。
ただ一つの目的――復讐だけを宿す冷たい光だった。




