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番外編 葛藤

「やぁやぁ、遅いじゃないかコウキ……女の子を待たせるんじゃないよ?」


 彩が、柔らかくも少しからかうような声で俺を見つめ、手招きする。その表情には微かな笑みが浮かび、でもどこか期待しているような、じれったい空気が漂っている。

 今日は休日で、俺たちはこの日を楽しむために、あらかじめ待ち合わせをしていたのだ。学校では制服で顔を合わせているが、今日は私服でいる、その為少し緊張するのだ。


「おう、ごめん……にしても早くね?」

 俺の視線は、彩の服装に自然と引かれる。動きやすそうなズボンに、シンプルだがどこかカッコいいラインのジャケット。可愛いというより、どこか凛々しい印象を与える服装だ。前世ではこういう感覚には全く疎く、女子の服装にときめくこともなかったはずなのに、今日は何故か気持ちがざわつく。


「コウキが遅いの。」

 言葉は短いが、その声には少しの不満と、ほんの少しの甘えが混ざっているように感じた。

 俺は苦笑しながら手をかざす。「はいはい……」と返すが、心の奥では、俺もこの日を少し楽しみにしていた。


 彩はそのまま俺の手を取り、自然な流れで手をつなぐ。手のひらの感触は、柔らかく温かい。歩幅も意識的に合わせてくれていて、歩くリズムがぴったりと重なる。普段の教室では見せない、こんな親密な距離感に、俺は少しだけ緊張する。


「ほら!いこ?」

 彩の声に引かれ、俺は軽くうなずく。今日の目的は、レイン王国の街を彩が案内してくれるというものだった。彼女の手を握ったまま歩くと、街の景色はいつもより鮮やかに見える。空気の匂いも、日の光の角度も、すべてが少し特別に感じられた。


 武器屋に入り、店先の剣や魔導器具を見ながらふと彩を横目で見る。彼女は楽しそうに目を輝かせ、時折俺に小さな説明を交えてくれる。笑顔は屈託がなく、でも時折見せる鋭い目線が、普段の学校の彩を思い出させる。


 次に入ったカフェでは、柔らかな光に包まれ、二人だけの空間が広がった。窓の外では、街路樹が風に揺れ、夕暮れのオレンジ色が室内に差し込む。彩は少し恥ずかしそうに、でも楽しそうに注文を待ちながら、俺の顔をちらりと見る。その瞬間、俺は心臓が少し速くなるのを感じた。


 その次には、海に行った。

 海まで駆けっこをして、最初は彩がリードしていたものの、最終的には俺が勝った。

 その後、水をかけられかけ返したら、何倍にもなって帰ってきて思いっきり耳に入って災難だった。


 気づけば、あっという間に夜になっていた。俺たちは街外れの丘に立っていた。レイン王国全体が眼下に広がり、街灯の明かりが星のように輝く。周囲には、カップルや家族連れが静かに景色を楽しんでいる。


「……綺麗でしょ?…」

 彩はポケットに手を入れ、何か小さなものを握っている様子だ。頬が赤く染まり、視線を逸らすように後ろを向いたまま言葉を続ける。


「え、?彩が、?」

 俺が思わず声を漏らすと、彩は慌てて目を見開き、否定した。

「……!、、違う、!あの、景色だよ!」

 初めて見る、焦った彩の顔。普段は冷静で少しからかうような表情ばかりの彼女が、ここまで動揺している姿は、なんだか新鮮で、胸が少し高鳴る。


「ああ、うん。綺麗……ここは残そうかな…」

 俺が無意識に呟いてしまった。


「残す?」

「……いや、まぁそのね……」

 最近平和すぎて、自分が魔王ということを忘れてしまう、、


「……目瞑って、」

 彩の声は震え、でもそれを必死に隠そうとしているようだった。俺は目を閉じる。すると、手のひらに小さな温もりが伝わり、彩の存在をより強く感じることができた。


「こんなのもわからないの〜?魔法の基礎だよ?魔力の質量……本当はコウキは1組だった?」

 ふと、学校での勉強や図書館でのやり取りを思い出す。彩は時折真剣に、でもからかうように俺に知識を教えてくれた。


「……かもしれん。」

 俺は小さく答えた。

「ハハッ、真顔で言われても……なら、赤点回避したら、君に魔導書をあげよう!きちんと勉強したまえ!」

 彩のからかう声に、俺は思わず笑ってしまう。

「ほんと!?」

「うそ!持ってない。」

「人を揶揄うな。」

「はいはい、、」


 《魔導書欲しかったのか?》

 ヴルドが俺にそう聞いて来た。

 別に、強い魔法を覚えたかっただけだ。十八番の魔法を手に入れたいだけね。


 ――――


「……ん?」

 何かを感じて目を開けると、彩は後ろを向いたままだった。

「やっぱ何でもない……帰ろ?楽しかったよ!」

「ああ……」

 少し不思議な雰囲気をまとった彩。今日の彼女は、普段以上に柔らかく、でも何か秘めた想いを抱えているように見えた。俺はその姿を見つめながら、静かに胸の奥で考える。

 信じたくない、"死相"の事を


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