第二十八話 左耳
「紅冥衝……綺麗、でしょ?」
彩は両目を大きく見開き、夜空に咲く真紅の花火を見つめた。その瞬間、身体のバランスを崩し、彩は小さく転がり落ちた。
「クロ!」
「はい主人様!」
クロが瞬時に駆け寄り、彩を支える。
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「……ここは、、」
彩がゆっくり目を開ける。視界には、前に二人で訪れた丘の上の景色が広がっていた。夜の風に草の葉が揺れ、星明かりが地面に淡く影を落としている。彩の見た目は、かつての殺伐とした「死相」の顔ではなく、初めて会った頃の、彩自身の顔に戻っていた。
「その耳……治療しないの?」
「ああ、いつでも治せるし……戒め的な?油断したしな、」
俺の左耳は戦闘で吹き飛び、血が乾いた赤い痕となっていた。かつて耳があった場所には、ギザギザとした生々しい傷跡だけが残っている。月光がその傷を淡く照らし、少しだけ光沢を放っていた。
「殺さないの?」
彩が真剣な瞳で俺を見上げる。
「殺さないよ。」
「また命を狙うかも……」
「それでもね、殺さない。
最初のバフォメット、変装した君だろ?」
俺が言うと、彩は驚いたように目を大きく開き、軽く息を呑む。
思い返せば、不自然なことだらけだった。
死相は姿を自由に変えられるのに、なぜ男だと気づいたのか。
どうして学園にいると分かったのか。
それに、あえて男という誤情報を混ぜ、俺たちを学園へ誘導したのは、変装した彩自身だったのだろう。
恐らく、他の配下がいたら計画はうまくいかなかった。だから、変に干渉されない程度に俺を城から出すため、学園まで呼んだのだ。アスとシドウは、そのおまけに過ぎない。
「気づいてたんだ。まぁいいや、バイバイ。
私はどこかに逃げる、しくったしね。」
「マルシオンは滅んだけど?」
「死相にも怖がる死相ってのがいるんだよ、、
それじゃあね、ライトくん。
好きなのは本当だから……」
彩は振り返らずに、夜の闇へと姿を消した。
《逃していいのか?》
「そうですよ主人様!」
ヴルドとクロが口々に言うが、まあいい。
だが、告白されたのは、実は初めてだったのだ。
配下はカウントしないが。
「明日の朝、城に帰る。
その前にレイン王国の門の前で待ってる。」
「…………」
俺は彩に届く声でそう告げた。
こうして、俺たちの学園生活はひとまず幕を閉じた。
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「死相に逃げられたって、本当なの?主人〜」
「ああ、逃げられちった。」
「まぁ、命を狙わないってんなら逃してもいいんじゃないですか?学園、まぁまぁ楽しめましたし、」
俺たち3人が談笑していると、アレクシスたちが駆け寄ってきた。
「ドウジ!また来いよ!」
「アスカちゃん居ないと、寂しいよ?私……」
リガルドとイザベルが笑顔で挨拶する。
「行くのか?」
「まぁね。
世界滅ぼすんです。」
「嫌すぎるわ!それで、城に戻るの……」
俺が冗談交じりに言っても、カミラは顔をしかめる。滅ぼすのは本当なのだが、ここは見逃すつもりだ。
「学園の手続きは、俺がやっておいた。
じゃあな、魔王というのは内緒にしておく。」
「ありがとね。」
そうして、俺たちはレイン王国を後にした。
結局、彩は現れなかった……
「………!待っ、」
彩が駆け寄り、手を振る。しかし、足元の不意な段差で転倒する。
彩が自分の足を見ると、そこには切断された足が横たわっていた。逃れられなかったのだ、あの死相から……
「クラッシュ。
失敗しちゃダメだろう?」
現れたのは、背はやや低く、緑色の長い髪を揺らす少女。
「姉さん……」
彩が見上げると、赤い瞳が冷たく光り、じっと彩を見据える。
「これは、、お仕置きかな〜
ね?妹ちゃん!」
不気味に笑う少女は彩に手をかける。彩の声は届かず、遠くで立つライトの後ろ姿を見つめることしかできなかった。
(いつか、、私も……ライトの城に誘って…欲しいな、だって、………ライトの事、、好きだから、)
彩の中で今までライトと思い出に残ったこと、過ごしたことが全て蘇る。
彩は目を閉じた。
「………やっぱり、一回近づいたことがあるけど、
ライトか、面白い魔王だな、」
眠った彩を抱き上げ、リンゴを囓る少女は、ライトを見据えていた。
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「我が君!お帰りなさいませ!」
「いやいや……なんだこの汚さは!」
俺が叫ぶと、配下たちは慌てて周囲を見回す。
辺りのものが散乱していた、いや、ほんと汚い。
俺は全員を玉座の前に整列させた。
「いやね!主人様!聞いて!
俺様ね!赤毛のやつと戦って、負けて色々あって……」
「イバラ、嘘つくからな、」
「主人様信じてくれない!!」
イバラは頭を下げ、ガクリと震える。
すると、アヌビスが口を開いた。
「イバラが言ってるのは本当だぞ。
ついこの間、赤毛の男がこの城にやって来たんだ。」
「え?まじ?」
「アヌビスは信じるの!?」
イバラは驚くが、騒がしい。
どうやら俺たちが留守の間に、赤毛の男が城を訪れ、戦闘開始。
それで、散らかしていったらしい。もちろん、赤毛の男は俺たちにとって脅威だったようで、彼は魔王と名乗ったらしい。俺に伝えたいことがあったようだ。
「我が君、恐らく魔王の中の一番な古株、
魔王サタンだと思われます。」
さすが昔からいる悪魔サマエルが、静かに解説する。なるほど、そんな魔王が俺に会いに来たのか。
「ところで、我が君。
その耳は?」
サマエルが俺の耳の件について触れて来た。
俺の左耳は、今包帯を巻いて耳を隠している状態だ。
まぁ、いつでも治せるんだが、なんか治したくない。
油断した俺への戒めとして残しておくことにしたのだ。
「訳あってね、気になるなら、、髪で隠すよ。」
そうして俺は髪を片方伸ばし耳を隠した。
(包帯、私とお揃い………)
サマエルは一人微笑みながら見つめる。
「僕と同じ……狙ってる?」
アスがそう言って近づいて来た。
めんどくさいやつである。お前は反対だろうが
「っていうか、髪伸びると案外ライト女の子みたいだね!中性的な顔だし……」
アスがそう言って俺の頬をつまんでくる。
まぁ、確かにこの世界に転生した時から思っていたが、俺の顔は案外美形である。
とにかく髪型を変え、姿を新しくしたのだった。
その時、蒼が水晶を差し出した。
「これを主人様に渡してって……」
俺は眉をひそめつつ、配下の目の前で水晶に触れる。
水晶の中に赤い髪をした男が浮かび上がった。恐らく、魔王サタンだ。男は静かにこちらを見据え、口を開いた。




