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第九十八話 決めた事

「それがお前、ライトの答えか?」


 冷えた空気の中、ミカエルはゆっくりと視線を上げ、まっすぐ俺を見据えた。

 その瞳は、まるで星の死滅と誕生を同時に見たかのように揺れている。


「俺はライトじゃないよ?

 魔王ヴェノムだ。」


 断言した瞬間、周囲の空間がかすかに軋む。

 何色にも染まれる俺の白い髪色は、黒に染まり、瞳は紅く輝く。

 俺の内側でくすぶっていた星界律の残滓が、最後の息を吐くように揺らめいた。


 覇星開闢(せいかいびゃく)


 この世界の“根源法則そのものを塗り替える星界律の最後の技。

 そして俺は行使した。


「能力は、?」


 ミカエルが恐る恐る尋ねる。

 彼が“恐る恐る”——その時点で、この状況の異常さがよく分かる。


「消した。要らないよ。」


 言った瞬間、空気が静まり返る。

 俺の体内はまるで真空のように軽い。

 残っているのは武器の蒼白星と星から借りた微量の魔力、そしてヴルドの黒き奔流だけ。

 だが、それで十分だ。


 双魔同体という禁呪すら、今の俺にはただの手段でしかない。


「帰るよ。目が覚めた。

 俺は魔王の座に鎮座する。勇者からようやく正式な堕落だ。俺の自由は、ようやく決まった、

 魔王として、俺という存在を世界を恐怖させる!

 それで、、人間達には今一度考えを改めてもらう。

 いつか死んだ時、ここに案内してくれよ?」


 ミカエルは少し口角を上げ、厳かに頷いた。


「まぁ、それはいいよ。

 任せろ、ヴェノム。」


 その声音を聞いた瞬間、俺の胸の奥に積もっていた重さがするりと抜け落ちた。


 寄り道をしすぎたかもしれない。もっと早くというかこの本題にはいつでも入れた。

 まぁ、いい寄り道だったとは思うが、、


 振り返らず、俺は光の階段を降りていく。

 天界の白金の空気から、下界の濃い魔の気配へ。


(解放されたな。復讐から、、勇者という立場、始祖という立場から、)


 ⸻


 一週間後


「主人様?」


 扉の向こうから、アテナの柔らかな声色が響いてきた。

 朝の光が部屋に差し込んで、淡い金色の埃が漂う。


「お帰りなさい。」


 一週間の間に、何度耳にしたか分からない挨拶。

 けれど、どれも胸が温かくなる。


「ただいま。」


「朝ごはんできてる!」


 ぱたぱたと軽い足音を立てながら、アテナは階段へ消えていった。

 俺は上半身を伸ばし、寝癖を手で整えてから着替えを済ませる。


 部屋を出ようと扉を開けた——その瞬間。


 足の小指に、鋭く鈍い痛みが走る。


「……っ!」


 タンスの角に思い切りぶつけた。

 胃の奥から変な声が漏れそうになるほど鋭い痛み。

 地味だが、これが意外と強敵である。


 前の俺なら痛覚を無視していたが、今の俺には生身の反応がしっかり残っている。

 左耳には包帯が巻かれ、小さな痛みも以前とは違って生々しく響く。


 でも、それがいい。

 “ただの魔王”として地に足がついた証拠だ。


 星界律の使用者が消えた今、魔法は弱体化し、量も減った。

 ちなみに星界律は遅かれ早かれ元々消す予定だった。

 イバラにそのことを伝え、俺が天界に行った際他の配下達にも伝えてもらったのだ。


 星界律を無くすことを、ミカエルに説教されて今しかないということで、消した。

 後悔はない。

 それでも世界は崩れずに残っている。

 禁呪の量も減ったので、慎一郎みたいな被害者も出ないし、宗教なども少しずつだが、この世から消して行った。

 ダークのような言いがかりはもう通用しない。


 俺がこの世界で消したのは魔法などの法則ではなく、星界律を“使う者”だったからだ。


 俺自身も弱体化した。

 蒼白星、ヴルド、星のわずかな魔力例えば、

 火星の炎、水星の加速といったそれぞれの惑星のわずかな力。

 残ったのはその程度。


 ランクとしてはSSに届くかどうか。

 もはや絶対的な最強ではない。


 でも、それで十分だった。


 階段を下りた瞬間——


「遅いよ!ヴェノム!」


 アスが跳ねるように近づいてきて、俺の鼻をつねった。


 痛い。

 普通に痛い。

 鼻血でるだろ。


「ごめん、今起きた。」


「魔王が寝坊ですか? あの、ヴェノム様が〜?」


 アスがわざとらしく笑う。


「アス、そこまでにしろ。

 主人はお疲れだ。」


 シドウがパンをかじりながら落ち着いた声で割り込む。

 実に頼もしい。


 持つべきものは、信頼できる配下だな……


「そうそう………あ!ヴェノっち、目玉焼きもらうね。」


 焔が俺の皿から、自然な動作で目玉焼きをスッと奪った。


 前言撤回である。


 横でアスが「こらぁ!!」と叫び、焔を炎で軽く炙る。

 朝から賑やかだが、悪くない。


 二つの国家を治めているサマエルは今日は不在。

 そのため、朝食当番はアスタロトだ。

 テーブルからは優しい香りが立ち上っている。


 食事の最中、脳内に低い声が響く。


「おいヴェノム。この後評議会に参加しろ。

 お前の推薦だろ? 新たな魔王、戸破心音の代わりになる魔王、、早くこいよ」


 サタンの思念伝達。

 ゼノがちゃんと伝えてくれたらしい。


 フォークを置き、息をひとつつく。


 魔王としてやるべきことは、まだ山ほどある。


「がんばるか、」



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