第九十九話 後輩
次回最終回です。
薄暗い玉座の間の中央に、巨大な黒いゲートがゆっくりと閉じていく。
その歪んだ空間の裂け目から、最後に一人の男が歩み出た。
「遅かったな、ヴェノム。」
低く落ち着いた声。
円卓の最上座に座るサタンが、肘をつきながらこちらを見ていた。
巨大な石造りの広間。
その中央には、黒曜石で作られた巨大な円卓があり、そこに俺含め十二人の魔王が集まっている。
どうやら俺が最後だったみたいだ。
「いや〜、ごめんごめん、疲れててしばらく寝たきりでさ、、」
肩を回しながら軽く手を振り、俺は空いている席へ歩いていく。
魔王たちの視線が一斉にこちらへ集まった。
座席は十三席。
だが一つだけ、誰も座っていない椅子があった。
戸破が座っていた席だ。
その椅子だけが、妙に空気を吸い込むようにぽつんと残っている。
俺は自分の席に腰を下ろし、背もたれに体重を預けた。
「本題に入りましょうヴェノム殿」
バフォメットが静かに口を開いた。
長い指でテーブルを軽く叩きながら、俺を促す。
それもそうだな。
今回、俺がこの会議を開いた。
その理由は一つ。
新たな魔王を推薦するため。
そして、欠けた一柱を埋める。
「結構選ぶの大変だったよ?」
軽く笑いながら言うと、サタンが片眉を上げた。
「お前とクレアが戸破を仕留めたんだから、責任はお前らにあるぞ?」
そう言って、サタンは俺と隣に座るクレアへ視線を向けた。
クレアは椅子の背にもたれながら足を組んでいる。
「仕方ないだろ〜色々あった!」
クレアはまるで他人事のように肩をすくめた。
戸破の死など、特に興味もないらしい。
その様子に、円卓の向こう側から低い声が響く。
「いいのがいるんだろうな?」
ルシアンだった。
その瞳だけが光り、こちらを鋭く射抜いている。
俺は軽く頷く。
もちろん。
正直、結構迷ったけどな。
俺は椅子から少し体を起こし、背後のゲートへ視線を向けた。
「ほら、入ってこい。」
声が広間に響く。
すると、まだ完全に閉じていなかったゲートの闇がゆっくりと揺れた。
その奥から、一人の影が歩いてくる。
静かに冷静な足音が鳴る。
アヌビスだ。
俺はアヌビスを推薦した。
というのも、アヌビスは元々、近隣の神々から少し見下されていた。
神としての格はあるが、力が多少小さかったからだ。
だからこそ、強くなるために俺の配下になった。
俺はアヌビスを魔王として迎える。
神だろうが、魔王という座には誰だって力があれば座れるのだ。
魔王にならば、かなり力はつくだろう。
なんだって、この異世界の中でもtopクラス。それが魔王。
サタンなんかは、そこら辺の有名じゃない神よりかは圧倒的に強い。
身近で学べば良いと思ったため。
そしてこいつは誰よりも冷静でいい判断ができる。
魔王の風格にピッタリだと思ったのだ。
「いいのか?俺なんかで……」
アヌビスは少しだけ視線を落とし、そう謙遜した。
十分だよ。
サタンが顎に手を当て、興味深そうに言う。
「アヌビス、、なるほど条件は?」
俺は軽く指を鳴らしながら説明を始めた。
「配下に関しては、そもそも魔王になった後でも俺の配下をやりたいと言っていた。
でも、配下として俺の中ではカウントするけどほぼ対等にする。
5人以上居ないけど、俺の配下だから別にいいだろ?
最低ssランクっていう条件は、クリア。ピッタリssランクだよ。
人間国家は、俺たちと一緒に滅ぼしてる。
あとは賛成が4人以上あればだけど………」
その瞬間。
ずっと無言で腕を組んでいた男が、ゆっくりと顔を上げた。
ヴォルク。
鋼のような体格の魔王が、重い声を発する。
「暴論だな、、まぁ俺は気に入ったぞ。」
俺は思わず少し驚いた。
まさかヴォルクが最初に賛成するとは思わなかった。
その後も声が上がる。
クレア。
バフォメット。
ルシアン。
ネメア。
エルド。
ゼノ。
そして最後に――
サタンがゆっくりと手を上げた。
「賛成だ。」
それで決まりだった。
こうして、アヌビスは新たな魔王になった。
評議会が終わり、魔王たちは次々と席を立っていく。
空間転移の魔法陣が光り、姿が消えていく。
静かになった広間に残ったのは、俺とアヌビス。
そしてサタン。
案の定、残らされた。
サタンは椅子にもたれながら言う。
「暴論すぎるが、まぁいいだろう。
天界は許したのか?」
「まぁ、許したわけじゃない。被害者を作りすぎたからな。でも、今はそれよりもここでのことをやらないといけない。
復讐は碌なことにならないよ。
天界はいつか俺か、俺以外の人がどうにかする。
ハイル?だっけ?少し会ったんだ。あそこで、
魔王って言ったら驚いてた。」
サタンは少し笑った。
「そうか、
その時が来たら、俺も協力してやる。
アヌビス、お前も頑張れよ。」
そう言ってサタンは立ち上がり、
拳で俺とアヌビスの胸を軽く叩いた。
仲間への挨拶みたいなものだ。
「ヴルドもな。双魔同体野郎。」
《やかましいわ。》
頭の中から聞こえる声。
微笑ましい関係である。
サタンはふと振り返る。
「そういえば、誰と迷ってたんだ?魔王候補」
「ん?エルかな。」
「若すぎるわ、やめといて正解だな。」
「そうかな?」
そうして、話は終わった。
新しい魔王も生まれた。
俺たちは城へと転移する。
そこに着いた瞬間、通信魔法が鳴った。
ノクスからの連絡だ。
「やることがまだあるよ」
厄介だな。
ため息をついたその時。
後ろから声が飛んできた。
「ほらヴェノム。行くぞ。」
アヌビスが振り向き、俺を急かす。
全く、調子に乗りやがって……
「はいはい。言っとくけど、俺先輩ね、」
「対等だろ?」
うざい後輩を持つと大変である。




