第三話 二人目の配下
「すっかり、日が落ちたな……」
俺がそう呟くと、後ろを呑気についてきているアスが、足を止めて何かに気づいたように振り返る。
「城の鍵閉め忘れた……」
その言葉に、俺はふと頭をよぎる。あの城、そんな家みたいな感じなのか?
俺の視線を感じたのか、ヴルドも小さく反応する。
《まじか、》
「マジかじゃねぇよ」と心の中で突っ込みつつ、俺は帰ったら城の内部も少し探索してみようと考える。古くからある城だから、きっとボロボロだろう。
そんなことを話していると、ヴルドが先ほど言っていた通り、広大な森の中にぽつんと佇む古びた小屋が見えてくる。
「ここか?」
俺がそう言いながら、慎重に近づいていく。
その瞬間、アスは再び何かに気づいたような表情を浮かべ、俺に警告する。
「待って!、まだ……」
しかし、次の瞬間――扉が激しく突き破られ、小屋の中から一人の男が飛び出して俺に向かって蹴りを繰り出す。
反射的に後ろに退避し、間一髪で避ける。だが、男の額には2本の角が生えていた。
「鬼か?」
俺が問いかけると、アスは答える。
「鬼人、かな……」
その男は悠然と酒を片手に持ち、俺を指差す。
「俺様の名前は、酒呑童子。お前、何者だ?、とてつもない魔力量で……」
酒呑童子――こいつの名前か……。
しかし、「魔力量?」何を言ってるんだ?
俺がそう思うと、アスが答えてくれた。
「そういえば、ずっと近くにいて麻痺ってた……主人の魔力量、かなり広い範囲で大きいかも。
少し抑えてみて」
アスの冷静な指摘に、俺は改めて自分の成長を実感する。
なんと、それほどまでに力が増していたのか……。
俺は魔力を抑えてみると、辺りからひょっこりとさまざまな魔物やモンスターが俺たちをじっと見つめている。
やはり、強大な魔力が周囲の生き物たちを恐れさせていたのだ。
悪いな……と小さく心で呟く。
今のランクはSだと思っていたが、魔王になったことでSSまで上がっているかもしれない。
そんなことを考えていると、酒呑童子が拳を振り上げる。
「よそ見をするな!」
俺はすぐに回避し、剣を構えて踏み込む。
だが、斬りかかった次の瞬間――剣の刃が粉々に砕け散った。
「嘘っ!」
衝撃の余波で顔面に勢いよく拳が直撃する。
最悪だ……。
「待て!、話をしにきたんだ、酒呑童子!」
しかし、酒呑童子は聞く気がないようで、すぐに再び攻撃を仕掛けてくる。
「倒すしかないみたい……」
アスが岩に腰かけ、膝の上にスライムを乗せながら観戦しているのを横目に見る。
随分呑気だ。
空は暗く、月明かりだけが戦場をかすかに照らす。
やるしかないか……しかし、武器がないな。
その考えに、ヴルドが応える。
《魔王たるもの拳で戦えるようになれ。それに、魔王になって力がアップしたんだ。人間の武器がまともに使える訳ないだろ。今回はサービスだ。》
そう言うと、ヴルドは俺の指を切り、血を一滴垂らす。
その血から生まれたのは――血で生成された槍だった。
「ありがたい……」
俺は槍を構え、酒呑童子と対峙する。
今回は話をするために、一旦眠らせるつもりだ。
俺は意を決して、酒呑童子に向かって走り出した。
酒呑童子の近距離からの攻撃を、俺は軽くかわす。
彼の鋭い蹴りや突きは確かに危険だが、俺はあえて自分の能力を使わず、槍を手に中距離から戦うことにした。
あまり、自分の力を外に出したくないのだ。
しかし、酒呑童子は一歩も引かず、怒涛の勢いで次の攻撃に移る。
赤く丸いボールのようなものが無数に空を舞い、まるで雨のように降り注いでくる。
それが近づいてきた瞬間、全部が同時に爆発し、あたり一面が轟音とともに破壊されていく。
木々は耐えきれずにバキバキと倒れ、地面は裂け、土埃が舞い上がる。
その混乱に紛れ、俺は倒れた木々の影から瞬間的に前に出る。
狙いを定め、酒呑童子の頭を思いっきり叩きつけた。
「………」
酒呑童子が、驚きの声も出せず目を覚ます。
再び戦闘態勢を取ろうとする彼を、アスが瞬時に封じる。
「ミスティックチェーン、、ライトが好きな魔法だね……」
「……嫌いだよ、」
俺は小さく吐き捨てる。忌々しい魔法だ。
その間に、俺は酒呑童子にここまでの経緯を説明した。
「なるほど、魔王ね……世界を滅ぼすのか、
面白い。お前の配下……
俺様としてはここでずっと一人の予定だったが、
お前といれば大勢で、かつさらなる強さが得られる。いいだろう、配下になる。」
話せば意外とわかる奴で安心した。
酒呑童子の目には興奮に満ち溢れていた。
そう聞くと、アスは魔法を解き、酒呑童子と俺は固い握手を交わした。
こうして、二人目の配下が揃ったのだった。
色々あったかが、二人の配下が集まり、一先ず俺たちは城に戻った。
城に戻ると、俺は復元魔法を使い、廃れかけた壁や剥がれた床、割れた窓までもが最初の状態かのように美しく整えられた。
《あら、びっくり。》
どこからか声が響く。まるで主婦が掃除の成果を誇らしげに見せるような、そんな声だ。
ヴルドだった。
中に入ると、かなり広い空間が広がっていた。一階には書斎や食堂があり、それぞれ十分な広さを持つ。ほかにも空き部屋があり、二階に上がれば各自の部屋にできそうだ。
そして一階の奥、堂々とした柱が幾本も横に立ち並び、最深部には玉座が鎮座していた。
俺が座る席だ。
素晴らしい……。こんな広いスペースをあまり使用していなく、掃除は案外楽だった。
多少の老朽化だけだ。
《一人だったからな……》
誰かさんの寂しそうな声が俺の中から聞こえるのは気のせいだろう。俺は玉座に座り、アスと酒呑童子、シドウを見下ろした。
酒呑童子は長いので、シドウと略すことにした。
酒呑童子は赤黒い和服のような豪華な服をまとい、威厳すら感じさせる。
「で?コレからどうするんだ、ライト。」
シドウが鋭い目で問いかける。
「流石にまだ仲間を集めないと、世界は取れないしな……」
俺がそう答えると、アスが満面の笑みで掲げる。そこには森から連れ帰ってきたスライムがいた。
「なにそれ、」
俺が尋ねると、アスは無邪気に答えた。
「スライム!」
見ればわかる。スライムをこんなにも嬉しそうに抱えて連れ帰ってくる悪魔が他にいるだろうか。
どうやら、このスライムも仲間にしたいようだ。
まぁいい。
「世話はきちんとするんだぞ?」
俺が念を押すと、アスは目を輝かせながら力強く頷いた。
うん!、と大きく答えるその姿は、まるで子供そのものだ。
その時、城の門の方から轟音が響いた。
慌てて門へ駆け寄ると、そこには一人の眼鏡をかけた高身長の男と、その隣に一匹の狼、さらに凛とした佇まいの美しい女性が立っていた。
「どうも。あなたがここの魔王で?」
男は礼儀正しく帽子を外して挨拶する。
帽子を外したその頭には、山羊の角のようなものが生えていた。
誰だ……?と思う間もなく、アスはすぐに反応した。
「めんどくさいのがきた……」
スライムを抱えたまま、アスは嫌な顔をして
ため息をつく。
「……」
シドウは鋭く目を細め、警戒の姿勢を崩さない。
「……どうも、あなたは?」
俺が問いかけると、男は一歩前に進み、俺の手を取った。
「私の名前は、バフォメット……魔王です。」
その声には冷静で威厳のある響きがあり、同時にどこか神秘的な色気が漂っている。
男は城の中に踏み込み、その視線は迷いなく玉座の方へ向けられた......




