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第二十七話 思い出

 シドウは自分の刀である焔蓮丸(えんれんまる)を振り抜き、刃は熱を帯びながら彩の右腕を鮮やかに断ち落とした。

 切断面から蒸気のような魔素がふわりと立ち昇る。


「おいおい、いい加減倒れてくれねぇか?

 可愛くねぇぞ、」


「言われ慣れてるよ……」


 彩は肩をすくめると、落ちたはずの腕の断面から黒い糸のような魔素を伸ばし、瞬きする間に腕を再生させた。骨、筋肉、皮膚が“巻き戻すように”組み上がる。


「大丈夫?すぐきたよ」


 瓦礫を蹴り上げながらアスが到着した。息はほとんど乱れていない。


「……あそこもか、」


 彩はわずかに顎を上げ、遠く――学園の方向を射抜くように見つめた。

 視線の先ではアレクシスやリガルドらがこちらに気づき、動き始めている。


(はぁ、あれも来るとなるとめんどくさいなぁ、)

破片嵐(はへんらん)。」


 彩は片手を前へ突き出し、周囲に散らばる瓦礫の破片たちをふわりと浮かせた。その数は数十個、いや百を超える。

 次の瞬間、指先を軽く弾くと、それらは一斉に弾丸のように学園へ向けて放たれた。


「おい!なんか飛んでくるぞ!」


 リガルドが叫び、イザベルの手首を掴んで建物の陰へ引きずり込む。

 アレクシスの前では、カミラが両手を掲げ、巨大な防護魔法を展開した。

 瓦礫の雨が空気を裂きながらぶつかり、火花のような魔素が散った。


「本当めんどくさ、」


「よそ見するな!」


 アスの拳が彩の頬にめり込み、彩の身体は流星のように市街地方向へ吹き飛んだ。

 地面を何度も跳ねながら、摩擦で火花を上げる。


「けど、あいつ物理攻撃効かないんじゃないか?」


「だろうね……でも魔法もあんまだよ?

 何が効く?」


「「…………あれしかないか、、」」


 二人は目を合わせ、静かに頷いた。


 ―――――――――――――――――――――


 飛んできた彩の体が石畳を削りながら転がったのを見て、レイン王国の住民たちは皆、足を止めて困惑の表情を浮かべていた。

 当然だろう。突然空から落ちてくる人間など、誰も想定していない。


「……限界、、何もしてくる気無かったの?アイツら、ただの気を逸らすためにいただけ?

 にしても、あの子...力隠してるな、」


「鋼谷!」


 耳慣れた声が響き、彩はとっさに首を横へひねる。

 頬のすぐ横を、アレクシスの刃が風を切って通過した。


「あそこからここまで、徒歩で来たんですか?会長、」


「足は速い方なんだ。ところで君は何者なんだ?」


「教えないよ、脳筋会長」


 彩は軽く指を鳴らした。

幻轟(げんごう)。」


 直後、横合いからエンジン音が唸り、トラックが街角を破壊しながら突っ込んできた。

 アレクシスはまるで風を切るような動きで剣を振り、トラックを“紙のように”真っ二つへ切り裂く。


 後方からリガルド、カミラ、イザベルらが駆け寄ってくる。武器を構え、殺気を滲ませながら。


 リガルドは魔法の教科書を盾のように抱えており、イザベルは槍を肩へ担いでいた。


「うわ、ちゃんと武装してるじゃん……」


「アイツら二人ばっかりに、負担はかけられねぇよ!」


「何対一だよ……卑怯だな、来て!」


 彩が手を叩いた瞬間、背後の影がぶわっと膨らむ。

 そこから現れたのは、漆黒の羽を広げた巨大なカラス。体長は家屋よりも大きい。


 アレクシスでさえ、わずかに後退した。


「まじか……」


「これなら、少し人数差埋められたかな?」


 彩は滑らかにカラスの背へ跳び乗り、そのまま空へ舞い上がる。

 瓦礫の町並みが一気に小さくなった。


「空中じゃ、いけない、、」


「また、あの2人に行かせるのか?」


 イザベルとリガルドが空を見上げながら呟く。


 その瞬間、アスとシドウが戻ってきた。


「あれ?なんで……」


「戻れって……2対2をするそうだ」


 シドウは淡々と状況を説明した。


「あいつ物理攻撃あんま効かないし、すぐ再生しちゃう、だから数でやるより弱点のライトを向かわせた方がよっぽど良いよ、、」 


 アスも何やら不満気に、そう呟いた。


 その時、空気が裂けるほどの風切り音が町に響き渡る。


 巨大な影――彩のカラスより少し大きいぐらいの“黒い塊”が空を切り裂いて登場した。


「……彩!決着つけようか、」


「.......うわ!ハハッ!なにそれ……面白いじゃん!」


 彩は、ライトを、見つけ先ほどの殺意に満ちた表情が嘘のように、笑顔を向ける。

 それは、まるでどこにでもいる普通の女の子のような笑顔だった。


 現れたのは黒竜・クロ。

 黒曜石のような鱗が光を吸い込み、翼の一振りで街の空気が波打った。


「黒竜!?時間稼ぎってあれかよ!」


 リガルドが叫びながら空を仰ぐ。


「わざわざ戻ったんだって城に……」


 アスは呆れたように吐き捨てた。


 黒竜の背に跨った俺は、遥か下の仲間たちを見下ろした。

 全員がこちらを見上げている——注目されるのはいつものことだが、こういう時は妙に背中がむず痒い。


「魔王……俺たちはそこまで行けない、蹴り付けて来い!」


 アレクシスの声が地上から届く。


「そのつもりだよ……最初から、彩とはね!

 クロ?いけるな?」


「主人様!任して!!」


 クロは雄叫びを上げ、急上昇。

 風を切り裂きながら彩のカラスへ肉薄していく。


「ライト!死相にはそれぞれ名前が付いてるんだよ、私は、クラッシュ!ほら来なよ……」


「クラッシュって、亀か!」


 俺は彩へ向けてダークの銃を構え、魔力を込める。

 銃口が蒼い火花を散らし、弾丸が放たれた。


「……遠距離武器、」

 彩はすぐに避けるも耳を掠めたようだ。


「入ったな!」


「やったな、、ハ!」


 彩は口角を上げ、足元のカラスの羽を踏み込みながら指を鳴らす。

 周囲の瓦礫から細い鉄骨を次々と“抜き出し”、槍のように投げ放ってきた。

 その速度は雷撃に等しい。


 全ては避けきれず、鋭い痛みが左側頭部を走る。


 耳が――飛んだ。


「……やられた、、」


「ふふ……2、3発目が重要なんだよ?」


 彩の笑い声が、空の冷気に混じって響いた。


 ―――――――――――――――――――――


 クロの背に乗った瞬間、耳を切り裂くような風圧が肌を叩く。

 黒き翼が大気を裂き、上空へと跳ね上がる。その度に、空そのものが震えているかのようだった。


「主人様!?」

「モーマンタイ……仕掛けるよ、もっと近づけ」

「はい!」


 クロの声は興奮にわずかに震えていた。

(主人様!ちょーかっこいい、)

 胸の奥がキュッと締め付けられるような、従魔としての本能的な高揚がクロを包み込む。


 黒翼が一閃。

 瞬きすら許さない加速で、クラッシュとの距離がみるみる溶けていく。


 しかし――クラッシュはそれを許さない。


「近づけさせないよ!天災(てんさい)。」


 クラッシュの周囲で突如、空気が弾け飛んだ。

 破壊された鉄骨や瓦礫が旋風に巻き上げられ、弾丸の如くライトへ向かって飛来する。

 風圧で空が捻じれる。

 まさに“竜巻を纏った弾丸”そのもの。


「クロ!撃ち落とせ!」


「了解!黒滅咆アビスロア!」


 クロの口から、闇そのものが凝縮した禍々しい光柱が迸った。

 地形すらえぐり取る漆黒の砲撃が、迫る鉄骨を触れた端から蒸発させ、風圧を逆巻かせて押し返す。


 ――重い。

 ――黒い。

 ――強い。


 あれ、こいつ……こんなえぐい魔力量だったか?


 ライトが驚愕を覚えるほどに、クロの力は今、主人への忠誠心と高揚で極限まで引き出されていた。


 爆風を切り裂きながら距離が詰まる。

 クラッシュのスピードは速い。速すぎる。

 だが、限界は見えた。


「これが速さ、限界?」


 クラッシュのカラスが悲鳴をあげる。

 その加速は既に爪が剥がれ落ちる寸前のように振動している。


 ここまで近づけばもう逃がさない。


 彩の身体には物理耐性がある。

 完全無効ではない。ただ、回復が異常に早いだけだ。

 ならばその再生速度を上回るだけ。


 準備は出来ている。


 そして、脳裏に浮かぶのは――

 訓練場で、自分より強さを隠して笑っていた彩の横顔。


(やっぱり、あいつ強かったんだよな……)


 ライトは小さく笑った。


「ここまで近づければ上出来だ!

 彩……花火好きだったよな、アレも嘘か?」


「え、いやホントだよ………まさか、!」


 彩が一瞬、瞳を揺らし距離を取ろうとする。

 だが、その時にはもう遅い。


 ライトの瞳が変わった。

 右目は火星のように燃える赤色の光。

 左目は天王星のように淡く冷たい水色。


 二つの属性が同時に目覚める瞬間、空気が収縮し、世界が一瞬だけ静止した。


 火星が生む高熱の炎球。

 冥王が放つ死寂の閃光。


 相反する光がライトの指先へと集束し、混ざり合い、脈動し、

 ひとつの“花”となって放たれた。


 爆ぜる。

 弾ける。

 空を裂き、夜空を染め、世界に大輪の火花が咲く。


 その輝きは破壊の技であるにもかかわらず、あまりにも美しく、

 彩が好きだと言った“花火”そのものだった。


紅冥衝ブラッドノヴァ……綺麗でしょ……?」

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