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第十二話 ゲット依代

サマエル推しです。

「……なるほど、依代か」

 目の前の二人――赤い狐と青い狐のお面を被った子どもたちは、ごつごつとした岩の上に

 腰を下ろしたまま腕を組み、まるで王様のようにふんぞり返った。


「そんなもの、いくらでもあるわ」

 赤いお面の子が、軽く鼻を鳴らす。

 どこか子どもらしい高めの声なのに、その言葉には奇妙な威厳があった。


 ……なんか大きな態度をしているが、君たちは負けたんだよね?


 俺は内心でそう突っ込みながら、二人にこれまでの経緯を全部話して聞かせた。

 神が敵になると後々面倒だからだ。

 アスによれば、この二人――どうやらまだ若いらしい。

 けれど、成長すればとんでもない力を持つようになるとか。


「そんな簡単に、依代用意してくれるの?」

 俺が念のために尋ねると、青いお面の方が、口の端を上げて笑った。


「うん。僕達を倒すのなんてそうそういないしね」


 そして、赤いお面の子が元気よく続ける。


「特別サービス!

 神威の入場を許可しよう!それと、うちらを配下にしてちょ」


 ……ああ、うん。

 今、変なの混ざってなかった?


「ライト!さっさと配下にしちゃおう」

 隣にいたアスが俺の肩を軽くポンと叩き、にやりと笑う。

 いやいや、ちょっと待て。

 神なんだよね?この子たち。

 悪魔が配下になってる時点でだいぶカオスだけど、守り神まで俺の配下って、倫理的に大丈夫か?

 それに、俺は世界を滅ぼす(予定の)魔王だぞ。


 俺がそんなことを考えていると、それを察したように二人が顔を見合わせた。

 そして、赤い狐のお面の子――焔ほむらと、青い狐のお面の子――蒼そうが、元気いっぱいに説明を始めた。


 どうやらこの二人は双子で、もともとこの地の守り神らしい。

 だが長い年月の中で、守ることにも飽きてしまっていた。(それ多分守り神として結構だめ。)

 それに、自分たちより強い存在に出会ったことがないらしく――だから俺に仕えたいのだという。

 理由は単純で、世界をもっと見てみたいから、らしい。


 ただし一つだけ条件があった。

「世界を滅ぼすとき、この神威だけは見逃してほしい」とのこと。


 ……まぁ、それぐらいなら構わない。


「ほんと!?」

 焔がぱっと顔を輝かせる。

 その瞳の奥には、純粋な好奇心の光が宿っていた。


「本当にほんとだよ」

 俺がそう答えると、今度は蒼が驚いたように身を乗り出した。


「いいのか!?」

「いいよ」


 そうして――新たな配下がまた二人増えた。

 ここまで来ると、もう一国ぐらい滅ぼせそうな気がしてくる。

 けれど、過信してはダメだ。慢心はいつだって隙を生む。


「話終わった〜?」

「主人様!終わったか?」

 退屈そうにしていたアテナとクロが、ようやくこちらへ近づいてきた。

「ああ、終わった。」

 俺が返すと、焔が勢いよく立ち上がり、両手を広げて宣言する。


「ところで!この街を案内してあげよう!」


 その声に釣られて、周囲の空気が少し柔らかくなる。

 俺たちはそのまま、神威の街を二人の案内で巡ることになった。


 透き通るような空気、揺らめく光の柱、そして神々しい静けさ。

 街全体がまるで神殿のような荘厳さを持ちながらも、どこか人の温もりを感じさせた。


 案内が終わったあと、二人は依代をくれるらしい。

 ちなみに、守り神が離れてもこの街が滅ぶことはない。

 二人が張り巡らせた強力な結界魔法があるからだという。

 それに、彼らはいつでもこの場所に戻れるらしく、どうやら移動にも困らないようだった。


 神も悪魔も――結局のところ、退屈を嫌うのは同じらしい。


 ――――――――――――――――――――――


 神威の街は案外賑わっている。

 石畳の道に朝陽が反射し、商店の看板や屋根の色が鮮やかに並んでいる。レンガなどの塗装の色味はどれも明るく、子供の頃に絵本の中で見た街並みを思い出させるようだ。建物の角からは干し物の匂いや焼き菓子の甘い香りが漂い、人々の声が軽やかに交差している。


 住民たちの顔つきは特別というほど変わらないが、通りの商店街では笑い声が途切れず、皆が心から微笑んでいるように見える。どうやらこの街では何年もの間、犯罪が起きていないらしい。噂話や年配者の言葉を繋ぎ合わせると、その理由ははっきりしている――この二人への信仰心の強さだ。人々の祈りと尊敬が、日常の安全を守っているのだという。


「どう!?いい街でしょ!」

 焔が胸を張ってドヤ顔をする。小柄な体を大きく見せるように足を開き、両手を腰に当てている。彼女の楽しげな自慢めいた表情には

 少し腹が立つ。だが視線を巡らせれば確かに居心地のいい街だ。


 俺は少しだけ苦笑いを返す。すると、横で突然アスが声を上げた。

「主人!あそこ!」

 アスは興奮したように俺の背中に飛び乗り、片手で指差す。指先の先にあるのは白い尖塔を持つ教会だ。ステンドグラスが光を受けて七色に揺れている。


「ん?行きたいのか?」

 俺が聞くと、アスは顔を曇らせ小さく首を振る。


「あそこに、僕を近づけるな……」


 なんやねん。


「じゃあ呼ぶな……」

 そう心の中で呟き、口に出すのはやめておいた。無駄に面倒を起こしたくない。


「いや、全然出てる」

 蒼が軽く指摘する声が耳に届く。

 俺はその時点で既に何かが違和感を放っているのに気付いていたが、観光は続く。


 ある程度街を見て回ると、俺たちは鳥居のある山へ向かった。小道を上れば木々の間から街が一望でき、遠方には港まで視界が伸びる。ところがその最中に、すれ違いざま肩が軽くぶつかった。


「おっと……ごめんなさい。」

 相手はすぐに会釈をして去っていく。動作は早く、ただそれだけでこちらに不思議な余韻を残した。


「主人様!大丈夫か!?」

 アテナが慌てて寄ってくる。瞳には心配が浮かび、身体はいつでも守れる構えだ。俺は軽く首を振って手で払うように笑った。大丈夫だ、と。


 すれ違った相手は緑色の長い髪を持ち、背は少し低めの女性だった。

 だが彼女の表情を見る間もなく彼女は去ってしまった。


「……」

「どうしたん?主人様!話聞こか?」

 クロのぶっきらぼうな口ぶりが俺の神経をくすぐる。何とも腹立たしいが、そこは軽く流しておいた。


「なんでもない……」

 そう呟いて、俺たちは山の頂上を目指す。到着すると、視界が開け、街全体を包む景色が広がった。俺は思わず息を飲む。


 ――――――――――――――――――――――


 すばらしい。

 山頂に立つと、その瞬間に分かる。ここはただの展望台ではない。山自体が巨大な魔力源となっており、地脈のように力が流れているのを肌で感じられた。風が運ぶのはただの空気ではなく、微かに震える魔素の粒子だ。


「ここの山にはさ、神力が入ってる。

 だから、魔力が多いしいい依代も作れるんだ」

 蒼は言いながら、ゆっくりと地面の岩の上で掌を数センチ浮かせる。指先から伝わる温度が変わり、岩肌に微かな光が差し始める。


 その瞬間、アスと同じくらいの大きさの岩が少しずつ形を変え、角張った塊が滑らかな輪郭を得て、人型へと姿を整えていく。石のひとかたまりが関節を持ち、肩が動き、膝が曲がる。静かに息をするがごとく表面が震え、これが新たな依代だと分かった。


 これほどの出来の依代は滅多にない。どっしりとした体躯は見た目以上の魔力を宿しており、アテナほどの魔力を示している。細部を眺めれば、胸板の模様や鎧めいた岩の継ぎ目に魔紋が刻まれているのがわかる。


「……!これなら、スイも治るはず!」

 アスの声に力がこもる。顔には穏やかな笑みが広がり、頬に浮かぶ安堵が見て取れる。その表情を見られただけで、俺は満足した。


 《あのスライム、スイというのか……安直な名前だな、スライムの、スとイでスイ……》

 ヴルドが小さく毒づく。俺は彼の呟きを抑えようとしたが、内心でほんの少しだけ同意してしまう自分がいる。


 こうして俺たちは城へ戻り、焔と蒼が作り出した依代をシドウたちに引き渡した。スライムの「スイ」をその依代へと宿らせる。スライムという生き物の性質なのか、依代と一体化した瞬間、にわかに神々しい光が辺りを明るくする。岩の表面に淡いオーラが広がり、スイの体形がほのかに浮かび上がる。


「……アス様!

 僕!治りました!ありがとうございます!」

 現れたのは、水色の長い髪を風に揺らす少女だった。瞳は緑色に輝き、白いパーカーにチャームポイントのアホ毛がぴょこんと立っている。アスに抱きつく動作は無邪気で、見ているこちらまで穏やかな気持ちになる。


「うん!」

 アスはぎゅっと彼女を抱き返す。二人の距離感には暖かさが溢れ、見ているだけで胸が和む。おそらくスイ自身がアスを慕い、見た目を近づけたのだろう――好きな人の真似をするように。


 その時、シドウが軽く声をかける。

「旅は順調でしたか?」


「ああ。収穫しかなかったしな、

 サマエルも情報をくれてありがと。」

 俺は淡々と答える。今回得たものは仲間と

 情報だった。


 すると、サマエルの頬が赤くなり、声を弾ませる。

「いやはや、我が君にそう言ってもらえて私、歓喜でございます!」

 彼のはしゃぎ方は少し過剰で、キモチワルさ

 さえあるが、気持ちが純粋なのは分かる。


 こうして配下は九人になった。獣人族の村を含めれば数はさらに増える。城内は活気づき、雑談や準備の声で賑やかだ。俺は満足げに胸の内で確認する。これでまた一歩、世界を滅ぼすための歩みを進められたのだ、と。


 だが、心のどこかで自戒する。過信は禁物だ。静かに、しかし着実に、計画は進行していく――俺は世界を滅ぼすために、確かな一歩を踏み出したのだった......

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