第十七話 恨み
ーー2日前ーー
「離せ!」
「はぁ、……すまない、リアナ。しくじってしまったようだ、」
鎧の音が重く響く。粗暴な兵士がロイとリアナの腕を無理やり後ろで縛り上げ、石造りの廊下を引きずっていく。湿った空気と鉄の匂いが、牢獄特有の冷たさを放っていた。
「早く歩け!この雑魚ども!」
兵士の怒声に、リアナは振り返って睨みつけた。
「雑魚!?世界救った一英雄に向かって……」
「まぁまぁ、リアナ、落ち着けよ……」
ロイが小声で宥めるが、彼の指先も震えていた。
「お前らは、ここだ!」
鉄格子の前に突き飛ばされ、鈍い音を立てて2人は転がる。扉が閉まる音と同時に、希望が遠ざかるような静寂が広がった。
緑のマントを羽織った聖騎士に2人はコテンパンにされたのだ。
「……おや?君たち、勇者一行じゃないか?」
反対側の牢から、落ち着いた声がした。暗闇の中、月明かりに照らされたその顔は――
「あんた……確か、聖騎士!?」
リアナの瞳が見開かれる。鉄格子の向こうには、聖騎士の1人である、蒼のダーク=ヴァルハルトが座り込んでいた。
「なんで聖騎士がここに?」
「うーん、僕もよく分からないんだよね……。まぁ、嫌な予感はしてたけどさ、、とにかく多分利用されたと思う。」
ダークは微笑もうとしたが、うつむいた肩が小さく揺れていた。
リアナはその震えを見逃さなかった。
「あのさ、もしここから出れたら、蒼のマント、僕のをライトに届けてくれないか?」
「ライト知ってるのか!?、でも、お前が届ければいいんじゃないか?」
「いや、多分君たちの方が出るのが先だろうから……」
小さく呟かれたその声には、覚悟と諦めが滲んでいた。
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「うわおうわお、かなりの量だね〜!」
焔が炎の翼を広げ、森上空を滑空する。
狐のお面の下、眼には騎士団の陣列、槍や剣の群れが光を反射していた。
「焔さん、あんまり行きすぎないでください。敵に居場所がバレるかも、」
地上からサマエルが冷静に声を飛ばす。
「おい!あたしも飛びたいぞ!」
アテナが不満げに叫び、木々を蹴って駆け上がる。
その瞬間、遠くの丘の影で光が閃いた。
「……あそこか、」
狙撃手の男が弓を引く。矢が放たれ、焔の頬を掠めた。
「およ、気づかれた……」
「やばいんじゃないですか!?」
スイが青ざめる間もなく、アテナは音を置き去りにして突進する。
彼女の嗅覚が敵を捉えた。森を裂き、枝を蹴り、前線へ。
「アテナ、距離を……!」
サマエルの制止を聞かず、拳を振るう。だが白髪の大男の剣が火花を散らし、それを弾いた。
「ほう……だいぶ強い魔物だな、成長する前に駆除しに来て正解だったか、」
その背後に立つ弓の男――焔を射抜いたのはこいつだ。
「アテナちゃん!私奥の弓使いやるから、、」
「わかった!」
アテナの即答で、直ぐに森が再び戦場と化した。
「はぁ……仕方ないですね、スイさん。私たちは不満ですが雑魚処理をいたしましょう……」
「ぜ、全然不満じゃない......」
サマエルが静かに剣を構え、森に低く唸りが響く。
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「……イバラ、慎重にいけよ?」
シドウが低く呟き、夜気を裂くような声が響いた。
森の奥、湿った地面を踏みしめながら、イバラは肩越しに振り向く。
「任せて!シドウ様、、俺様強いから!」
その軽口に蒼が苦笑する。
「そう言うことじゃないんじゃない?」
彼の声は柔らかく、信頼の色が見えた。
次の瞬間――蒼の背後で炎が爆ぜた。
轟音と共に土が跳ね上がり、熱風が全てを飲み込む。
シドウが反射的に叫ぶ。
「蒼!」
煙と火の中、蒼は一歩も退かず、微笑みながら立っていた。
「こう見えて守り神だからね?」
彼の全身を淡い蒼光の膜が包み、周囲の炎を滑らせるように消していく。
だが、その安堵も束の間。
木々の向こうから金属音が重なり合い、地響きが近づいてきた。
鎧の擦れる音、蹄の振動――森の影が次々と形を持ち、軍勢が彼らを包囲する。
「全員!直ちに距離を詰め、討伐しろ!
相手は、魔物!邪悪なる魔王の配下だ!」
年老いた将の怒号が響く。
馬上のその男は銀の鎧に身を包み、冷たい視線をシドウ達に向けた。
(数は三人……これなら容易い)
油断の笑みがその頬をかすめる。
「イバラ、蒼、援護を頼む。
周りの奴を駆除しろ、俺はアイツをぶちのめす。」
シドウの声は静かだったが、瞳の奥では闘気が爆ぜていた。
初めてライトと出会ったあの日のように――瞳は燃える赤を帯びている。
「ほう、おそらくこの三人の中でお主が一番強いな……かかって来い、鬼人、」
男が口角を上げ、剣を抜いた瞬間、風が渦を巻いた。
戦場の空気が張り詰め、空気そのものが刃を帯びる。
その男は剣そして、かなりの魔術の使い手だと言うことが、シドウは直ぐに理解できた。
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「マルシオンまで一気に攻めるよ!」
俺が空の上から声を上げると、眼下の大地が遠く霞んで見えた。
「国を落とす気?この量で、?」
アスが驚き混じりに言葉を返す。
勿論だ。俺たちは風を裂きながら進む。
サマエルとシドウが後方で軍を押さえている。
村の守りも、もう任せられるほどに強くなった。
……大丈夫なはず、いや、そう信じるしかない。
俺、アス、アヌビス、クロ――四人は光を切り裂くように上空を飛ぶ。
だが、その途中、視界の端に奇妙な群れを見つけた。
教会の前、異様なほどの人だかり。
魔王との戦いのさなかに、民が集まる理由など一つしかない。
嫌な予感が背筋を走る。
そして――見えた。
石畳の中央、血に染まった地面に横たわるダークの姿。
腹を貫かれ、既にその体からは生の気配が失われていた。
「………」
喉が焼けるように熱くなる。
理解した。
人間どもは、魔王に関わった聖騎士を「裏切り者」として殺したのだ。
そして、それを「正義」と呼び、国民の支持を得るための口実として俺を今討伐しに来ている。
腹が立つ、まるでダークと俺の仲を簡単に否定されたような気がして、いや否定されたんだと思う。
「人間はクソだな……」
その言葉は、雷の前触れのように低く響いた。
「主人様、どうするんだ?」
アヌビスが問う。
「うん、出力最大だ。この国を今潰す。」
俺は手を天に掲げた。
瞳が淡い茶色へと変わり、空が唸りを上げる。
厚い雲が渦を巻き、雷鳴が世界を震わせた。
――まずは、この教会からだ。
空気が焼け、光が一点に集まる。
膨大な魔力が雷となり、教会へと向け狙いを定める。
だが、落雷を、放つその直前。
俺たちは気づくことすらできなかった。
俺たち四人の腕が、一瞬にして同時に切り落とされた。
「は、?」
他に言葉はあったかもしれないが、今の俺たちにはそれしか見つからなかった。
彼の剣技は、全く目で追えない。
俺たちは、地上から数百メートルもの高さにいる。
そんな俺たち4人の腕を一瞬にして気づかない程の速さで切断したのだ。
「ったく、この世界は本当に腐ってるな……それは、同意だよ、魔王君。」
黒いコートが風をはためかせる。
立っていたのは一人の男。
無造作に剣を肩へ乗せ、眠たげな瞳を細める。
――その名は、ヴァルヴィス・グランツ・ヴァルハルト。
聖騎士の隊長であり、ダーク=ヴァルハルトの父であった。
ほんとは、もっとグロいはずだったけど控えました。
次回は、積極的に戦闘に入れると思います。




