第百話 悪役って案外大変
城の廊下は昼だというのに静かだった。高い天井に足音だけが響く。
「やる事って?」
城の壁にもたれかかっていたノクスに聞くと、彼女は腕を組んだまま少しだけ視線をある部屋に向けた。
どうやらヴァルヴィスが話があるそうだ。
一体なんだ?
《辞表届じゃないか?》
うちはブラックなので認めません。
軽口を叩きながら、俺はヴァルヴィスの部屋へ向かった。
重厚な扉を押して部屋に入ると、そこには窓から差し込む光を背にして、仁王立ちしているヴァルヴィスの姿があった。
鎧は外しているが、その威圧感は聖騎士そのものだ。
「何の用だ?」
俺がそう聞くと、ヴァルヴィスがゆっくりと口を開く。
「実はな、去年俺が討伐した奴が居るんだが、
そいつが逃した2人の女と子供、、
そいつらを保護して欲しい。俺が行くと怖がれるんでな………」
窓から吹き込む風が、机の上の書類をわずかに揺らした。
こいつそんな事してたのか。
まぁ聖騎士だから当たり前だと思うけど……
「いいよ。けど、どこに居るのか……わからん。」
持っての他である。
第一に顔すら知らない。見つける方が困難である。
「まぁ、今日すぐ見つけろっていうわけじゃない、
近いうちに見つければ良い。俺とロバートと主に今の聖騎士達なら分かるはずだから、
こっちで情報を集めておこう。」
ヴァルヴィスは椅子に腰掛け、膝の上に置いた太刀を静かに布で磨きながらそう言った。
金属がかすかに光を反射する。
そして、もう一つどうやら、あるらしい。
「なんだ?」
俺が問いかけると、ヴァルヴィスはクスッと笑うようにこたえる。
「……よく分かったな。
ここ最近怪異っていうのが悪さをしているらしい。」
………ん?なにそれ、
「妖怪的なものだ。
お前がいた世界の話がこの世界にも来てるんだよ。
もしかしたら、他の世界にも影響してるかもな。」
「意味がわからないんだけど、、それはやばいの?」
「どうやら、実際にも被害が出てるらしい。
噂らによって生まれ何かしらの能力がある怪異。気をつけろよ。」
どうやってだよ。
⸻
城の鍛冶場では、金属を叩く音が響いていた。
「おう、ヴェノム様。
武器の調子はどうだ?」
振り返ると、狐耳を揺らした獣人族のイナリがこちらを見ていた。
蒼白星を作ってくれた本人だ。
「上々。ありがとね。」
「気に入ってくれてよかったよ。ここに来たってことは……」
イナリは、俺の顔を見るなりすぐに察した。
「まぁ、そういう事。」
俺は鍛冶場の奥へと歩き、静かな石碑の前に立つ。
冷たい石に刻まれた名前。
ダーク。
慎一郎。
ミラ。
イーサン。
風が吹き抜け、草が揺れる。
俺はゆっくりと目を閉じ、石碑の前で手を合わせる。
「俺は魔王として君臨するよ。星界律が無くなって、身体の負担も減った。
もう少し歩んでみる。今回は魔王として、、見てて。」
そう呟き、振り返ることなくその場を去った。
⸻
エルドレスト王国。
城下町は穏やかな昼下がりだった。
「おや、アヌビス殿。」
サマエルが王国の書類を抱えながら、廊下を歩いてくる黒衣の男に声をかける。
どうやら、魔王になったアヌビスをいじっているらしい。
「アヌビスで結構だ。」
「できる神じゃん〜!」
「そうだそうだ〜」
横から割り込んできたエルとグレモリーが、楽しそうに笑う。
平和な時間、、
⸻
魔王城。
「おい!それ、俺様のお菓子だ!」
「え〜めんどくさいなぁ、」
「いっそじゃんけんで決めよう!」
冷蔵庫の前で、イバラとアテナ、焔が大騒ぎしていた。
袋菓子を奪い合う音が響く。
そこに通りかかったシドウとクロ、蒼が立ち止まった。
「お前ら良い加減にしろ。」
「そうだぞ。」
「全く……」
クロは便乗し、蒼は呆れたようにため息をつく。
⸻
その少し離れた部屋では、
アスタロトが山のような書類に埋もれていた。
隣ではスイが真面目な顔で資料を整理している。
「ああ、、めんどくさい〜」
「アスタロト様。頑張ってください!」
(……まぁ、でも悪くないかもな。)
アスはそう心の中で思った。
⸻
ルクサニア王国。
訓練場では剣の音が鳴り響いている。
「ほら!お前ら!そんなんじゃ聖騎士になれないぞ。」
ロバートが怒鳴りながら訓練生達を見ている。
その様子を、入り口からヴァルヴィスが眺めていた。
「どうだ今期の者達は、、」
「まだまだ。」
「ダークはどの逸材は現れないか?」
その言葉に、ロバートはほんの一瞬だけ動揺した。
「………そうだな!」
⸻
ダンジョンの奥。
湿った空気の中、青白い魔石がぼんやりと光っている。
「こうなるとは思わなかったわね。」
ノクスの問いに、クロムはいつも通り無言で頷く。
「……」
その様子を見て、やはり疑問に思うノクス。
「あなたの剣技、ほんとにすごいと思うけど、、
顔知らないのよね。」
クロムの手が少しだけ止まった。
そして、諦めたように仮面を外す。
そこには………
「貴女………そりゃ、剣技がうまいわけだわ。
ってことは、、ヴルドと組んでたわけね。」
ノクスは、諦めたようにそう呟いた。
ずっと自分は知らなかったのだ。
ノクスの正体を………でも、今ようやく分かった。
「ヴェノムに言ったら、驚くわよ?」
「………だろうね、」
クロムはそう一言言った。
⸻
酒場では夜の喧騒が広がっていた。
ジョッキがぶつかり合い、笑い声が響く。
「お前らウルセェ!」
「だって!いつになったらこの世界から帰れるの!」
「そうですよ、、」
桜井に遠野が愚痴る。
それを見て、成瀬が一喝する。
「別に僕はこの世界案外楽しめてますけど、、?」
「私も、、案外楽しめてますね……」
慧に篠原がそう意見を言った。
⸻
その反対側の席。
来、阿久津、リフトが酒を飲んでいる。雫はジュース、アルは牛乳だ。
「……全く、あいつらうるせえな。」
「そんなこと言っちゃダメだよ、アル。」
雫がアルを宥める。
だが阿久津達は別の事で盛り上がっていた。
「それより!
ほら!早く!始祖様!現世であんたを救った話!聞かせろよ!」
始祖のファンである死相3人。
(リフトも強制的に布教された。)
「こいつら大丈夫か?」
「いいでしょう!
では、聞きなさい!」
「「「はい!雫さん!」」」
それを見ていた酒場のマスターは微笑む。
壁に飾られた写真に目をやり、
(もうすっかり平和になりましたよ、みなさん、、)
⸻
橋の中央。
月明かりの下に、3人の影。
「で、許してくれるのか?」
「勿論。俺も裏切ってしまったし、、」
俺はそうリアナとロイに伝える。
「今度飲もうや。」
俺がそう言うと、2人は真顔でこちらを見つめる。
うん、まぁ、手のひらくるくるすぎて少しうざいよな。
そう思っていると、
2人は満面の笑みになりこちらに抱きつく。
「勿論だよ!」
「誘いを断るわけないですよ?この3人の中で……
それよりも、、」
「なにその格好!」
リアナはこちらを指差して笑う。
俺の今の格好は、黒いローブに、黒いお面をつけている。
ハロウィン初心者でももっと上手くするだろう。
「ダークの件があるからさ、、
念の為だよ。笑うな!」
「だって……!」
「ライトらしい、、」
そうして、俺たち3人はまた仲が深まった。
⸻
レイン王国、レイガリア学園。
午後の生徒会室。
紅茶の香りが静かに広がる。
「どうなったんですかね.魔王様、」
副会長のカミラが紅茶を注ぎながら言う。
「まぁ、大丈夫だろう。魔王となっても、どんな奴でもコウキはコウキだ。ライト……」
アレクシスはそう言いつつ、少しだけ視線を落とす。
「一番寂しくなってるの会長じゃん。」
リガルドがそう言うと、
イザベルが思わず鼻で笑った。
「ふっ、」
「わらうな!」
――――
「大丈夫なんですかね?ヴェノム。」
ネメアが心配そうに集まった一部の魔王達とそう話す。
「大丈夫ですよ!あの人私の国救ってくれましたし!」
「まぁ、大丈夫じゃない?」
エルドにゼノがそう肯定する。
「……まぁ、私は認めてますよ。」
「ほんとか〜?」
バフォメットの答えに、ルシアンは疑いをかける。
「大丈夫だ。俺が保証する。」
そのやりとりに、サタンが加わる。
「そうそう!強いからね!」
クレアもそう言って、みんなを見つめる。
「理由じゃない気がするが?」
そう思った魔王一同であった。
―――――
「ミカエル様!」
天界で、心配そうにガブリエルが話しかけてくる。
「魔王、大丈夫でしたか?」
元凶であるウリエルも続けて話しかけてくる。
「まぁ、な。
あ、転生者と転移者はもうなるべく送るな。いいな?
せめて、自分の意思を尊重して、送るようにしろ。
無理矢理はダメだ。」
ミカエルはそう決め、
「じゃ、人間世界に戻ります!」
ミカエルはあっという間に帰ってしまった。
「あの人らしい、、」
「帰っちゃった、、仕事しないと!」
そうして、2人はまたせっせと仕事に励む。
――――――――――――――――――――――
1ヶ月後。
「ライト、敵がこっちに向かって攻めてきてるけど、どうする?」
どこか楽しそうに、そのアスは声をかけてきた。黒髪が風に揺れ、瞳の奥では、戦場に立つことへの高揚がきらめいている。
「もちろん!殲滅だろう?ライト、」
隣にいたシドウが、口角を上げながら刀を軽く肩に担いだ。陽光が刃に反射し、赤い光の筋が彼の頬を撫でる。
「あたしがやるぞ!、主人様!そしてお前らは見ていろ!」
元気な声とともに、アテナは勢いよく拳を握りしめる。周囲の空気が一瞬、熱を帯びるようだった。彼女の目はまっすぐに戦場を見据えている。
「はぁ、あなたは何故そんなに頭が悪いのですか?まずは、我が君の命令を待つのみですよ、」
冷静な声音で、サマエルがそう言うも、
その目の奥にも、わずかな興奮の色があった。
四人の仲間がそれぞれに気配を高める。
「それで、どうする?ライト、」
問われた俺、ライトは、ゆっくりと視線を前へ向ける。遠くの丘の向こうで、黒煙が上がっていた。敵軍の足音が地面を伝ってこちらへ響いてくる。
「まぁ、そうだな。
あっちが来るってんなら……返り討ちにしよう。」
低く呟いたその声に、仲間たちの顔が笑みに変わる。
「相手は大国、、ってことはもしかして死相……」
俺はあることが頭をよぎる。
「破片嵐。」
見覚えのある技が、大国もろとも自分たちの城へ向かってくる。
「……そうか、お前ら!あの国を落として魔王としての威厳を世界に見せつけるぞ。
死相は俺が相手をする。」
「「はい!」」
配下達がそう返事をする。
俺は魔王として、この世界を生きる。
俺たちは、躊躇することもなく前へと歩き出した。その先には、血と炎に染まる戦場。
――これは、元勇者の俺が一魔王として世界を滅ぼすことを目的とした俺たちの物語だ。
第Ⅴ部 魔王を倒した勇者の俺、仲間に裏切られたので選ばれし者から最強魔王に堕落します。
完結。
最終回!読んでくれた方々ありがとうございます。
また、作品はいっぱい書くことにしました!
狐花として、、
第Ⅵ部は、5月1日から始めます。




