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第三十話 やりますベビーシッター

あ、このⅤ部で一先ず狐花として小説を書くのをやめます。

 俺は慌てて赤ん坊を抱き抱える。

 腕の中の温もりは驚くほど軽いのに、どう支えたらいいのか全く分からない。

 無論正解の抱きかたなんて知らないがね。


「おい、どういうこと!?」

「私に聞くな。

 それより、その持ちかただと、胸を圧迫するぞ?もっとこう……」


 ルシアンが呆れたように眉を寄せ、俺の腕を軽く押し下げて正しい位置に直していく。

 慣れた手つきだ。意外と世話上手なのか?


 そうして、俺はルシアンに赤ん坊を渡し城に戻った。


 城の大広間は静かで、石造りの壁と赤い絨毯が冷たく響く。

 誰も座っていないその玉座へ、俺は赤ん坊をそっと座らせた。

 小さな体が、巨大な玉座の中心でぽつんと揺れる。


「どうするよ?」

「知らんがな。私はもう帰る予定だったんだぞ?」


 あんなに寛いでいた奴が何を言っているのか、俺にはちっとも理解出来ない。

 こっちは予想外の来客で頭がいっぱいだというのに。


「とにかく、お主の配下で何か子育てが出来そうなのは居ないのか?」

 ルシアンがそう問いかけ、俺は顎に手を当てて考える。


 ふむ、探してみよう。


 ⸻




 俺は一人目に、サマエルを呼んだ。


 石畳に現れたサマエルは赤子を見るなり、ほんの僅かに肩を震わせた。

「赤子……ですか、流石にアテナやイバラや焔よりも幼いとなると少し難しいですね、、」


 そう言うと、目を逸らしながら一歩後ずさって逃げてしまった。


「あやつ、びびっておったな」

「何故だろう。」


「あう〜?」


 赤ちゃんは首を傾げて、まるで状況を理解しているかのように俺たちを見つめた。

 青い瞳が透き通っていて、吸い込まれそうだ。


 二人目に呼んだのはアヌビスだ。

 現れた瞬間に匂いを嗅ぎ、赤子を見て眉間にシワを寄せた。


「主人様、、俺には出来ません。

 流石にこれ、生まれて間もないですよね?人里に預けましょう。」


 そう提案して、さっさと去ってしまった。


 無責任なやつらめ。


「逃げおったな、」

 ルシアンは腕を組み、呆れたようにため息をつく。


 3人目──恐らくこれで配下はラストだ。

「いや、厳しいでしょ!」


 アスは部屋に入った瞬間、赤子から距離を取った。

 まるで触れたくないように。

 いや、明らかに避けている。


 何故だかサマエルやアス、そういえば全然赤子に近づこうとしない。


「そう言わないで、、抱っこの一回ぐらい……」

「いや、、無理無理!」


 アスは顔を逸らして、結局部屋に閉じこもってしまった。


 ⸻



「………待て、これは少しおかしい。」


 ルシアンはそう言って赤子へと歩み寄り、慎重に抱き上げる。

 赤子はきょとんとした顔で、目を小さく震わせた。


 俺もよくよく気づいた。

 ここまでしてサマエルやアスが避けるのは、明らかに何かある。


 ルシアンは赤子を注意深く観察し、背中の方をそっとめくる。


 そこには──

 確かに生えていた。白く、淡い光を帯びた美しい羽。

 動物の羽のように張り付いているのではなく、皮膚から自然に伸びている。

 しかし生えているのは右側の一枚だけだ。


 悪魔たちの黒い翼とは明らかに異なる、神々しい白。


「なるほど、避けていたのはこれが理由か……」

 ルシアンはそう言って淡々と告げる。


「この子、天使だな。」

「天使?」


 なるほど、それで悪魔達は怯えていたのか。


「にしてもなんで、この子は空から降ってきたんだ?」


 俺がそう質問すると、ルシアンから赤ちゃんはこちらへ飛んできた。


 《キャッチしろ!》

 分かってるって!


 俺は両腕を広げ、落とさないよう慎重に抱きとめる。


「……詳しい事は分からない。

 だが、昔からコウノトリが運んでくるとかいうだろ?

 赤ん坊は幸せの象徴、、何かいいことがあるかもしれんぞ?

 私はかなり滞在した、そろそろ帰る。

 何かあったら城へ来い」


 ルシアンはそう告げ、そのまま帰ってしまった。


 え、

 いや、、この子どうするの?


「えっと、君名前、、ある?」

「…………」


 赤ん坊は、ジッとこちらを見つめている。

 無垢でまっすぐな青い瞳だ。

 まぁ、赤ちゃんに聞いたところで分からんよね?


 近くで見るとオレンジ色の髪がほんのり光っているように見える。

 右の片翼だけが小刻みに揺れ、白羽の影が床に落ちている。


「君の名前、、君は今日からエルだ。」


 一先ず、面倒を見よう。

 それまでは一旦この子は、俺の配下としてこの城で育てる。


 ⸻



 おいおい、夜泣きが酷いぞ!

 《ほら、がんばれがんばれ》


 おい、臭いぞ!

 《漏らしたな……》


 疲れた。

 世のお母さんは、こんな事をこなしているのか……

 天使などもあって、サマエルとかも全く手伝ってくれない、、


 それから1週間。


「パパ〜!」


 振り返ると、そこには赤子とは思えない成長を遂げた少女が立っていた。

 身長は俺の胸ほど、年齢で言えばもう10代前半ほどに見える。

 それほどまでに大きくなっていた。


 俺はルシアンにこの事を伝達で伝える。


「ふむ、天使となると成長が早いかもしれないな。

 だが、恐らく見た目はそれ以降はあまり大きくは変わらないんじゃないか?天使は長命だ。」


 とのこと。


「パパ誰と話してるの?」

 主人と呼びなさい、と言いたいところだが……

 まぁ呼び方を子供に強要するのは違うだろう。


 今のエルは、オレンジ色のショートヘアーに青い瞳がくっきりと映え、

 白いパーカーを身にまとっている。

 成長した翼もやはり片翼のまま。

 だがその一枚は大きく、光を受けて柔らかく輝いている。


「……どうする?」

「パパについてく!」


 満面の笑みで俺に抱きつき、そう答えるエル。

 体温がやけに高く、抱き返すと羽が肩に触れてふわりと揺れた。


 よし、戦闘を学ばせよう。


「……いつ子供を作ったんですか?相手は……まさかア、」

「うるさい。戦闘を教えてやれ、」


 俺はシドウを呼んだ。

 余計な事を言いそうで嫌な予感がしたが……気のせいだろう。


 戦闘面では、やはりうちの配下の中で頭もいいし戦闘も出来るし、イケメンなシドウが最適だ。


「パパ、この人誰?」

「パパの友達だよ、これでもね。」

「変なこと教えないでください。」


 そうして、俺はエルをシドウに預けてこちらの仕事を行う。


 俺は空中へと飛び上がる。

 城の塔を越え、雲を突き抜けるほど高く。

 遠くの山脈も、海辺の街も見渡せる。


「……よし、じゃあ世界滅ぼすためにそろそろ進みますか、」


 風を切り、俺はある場所へ向かった。


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