第九話 妹分と敵兵
「配下欲しいな〜」
俺は玉座にぐったりともたれかかり、片手で頬を支えながら天井を見上げていた。
朝の太陽の光がステンドグラスを通って赤く差し込み、王の間の影を長く伸ばしている。
疲れた溜息が一つ、石造りの広間に響いた。
その時、奥の螺旋階段を軽やかに降りてくる足音がした。
「ライト。」
シドウが階段の下に現れる。
シドウの赤髪が光に反射し、いつもの落ち着いた笑みを浮かべていた。
「配下が欲しいなら、昔の仲でいいのが居ますよ。」
少し誇らしげに言うその顔を見て、思わず俺は片眉を上げた。
ここまで笑顔で言うなんて、よほど気に入ってる相手らしい。
「へ〜、お前がそこまで言うなんて珍しいな。どんなの?」
そう口にした瞬間、
――バリンッッ!!
轟音と共に城の一階の大窓が粉々に砕け散った。
太陽の光と共に、勢いよく何かが転がり込んでくる。
それは、長い緑髪をなびかせた小柄な女の子だった。
彼女の瞳はシドウと同じく紅く光り、額にもシドウと同じ2本の黒いツノがある。
だが、少女のはシドウのとは少しだけ違い少し片方のツノが欠けていた。
砂埃を払いながら立ち上がる。
「もう呼んでたんですが……まさかこんな登場とは………」
シドウは額に手を当て、呆れ顔。
珍しく完全に引いていた。
「……! 酒呑童子様!」
少女の顔がぱっと輝く。
まるで長年会いたかった人にやっと会えたような目をして、
シドウめがけて一直線に走ってきた。
しかし、シドウは彼女の勢いを片手で軽く受け止め、弾くように押し返した。
「おい、ここは一応俺が配下となっている
主人の城。そこの窓……直して掃除しろ。」
低い声で淡々と、しかし有無を言わせぬ口調だった。
その表情は兄というより、完全に“保護者”のそれだ。
(……親かな?)
俺は玉座からその様子を見ながら、心の中でぼそりと呟いた。
ーー30分後ーー
割れた窓は応急処置で透明なテープで補修され、
散らばっていた破片は、少女が丁寧に箒で集めて綺麗に掃除していた。
その姿は真剣そのもの。
先ほどの勢いが嘘のように、汗をにじませながら黙々と動く。
掃除を終えると、少女は俺の目の前でピシッと正座した。
「ごめんなさい。ついうっかりしてました……
名前は、茨木童子といいます!
えっと、、酒呑童子様の妹分です、よろしくっす!」
声は元気で明るく、目には悪意どころか純粋な忠誠心が宿っていた。
武闘家――そんな印象。アテナと気が合いそうだ。
「よろしく。配下になるのかな?」
俺がそう聞くと、茨木童子は勢いよく立ち上がり、拳をぎゅっと握りしめた。
「尊敬してる酒呑童子様が信じてついてきてるお方!
信じて俺様も配下として使えさせてください!
主人様!」
その声に迷いはなく、真っ直ぐだった。
俺はシドウを見る。
彼は自信に満ちた微笑みで、静かに頷いていた。
(……なるほど。信じてもいいな、これは。)
「わかった、いいよ。よろしくね。
それと、、酒呑童子がシドウだから茨木童子はイドウ?」
俺は少し首を傾げながら笑う。
「似てて呼びづらいな……イバラでいいかな?」
その言葉を聞いた瞬間、茨木童子の瞳がぱあっと輝いた。
「最高っす!響きいいっす!
って事は、酒呑童子様も、俺様……シドウ様って呼べるんすね!
シドウ様!これからは、イバラって呼んでください!友達、、的な感じで!」
元気が爆発していた。
まるで小動物みたいに、全身で喜びを表している。
(……めっちゃ喋る。対等って立場が好きなのかもな。)
「はいはい、イバラ。」
シドウは軽く笑いながら、彼女の頭を優しく撫でた。
イバラは恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに目を細める。
こうして――また一人、俺の配下が増えた。
その時。
「ライト!敵襲!」
上階からアスの焦った声が響いた。
俺は即座に立ち上がり、外へ出る。
外の空気は冷たく張りつめ、地鳴りのような音が遠くから近づいてくる。
地平の向こう、森の端に光る無数の金属の影。
――鎧を着た騎士たちの大軍勢が、武器を掲げてこちらへ進軍してきていた。
「……まじかよ。」
歯を噛みしめながら、俺は呟く。
「アス!配下達全員召集!
獣人族の村の方にも念のためサマエルに言って防護魔法をかけろ!」
風が一気に吹き抜け、旗がはためく。
俺はシドウとイバラを前線に配置する。
二人はそれぞれ頷き、構えを取った。
「全員!戦闘体制!」
片目の老人が鋭く手を突き出し、背後に控える騎士たちへと怒号を飛ばした。
その声には長年戦場を渡り歩いてきた者特有の、血と鉄の響きがあった。
鎧の擦れる音が一斉に鳴り、数十名の騎士たちが剣を構えて前進する。
誰だ? あのおっさん。
顔に深い傷跡、片方の目には眼帯をつけており、見えないが、残る片目は獣のような光を放っていた。
どう見ても、ただの使者じゃない。
結構経験を積んでいるな。
その時、背後から足音もなくサマエルが現れた。
漆黒の外套が風に揺れ、月光に照らされて銀色の瞳が冷たく光る。
「我が君。どうやら、マルシオン王国の騎士達のようです。
あやつらの心にある悪意……見たところによると、ここを殲滅する気のようですね。」
なるほど……めんどくさいというか、
何もしていないだろうに、いきなり国を上げて敵対してくるとは、魔王ってめんどいね。
《迷惑極まりないな……》
ヴルドがため息交じりに呟く。
彼の声には怒りというより、呆れが滲んでいた。
俺はひとまず、シドウとイバラを前衛として配置した。
シドウは鋭い眼光で前を見据えている。
イバラはその隣でストレッチを始めている。
城の中には、アテナとサマエル、そしてアスと俺を残す。
俺たちはいつでも飛び出せるよう、待機する。
後、スライムは――アスの部屋で気持ちよさそうに寝てるよん。
……ある意味、一番今の状況を楽しんでいるのかも、
「クロ、起きてる?」
「はいはい! 主人様! いるよん!」
声をかけると、廊下の方からクロが勢いよく飛び出してくる。
クロは、俺の目の前でぴたりと止まった。
「よし、シドウとイバラがピンチになったらすぐに行け。多分大丈夫だと思うけどね。」
「わかった!」
クロがぴょんと跳ねて、俺の肩に乗る。
静寂の中、外では鎧の擦れる音と、徐々に近づく馬の足音が響き始める。
どうやら、本格的に戦闘が始まるようだ。
「イバラ、初仕事だ。
きちんとお前の働きぶり主人に見てもらえよ?」
シドウの声は低く、含みを持たせた命令口調だった。彼の脇に立つイバラは拳を軽く握り直し、目に小さな火が灯る。慣れない緊張か、それとも嬉しさか、、頬に浮かぶ僅かな汗が腹の高鳴りを物語っている。
「はいっす!」
返事は元気よく、子供っぽい勢いが含まれていた。イバラの声は甲高く、周囲の鎧の軋みや鉄靴の重みを掻き消した。彼女の手はまだ素手だ。指先には薄く泥が入り、爪の間に血の跡が残っているようにも見えた。
「素手でいけるか?悪いな、まだ武器が出来てなくて……」
俺が後ろから短く投げかける。背中越しに見下ろすと、イバラの肩が小さく跳ね、気合いを入れ直すのが見える。シドウは俺の言葉に首を横に振り、表情には疑いの色など一切ない。遠慮は無用という確信がそこにある。
「全然、数は100。
こんな奴ら、拳だけで十分ですよ。」
シドウは指を鳴らす。冷たい金属音が空気を裂き、周囲の空気が一瞬だけ引き締まる。彼の目付きは獲物を見定める捕食者のそれで、口元には淡い笑みが浮かぶ。
「ほう、来るか……
お前ら!攻撃開始!」
(国王はビビりすぎだ、そんなんだから舐められる、、)
片目の老人の声が荒々しく倦怠を帯びて響いた。彼は古ぼけた服の袖を振り上げ、駆け出す騎士たちを指差す。馬の鼻息、甲高い命令の混じる叫び声——全てが戦場の序章を告げる。
「あ、シドウ様!これ殺して良いんですか?」
イバラが問いかけると、シドウは俺の方へ目を向けた。視線は短く、だが重みがある。
その答えは一つ。
あっちから来たんだし、敵対してきてる。
なら別にいいよね、いずれ世界も滅ぼすし、、
「勿論。好きなだけ殺しちゃって〜」
俺がそう言った途端、空気が弾けた。
シドウやイバラに近づいた騎士達の首が、一瞬にして飛んだ。音は鈍く、刃物が空気を裂くような鋭さではなく、重みのある断絶音だった。鎧の襟元から真っ赤な血が噴き出し、馬が悲鳴のような唸りを上げ、その足元で金属の破片が小さくきらめいた。
そして、その老人はようやく理解した。
自分が敵に回しているのは、世界をいずれ滅ぼしかねない魔王を相手にしていると、
老人の顔には血の気が引き、瞳孔が大きく見開かれた。体中の筋肉が硬直し、言葉にならない喉の動きだけが伝わってくる。
「ぐあああっ!」
「ぎゃっ、やめ――!」
「うわあああああっ!」
騎士達の叫び声が、辺り一面に広がる。声は断片となって宙を舞い、鎧と土と血の匂いが混ざり合って重く垂れこめる。地面に落ちた鎧の反射で夕陽がチラつき、周囲の影が不規則に踊った。
「ねぇ、思ったよりグロくない?」
血の匂いを鼻先で嗅ぎながら、アスが首をかしげる。
「それな、」
俺がそう呟いた瞬間、空気が震えた。
見えない刃が走ったように、兵たちは次々と吹き飛び、無惨な音が響く。
石畳に叩きつけられた影が、音もなく崩れ落ちていく。
城の周囲に漂うのは、鎧による鉄の匂いなのか、それとも血から出る鉄の匂いなのかわからないが、明らかに良い匂いは漂っていない。
かつて緑に満ちていた森は、いまや沈黙の檻と化していた。
「総員!撤退!撤退せ……」
老人が叫ぶが、その声が終わる前に、血が吹き出る。
その顔は次の瞬間には地面に崩れ落ちている。
「よいよい!!
久しぶりの血じゃあ!!」
イバラの狂気じみた笑いが轟き、空気を震わせた。
魔王の城を守る闇そのものが、彼の声に呼応して唸りを上げる。
「程々にな、」
軽く返した俺の声だけが、戦場の静寂を切り裂く。
それだけで、残った兵たちは腰を抜かし、逃げる間もなく地に沈んでいった。
……強い。
笑うしかないほど強すぎる。
もしこの力が敵として向いていたなら、、
今の俺では、抗うことすら許されなかっただろう。
自分の配下で、本当に良かったと思う。
《主人としてのお前が強いからな。
その配下も段々と力がパワーアップしてきてるんだろう、》
なるほど、俺が成長すれば、配下もそれに引き上げられる。
支配の連鎖、主従の力というわけか。
悪くない。いや、実に都合がいい。
そうして、俺はゆっくりと立ち上がり、指先を鳴らした。
寝ていたスライムを起こし、流れ出た血液や死体などを飲み込み始める。
静かに、跡形もなく。
養分になるなら問題はない。
虐待ではなく、ただの餌やりだ。
ほどなくして、戦場は元の静けさを取り戻す。
血の匂いだけが淡く残り、夜の風に溶けていく。
新たな配下、悪くない。
魔王の名に恥じぬ忠誠と破壊力だ。
……その時、スライムが異様に脈動した。
中から震えが伝わり、形が歪んでいく。
空気が一瞬止まる。
直後、重い音が響いた。
何の前触れもなく、スライムが爆ぜたのだった
後、、二人セットのあれを配下として出したら満足です。




