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第二話 内なる魔王

「で、どうするのライト。」

 玉座の上に腰を下ろした俺に、アスが片手を腰に当てながら軽い口調で問いかけてきた。


「何が?」

 俺は肘を肘掛けに乗せ、少し視線だけを動かして返す。


「いや、世界滅ぼすにしても2人はちと舐めすぎじゃない? 世界をさ……」

 アスは肩をすくめながら笑った。彼女の紅の瞳が、まるで冗談を言っているようで、しかしどこか本気にも見える。


 確かに、いくら俺が元勇者といっても、世界にはまだ強者が山ほどいる。俺たち2人だけで太刀打ちできるとは到底思えない。


 俺は少し息を吐き、アスを見つめる。

「……試しに、解析眼で見てみるか。」


 瞳に力を込める。視界に刻まれるはずのアスタロトの能力情報。

 だが――何も見えない。


「? 能力見えないんだけど、」

 眉をひそめて言うと、アスはひらひらと手を振って笑った。


「ん? ああ、出すとさ他の魔物達がビビっちゃうから封じてるの。ごめんね、いつか見せるよ……」

「、? そうか、、」

 俺は納得したように頷いたが、どこか胸の奥に既視感が残る。

 このやり取り――どこかで、昔にも話したような感覚がする。いや、気のせいか……。


「じゃあ、仲間探しに行く?」

 アスが軽やかに言った。まるでピクニックにでも出かけるような言い方だ。

「そんなどっか食べにいく? みたいなノリでいく? 普通、」

 俺は呆れたように言い返したが、彼女は気にする様子もなく、笑って肩をすくめた。


 ――そうして、2人は世界を滅ぼすための仲間を探しに行く……はずだった。


 《おい待て、勇者の小僧………》


 不意に、頭の奥に低い声が響く。直後、俺の右腕が勝手に動き、アスを殴り飛ばした。


「っ!」

 アスの体が宙を舞い、背中から壁に叩きつけられる。石壁が鈍く音を立ててひび割れた。

 だが、アスは瞬時に魔力の防壁を展開し、無傷で着地する。


「……今のは……」

 俺は右腕を見つめた。その感触、その力――明らかに、俺自身のものではない。


「……? どうしたんだ?ライト……」

 アスが警戒するように問いかけてくる。俺は首を横に振った。


「俺じゃない、、今のは……」


 その瞬間、俺の右手が勝手に拳を作り――自分の頬を殴りつける。


「痛っ!」

「自傷行為か!」

 アスがツッコミを入れるが、そんな余裕はない。右腕が完全に制御を失っている。


 《ちくしょう、、どうなってる……身体までは行けているのに、脳に到達しない……》


 脳内に、低くざらついた声が響く。

 その瞬間、俺の瞳が一瞬オレンジ色に輝くも、すぐに元のシアンへと戻った。


 アスが冷静に片目を細め、解析眼を発動する。瞳に走る光の線。

 数秒の沈黙の後、彼女は小さく息を吐き、興味深そうに微笑んだ。


「なるほど、、ライトが倒した魔王、、入ってるよ。ライトの中に……」


「……何?」

 思わず聞き返す。だが、頭の中でひとつだけ思い当たることがあった。


 ――あの時。

 魔王を剣で貫いたその時、

 腕にあったその傷に、奴の血が流れ込んだのだ。その時は気にならなかったが、まさか、、


 《そのまさかだ。

 お前の、勇者の体を油断した時に乗っ取ろうとしたら、魔王になろうとするし、訳がわからん!》


 頭の中で響く怒鳴り声。

 訳がわからない、それはそうだと自分でも思う。

「なるほど、、それでまぁ今のうちに仕方ないから乗っ取ろうとしたわけか、ライトを…」

 アスは顎に手を当て、面白そうに呟いた。


 脳内に直接語りかけてくる声――だがアスにも聞こえているようだ。

 テレパシーの共鳴か。ということは、俺の思考も、声も……全部筒抜けなのか?


 俺がそう考えると、アスは「正解」とでも言うように、片手で丸のポーズを作って笑ってみせた。


(マジかよ……)


 と言うことは、天使が言ってたことは合ってるのか、

 なら、俺が生き返らない理由も説明がつく。

 奴はまだ死んでいない。俺の中で生きている。


「――ってことは、」

 俺は剣を抜き、震える右腕を見つめた。

「腕を切り落とせば……!」


 刃を振り上げた瞬間、右腕が勝手に動く。

 傷口から血が流れ、それが鋭い刃の形に変わって、俺の剣を受け止めた。


 《何をしている?》


「俺は、腕を切り落とす。

 そんでお前を殺す。腕は後からでも再生できるからな、、」


 俺が吐き捨てるように言うと、アスがぱぁっと目を輝かせた。


「へぇ〜、魔王になってそこまで再生能力とか上がったのか!前よりも早いスタートじゃないか!」


 感心してる場合か! 俺は眉を吊り上げて叫ぶ。


 《別にいいが、俺はお前の脳以外は全て乗っ取る準備は出来ている。腕以外にもすでに回っているんだ。

 それに、腕を切り落としたところで腕が再生すれば俺も再生するぞ? お前はもう、俺自身だからな》


 冷酷な声が響くたびに、体の中の血が熱く泡立つような感覚がした。

「……と言うことは、俺が死ぬしかないのか……」


 俺がそう呟くと、内側の魔王が小さく頷く気配を見せた。


 《そう言うことだ。》


 張り詰めた沈黙。

 その中でアスが、ゆっくりと玉座に腰掛け直した。


「死んじゃダメだよ、」


 その言葉は静かに、けれど不思議なほど優しく響いた。

 まるで冗談のような口調でありながら、本当にそう願っているように聞こえた。


 《だが、俺としてもお前が死んでしまうと困る。俺が死ぬからな、契約だ、小僧。》

 その声は、空気を震わせるように響いた。

 深紅の霧が周囲に漂い、ライトの背後からゆっくりと黒い影が立ち上がる。

 その中心に、血のように赤く光る二つの瞳――ヴルドがいる気配がする。


 契約。

 またしてもその言葉を聞いた瞬間、アスが鋭く前へ一歩踏み出す。

「ちょっと待って!ライトは僕と契約してるんだけど!」

 声には焦りと、どこかに苛立ちが混じっていた。


 《なんだ?契約なんて、別に一つだけとは限らないだろ?》

 低く唸るような声


「そうだけど……」

 アスが少し視線を逸らし、足元を見た。

 ……嫉妬、か?

 ライトは無意識にそう思った。


 《俺の名前は、ヴルド………能力は血液の操作だ。

 ランクはSSS。俺の能力を使わせてやる、だがその分俺をここにいさせろ。殺すな。》


 その声には圧倒的な威圧があった。

 まるで心臓を直接掴まれたかのように、ライトに響く。

 なるほど……は?

 SSSランク?最高ランクだよな、なんでSの俺に負けた?


 疑問が脳裏をよぎると、ヴルドが眉をひそめるような声をする。


 《あれは、、俺が弱っていたんだ、それに人間だからと言って甘く見ていた、、都市もあったからな!

 この体にいたおかげで完全復活だ!》


 言い訳を並べるその声音が、少しだけ悔しそうにも聞こえた。

 ああ……多分、普通に油断したんだな。

 ライトは肩をすくめ、小さく息を吐く。


「わかったよ。アス、してもいいか?

 契約。」


 視線を向けると、アスは唇を少し噛みながらも、静かに頷いた。

 その表情には、不満と不安が入り混じっている。

 ……何故、俺にここまでこだわるのか。

 ライトは心の奥で小さく疑問を抱いた。


 契約の内容は単純だった。

 ヴルドをこの世界に留めておく代わりに、殺さないこと。

 その代償として、ライトはヴルドの能力を一部借りることができる。

 ただし――もしライト死ねば、ヴルドも死ぬ。

 ほとんど、コレは強制的な契約だ。


 《そうだな、合ってるが、二つ。

 俺はお前の配下ではないので対等に行かせてもらうぞライト。

 そして、もう一つ――俺はお前が、殺さない代わりに能力を貸す。

 お前が死ぬと困るからある程度の援助はするが、、戦闘の時、身体を少し貸してくれ。》


 ん?

 ライトは思わず眉をひそめる。

 契約内容にないことを、さらっと言いやがった。


「え、無理。」


 笑いをこらえながら軽く返すと、ヴルドのオレンジの瞳が一瞬まばたきをした。


 《なんで?》


 ……男子高校生みたいなノリだな。

 ライトは思わず吹き出しそうになる。


「だって、そうなったら人殺しそうだし。

 極悪な魔王ですよね?あなた。」


 《はぁ、わかった。世界を滅ぼす予定のやつに言われるのは癪だが、

 なら、お前に身体を貸して欲しい時はお前にきちんと頼むし、その時のルールに従う。

 だが、あくまでお前がヤバくなった時の最終手段でいい。

 だから、その時になったら貸してくれ。

 外の空気が吸いたい。》


 その言葉の最後だけ、ほんの少しだけ人間味があった。

 案外、きちんとしてるんだな。


「わかった。ヤバくなった時の最終手段ね。」


 ライトがそう答えると、ヴルドは静かに頷いた。

 契約が成立する。


 熱を帯びた光が手の甲に焼き付き、薄く紋章が浮かび上がる。

 その瞬間、ライトの体中の血の流れが一瞬で変わった気がした。


 こうして、ライトとヴルドの“契約”が結ばれたのだった。


「話終わった?」

 痺れを切らしたかのように、アスが腕を組みながら眉をひそめ、じっとこちらを見つめる。


「ああ、行くか」

 俺とアスは、二人目の配下を探すため城を出ようとしたその時、

 ヴルドが口を開く。


 《そういえば、森の奥深くに古屋がある。そこにはランクS級、成長すればそれ以上のいいのがいる。二人目の配下にはぴったりだ。》

 ヴルドの声は低く、そう教えてくれた。


 そうして、ヴルドが教えてくれた通り、俺とアスは森の奥深くへ足を進めていった。木々はだんだん密集し、夕方の日の光も遮られ、影が地面に幾何学模様のように広がっている。鳥の声もいつしか途絶え、空気には湿った土と古い樹木の匂いが混じっていた。



 近隣国家、マルシオン王国首都


「国王。勇者一行がお帰りになられました。」

 大きく、豪華な扉を押して入ってきた老人は、そう報告する。王座の周りには豪華なカーペットが敷かれ、壁には歴代王の肖像画が並ぶ。


 玉座に座る小太りの王は、手をたたき拍手をする。金の刺繍が施されたローブは柔らかな光を反射していた。

「魔王を倒したのか!?」

 王の声は嬉しそうにそう聞く。


 一人の女性がゆっくりと口を開く。

 女性の名前はリアナ。ライトの元パーティーメンバーで、豪華な衣装に身を包んでいた。

「ええ、魔王は倒しましたが、、それと引き換えにライトは……」

 俯いた時彼女の髪が肩越しに揺れ、後ろに控える男二人も同じく視線を落とす。緊張と悲壮感が、空気に重くのしかかる。


 もちろん芝居であるが、


 だが、その時、扉が勢いよく開き、重々しい音と共に誰かが駆け込んでくる。

「大変です!魔王城で、とてつもない魔力量の反応が!以前の魔王よりもより、広い範囲で……」

 男の声は息を切らしながらも、震えと焦りが混じる。


 その言葉に、リアナも国王も目を見開き、微かに体が揺れた。緊張の糸が一気に張り詰める。

 何が起こっているのか、国王おろかリアナでさえも理解できないまま、場は静まり返る。


「急いで、周辺諸国の者達も集めろ!会議だ!もちろん、そなたらも会議に参加しろ!」

 国王は威厳ある声で命令し、その指先が空気を切る。三人は黙って静かに頷き、決意を固めるかのように背筋を伸ばした。


「まさかな……」

 リアナは小さく息をつき、嫌な予感が胸をざわつかせるのを感じていた。



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