第50話剣術大会本戦 キトの準決勝(思案)
タールの両手を斬り落としたらとりあえず後ろに跳ぶ。
そして剣を構え直す。
そうするとアランも僕の方をまっすぐ向き、下げていた剣を構え直した。
タールを合間に睨み合いが起きようとする。
しかしその前にワンクッション挟まれた。
アランが剣を構えた直後、会場に審判の声が響く。
「タール、戦闘不能。タールの負け。」
そしてその声とほぼ同時にステージ端から担架を持った保険教諭たちがやってくる。
保険教諭にタールが担架に乗せられる傍らで他の保険教諭たちが彼の両手を清潔な布で包む。
そのままタールは運ばれて行った。
「ふぅ」
保健所に連れて行かれるタールを見ながら一息つく。
(よし、これでとりあえずタールには勝つことができた。)
そう思うが、気は楽にならない。
正面を見て、次にもう斬られた左手を見る。
正面には傷一つ負ってないタールがいる。
そして僕の左手はもう無い。
「はーーっ」
今度は溜息を付く。
この状態では勝負は歴然だった。
しかし
「やっ!」
剣を構えて斬りかかる。
(勝負は歴然かもしれないが、ここで諦めるわけにはいかない。それに歴然と言うだけで負けたわけでは無い!)
声に出すと恥ずかしいので心の中でそう思いながら剣は握られ振られる。
重い左横薙ぎ一閃。
アランが苦手な思い斬撃。
目の前でアランも受けようと剣を引き絞っているのを見つめ全力で剣を引き絞り…そして薙いだ。
「カーーーンッッッ」
剣と剣がぶつかり空気が震え、火花が散る。
甲高い音が会場に響き渡る。
そのまま追撃、剣を重く一つ一つ振りながらさらに速く、丁寧に振る。
僕が放ったそれをアランは丁寧に力強く、弾く。
その剣は遅けれどただ一つも隙を感じさせなてくれなかった。
僕が攻め、アランが受ける。ただそれだけの剣戟。
されど剣戟、僕ら剣の軌跡には火が舞い、すぐに消えた。
そのまましばらくの時が過ぎる。
その間も今も僕が攻め、アランが受けの剣戟は止まなかった。
勝負は決まらず、お互い傷一つつけられていない。
しかし
(まずい!!)
キトは内心とても焦っていた。
やはりアランの剣はそう簡単に破れない。
どうしたら彼の剣を弾けるのかどうしたら彼の剣に勝てるのかが分からない。
火を纏し僕が空を舞う時、それは必ずもう1人の火を纏った少年アランに落とされる。
(どうしたらいいか?)
剣を振りながら、出来るだけ冷静に振る舞いながら考えた。
しかし何も思いつかない。
キトのいう発明家の脳はこういう時には発動しないらしい。
(どうしよう?)
それでも考え続ける。
しかし
「カンッ、カンッ」
その間にも剣戟は続いていた。
(くっ!)
剣には長い攻勢で徐々に力が入らなくなっていた。
さらに注意散漫で剣は上手く触れずすぐに弾かる。
おまけに剣を振るたびに右手が痛んだ。
(負けたく無い、負けたく無い、でも…)
剣はどんどん荒くなっていく。
そして…
周囲がはっきり見える様になる。
(集中力が無くなってきた)
ついにそう自覚してしまうとこまで来た。
脳裏では戦いとは何も関係ないことが浮かんで沈んでを繰り返している。
(朝のアリアとの鍛練。アリアとエマの戦い。交流会のサァジさん、突風のカルロたち)
出てきたのは様々な記憶だった。
「あっ」
そして突然声が出る。
そしてやっと未だ放ち続ける剣に力を込める。
剣を整えて、次の一撃を放つ。
(この勝負勝てる。)




