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二十五話 正体

 夕方、訓練場。

 沈みかけた太陽がオレンジ色の光を落とし、荒れた地面の上に長い影を引いていた。

 木製の人形や砕けた岩が散らばるその場所で、ひそひそとした声が響く。


「コウキって、セコしたんじゃねぇか?」

「なんで?」

「考えてみろよ、、筆記赤点なのに実践テスト満点なんて……」


 砂埃の向こう、男数人が集まり、こちらをチラチラと見ては嘲るように笑っていた。

 彩の表情がピクリと動く。

 細い腕を組み、その指先にだけ、妙に力がこもっている。

 袖が引きつり、布がわずかに歪むほどだ。


 その気配に気づいたのか、男子たちは一瞬肩を跳ねさせ、顔を青ざめさせてから慌てて立ち去った。

 背中には「関わっちゃいけない」と言っているかのような焦りがにじむ。


「彩!待った?」

「ん?ああ、、大丈夫!昨日の続き、訓練しよ?」


 彩は笑ったが、笑みの奥にどこか硬い影があった。

 それでもいつも通り、二人で剣を振り、魔力を流し、呼吸が白く濁るまでやり込む。


 太陽が沈み、空が濃い群青に変わった頃。

 彩がふと訓練の手を止め、俺の袖を軽く引いた。


「………ねぇ、そろそろ帰ろう」


 珍しい。

 いつもは俺のほうが先に「今日はここまでにしないか」と言うのに。


「分かった……」


 訓練場の空気は夜気に冷え、二人の吐息だけが白く揺れて消えていった。


 ――――――――――――――――――――――


 学食。

 湯気の立つプレートと喧騒が渦巻く昼休み。

 俺たちのテーブルに、リガルドの間の抜けた声が落ちる。


「……やっぱり、ドウジの友達って、美男美女が多いな、、」


 俺とアスカの顔を交互に、ほぼ値踏みするように眺めてくる。


「そんな見んな。」

「それな、」


 俺とアスカの声がぴたりと揃い、リガルドは「おぉ」と苦笑いした。


 アスカの隣には、最近仲良くなったイザベルが

 アスカと同じメニューをモリモリ食べている。


「でも、アスカちゃん可愛いよね」


「は!?

 いや、、別に可愛くないよ……」


「ほら可愛い、」


「……うるさい!」


 アスカは顔を赤くして、爆速でご飯をかき込んだ。

 米粒が散る勢いで。


「おう、君たちは今日も元気だな、」


 声をかけてきたのは、生徒会長アレクシス・モルテス。

 整った顔で苦笑しつつ、後ろから副会長のカミラ・ローゼンがじろりと睨む。


「会長、まだ来月の会計の書類終わってないんですからね?」

「分かっている、」


 二人とも、気軽に挨拶を交わす程度には距離が近くなった仲だ。


 因みに、イザベルは槍使いで、赤の1組の生徒の中でも上位の実力があるらしい。


 学園生活が、安定して来た。

 俺は、ずっとここにいたいレベルだ、

 世界を滅ぼすことを忘れてしまうほどに楽しい、

 だが、死相を探して倒すまで後1週間だ。

 非常にまずい。


「そう言えば、、あの人はどうなったんだ?

 コウキと仲良かった鋼谷さんは?」

 おっと、リガルドが痛いところをついてきた。

 実はあの訓練以来、しばらく顔も合わせてくれないのだ。


 現に今この場にいない。

「最近避けてる気がして、、俺何かしたかな?」

「いいよ、あの女なんか嫌な予感するし……

 コウキは、悪くないよ。」

 アスカがそう言っているが、、こいつの言葉は信用できない。 


 そして、こいつは俺のトンカツのカツだけ持って行こうとしている。

 一番美味しいところだ。

「阻止。」

 俺はアスカの箸をへし折った。

「ああ!!」

 にしても、この世界前世の食べ物が結構あるな、、

 文化なども多くある。

 そんなことを思っていると、急に俺の制服の胸ポケットに手紙が入っていた。


 開けば、彩の字。


 “今日の夕方、いつもの訓練場で”


 胸の内がざわつく。

 期待か、不安か、自分でもよく分からない。


 夕方。

 訓練場に行くと、茜色の光に染まる彩がいた。

 横顔は儚げで、それでいてどこか決意を秘めている。


 振り返った瞬間、彩はふわりと微笑む。

 その仕草に胸が痛むほどに締めつけられた。


 彼女と過ごした三週間、

 訓練、勉強、他愛もない会話。

 その全てが心に深く刻まれている。


 俺は、少しこの彩という女の子に心が惹かれてきているのかもしれない。


 だが、一緒に過ごせば過ごすほど、胸の奥で“ある確信”が形を取っていく。


 ――――――――――――――――――――――


 生徒会室。


「会長?どうしたんですか?」


 アレクシスは書類を片づけながら、名簿の一枚にじっと目を落としていた。

 その視線は鋭く、嫌な結論へ向かっているようだった。


「いや……やっぱりな、

 入学当初から思っていたが、この生徒に関する情報が一切無いんだ……コウキ達のは、まぁまだあるが、、」


 カミラが怪訝な顔を寄せる。


 それでもアレクシスは淡々と事実を告げる。


「それにこの生徒、コウキが近くにいた時に現れるからな、、少しつけてみた。」


「ストーカーですか?」


「違う!、多分……で、調べた結果やっぱりこいつ、うちの学園の生徒じゃない、、」


 ごくり、とカミラは喉を鳴らす。


「その生徒の名前は?」


 アレクシスは目を閉じ、短く告げた。


「青の2組……鋼谷彩だ。」


 ――――――――――――――――――――――


 彩と接するたびに、胸の奥で嫌な形が濃くなる。

 信じたくない。

 だが、避けられない。


 だが、確定だろう。彩は――“死相”だ。


 訓練場には俺と彩、二人きり。

 風が止まり、周囲の空気が妙に静かだ。


 彩が一歩近づき、かすかに寂しげな目で俺を見る。


「……来てくれたんだ。」

「ああ、来たよ。」


 両手は空。

 姿勢は無防備。

 だが、そこにある緊張は刃物のように鋭い。


「そっちが悪いんだよ。

 こっちもさ、、だんだん少し思ってきちゃって……

 もう我慢できないの、楽しかったけどさ、

 このままだと本当に惚れそうだから、今のうちに殺すね?

 魔王ヴェノム……いや、ライト・ウィリアムズくん。」


 その瞬間――空気が歪んだ。


 視界の端から“ありえない音”が迫る。

 金属の塊が突っ込んでくる轟音。


 トラックだ。

 どこから湧いたのか分からない。

 だが実体を持ち、殺意を帯びて迫ってくる。


 跳んで避ける。

 だが、その先には空中から降ってくる鉄骨の雨。

 一本一本が“確実に殺す”角度で落ちてくる。


 それも避けた。

 だが――


「速いね……ヴァルヴィスさんに勝っただけはある、」


 横から飛び込んだ彩の蹴り。

 残像が三つ見えるほど速い。

 胸がきしむ衝撃が全身に走る。

 肺の空気が一気に抜けた。


 迷いはもう捨てるしかなかった。


 俺は姿を元の姿――白髪、シアンの瞳、白を基調とした衣装へ戻した。

 蒼白星を抜き放つ。


「完全にフルパワーできたか……」


 そう呟き、彩はゆっくりとナイフを胸へ突き立てた。


 刹那、血の色が爆発したように広がる。

 血管が浮き上がり、皮膚の下で蠢き、鎧のように身体を覆う。

 鉄筋、トラック、人の腕のような形が浮かび上がる“死の模様”。

 瞳は血のように赤く光り、額から首に黒い三本線が目の周りを含め、滲み広がった。


 人間の面影を残しながらも、“死神”そのもの。


「ヴァルヴィスに、俺は勝っていないぞ。」

「そうなんだ、、まぁ、じゃ、行こっか……」


 彩が地を蹴る――その直前。


「アス!シドウ!来い!」


 訓練場が爆散した。

 真上から落ちてくる二つの影。


 赤髪を揺らし、焔蓮丸を握り締めるシドウ。

 そして黒翼を広げ、悪魔のように笑うアス。


「待ちくたびれましたよ!主人!」

「暴れていいよね?主人!」

「もちろん!本気で行くぞ!

 ......仕事の時間だ...!」


 彩の赤い瞳がこちらを射抜く。


「ええ、みんな来るの?

 めんどくさいなぁ、、もっと速く仕留めれば良かったかな……」


「そうかもな、、最初の時点で一人ずつやっておくべきだった。」


「君たち、一人でもかけたら怒りそうだからさぁ、まとめてやりたかったんだよ、、まぁ、関係ないね。

 今から消すから……」


 彩は不気味に微笑んだ。


「ああ、かかって来い。

 俺たちもそうする。」


 夕陽の残光が三人の影を伸ばし、

 そして“死相”との決戦が始まった。

ライト達の名前にずっと違和感がありましたが、ようやく直ってしっくりです。

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