第48話剣術大会本戦 キトの準決勝 (不意)
長いです。
試合が始まった。
それぞれ剣を抜き、構える。
睨み合い…タールが動き出した。
僕らよりも大きい体を活かしての踏み込み、垂直斬り下げ…
剣先は僕に向いている。
そのまま剣で受けようがと思うが、留まる。
このままだと一方的に相手に攻撃される間合いになってしまうことに気づいたからだ。
あえてここは踏み込んでの垂直斬り下げ、剣の腹で受ける。
踏み込んだおかげで相手も剣の腹で当たっている。
成功だ。
そのまま剣を押したいが…
(失敗した!)
タールの力も強い、このままだと逆に僕が押しきられてしまいそうだ。
(後ろに下がるか?いや、でも…)
タールの間合いでは後ろに下がる時に斬られる可能性が高い。しかもそもそも一方だけ後ろに下がるのはアリアとサークの戦いでも分かる通り、斬られるリスクを上げるだけだ。
(どうしよう…?)
剣に力が入らなくなってくる。
ずっと剣に力を込めているせいだ。
(まずい…)
ついに剣が動き体にすこしずつ迫ってくる。
そしてその勢いは徐々に速くなる。
(まずい、まずい…あっそうだ。)
ここで窮地を脱する方法を思いつく。
まずしのぎ合いをしながら体と剣を徐々に後ろに持っていく。相手に気づかれないように少しずつ…徐々に、だ。
すり足、すり剣…。
(よし、間合いがある程度出来た。)
間合いがある程度回復したら次はしのぎ合いをやめる。剣を回し噛み合いを外すのだ。
そしてそのまま剣を回転、相手に攻撃させる前に突き。
(隙あり!)
死なないように軽めに喉を突き刺す…少しずれたがおおよそ的中。
そのまま剣を抜いて、タールの首から血が溢れる。
「くっ」
タールの口から声と血が漏れる。
そのまま追撃。
相手の左腕を狙うようにして、フェイントで右腕を狙う。
「「やっ!」」
声が出る。
しかし左でタールの右腕を斬り落とすはずだった剣はなぜか右を向いていた。
「カチーン」
剣と剣が交わる。
持ち主はタールではない、アランだ。
アランはしのぎ合いをするつもりはないらしく剣で連撃を繰り出してくる。
激しい剣戟。
攻めて、受けて、攻めて攻めて、受ける…
剣がお互いの急所付近をすれあい、攻めたと思ったら受け、受けたと思ったら攻める。
剣はぶつかり合う。
なかなか勝負が決まらない。
(攻めてでるか?)
そう思っていると急に血しぶきが舞う。
慌てて体を見るが、特に何ともないし、そもそも痛みもない。
もしや?と思った相手を見てみても相手にも何ともない。
(なんだ?気のせいか?)
しかしそんなことはない。
剣で受ける時、左手付近に激痛が走る。
隙を作らないように一瞬だけ、目を離して見てみると…
(左手がない!?)
左手が根本から切り落とされていた。
「カキン」
すぐに手から目を離し、再度アランの攻撃を受ける。
剣に力が入らない。
剣が押し込まれそうになって耐える。
「カキン」
再度の攻撃、また押し込まれそうになるが、どうにか踏ん張る。
そして今度は自分が攻める。
「カキン、カキン」
攻めるが、剣閃が単純ですべてすぐ弾かれる。
(くっ!)
集中も切れてしまった。
そのまま攻め続けるが、どの攻撃も掠らない、そもそもアランの近くに近づけない。
(このままだとまたまずい…まずはとにかく集中しよう)
体勢を整えたいが、とりあえず、集中してみる。
二兎追うものは一兎も得ずなのだ。
息を深く吸い、深く吐く。
「スーッ、ハーーッ」
心が少し温かくなる。
(もう一度…)
「スーーッ、ハーーーッ」
さっきよりも深く吸ってー、吐く。
心が温かさに包まれ、冷静さを取り戻す。
(もう一度…)
「スーッ、ハーーッ」
息を吸って、吐く。
「カンッ」
剣が当たる。
アランの攻撃を受けたのだ。
しかし先ほどの受けとは違って、攻撃は余裕を持って受けられる。
「カンッ」
再度の攻撃。
剣を斜めにして受ける。
しかし今度も先ほどの受けとは違って、攻撃を余裕を持って受ける。
(なんか集中できてる?)
集中?しているのかわからないけど、相手の攻撃は受けられている。
今度は攻める。
「カキン」
アランが受ける。
剣はアラン体の近くで受けられる。
そのまま
「カキン、カキン、カキン、カキン、カキン」
連続で攻撃してみると剣は目に見える形で徐々に相手を押していく。
(攻めきれるか?)
しかし、その時アランのすこし斜め後ろに人が見えた。
血まみれの剣を持っていて僕らより大きい体。
喉に巻かれた布切れ。
タールだ。
そして今更おそらく左腕はタールに斬り落とされたことが分かる。
(まぁ、それしかないしかないが…)
タールは近づいてくる。
しかし、
(まあ、一旦気にしない。)
一旦、気にしないことにした。あの傷なら不意打ち以外で僕が傷を負うことはないだろうからだ。
さらなるアランへの追撃。
アランの剣が押されていく。
タールが僕らに近づく。
アランが抵抗して攻撃を仕掛けるがそれを容易く弾く。
タールがさらに僕らに近づく。
さらに攻撃。
(もう少しでアランに刃が届く…。)
アランが受ける。
アランが受けるので、さらに剣を回転して他の横からの薙ぎ払いを放つ。
「あっ!」
アランが後ろに大きく飛んだ、横薙ぎは届かない。
追撃を試みるが、横薙ぎのせいですぐにはその体勢に入れず…出来ない。
そのためそのまま剣を構え直す。
目はアランを見据えている。
しかし敵はアランだけではない。
歩いていたタールがアランから少し離れた隣に立って剣を構え直す。
同時にアランも剣を構え直す。
準決勝の勝者はまだわからない。




