第12話洞窟(覚悟)
洞窟奥から出てきたのはゴブリンスマートたちであった。
キトはそれを見て少し油断したが、よく見ると数は前回罠にはまった時よりも倍以上になっていた。
また彼らはとても頑丈な装備をつけていた。
サラが上級氷魔法アイス•ストライク(氷隕石)を使ったが、ゴブリンスマートたちがピンピンしていたことからも分かるだろう。
しかしいくら丈夫な装備とは言えども体が強くなければ耐えられない。
さらにこう見えてもカルロたちのパーティ突風はCランクパーティであり、そのメンバーの攻撃を受けてピンピンしているとなるとかなりまずいだろう。
それはカルロたちとってやはりかなりまずいことらしく、彼らの頭や胴体から無数の汗が溢れていた。
これは僕にとっても当てはまることであった。
ちなみにアイス•ストライクは氷隕石とも言うが、別に氷の隕石が降ってくるのではなく、直径2.5メートルほどの氷を作り出して飛ばしたりするものである。
似たような魔法としては下級氷魔法としてアイス•ボールや中級魔法としてアイス•ショットなどがある。
ゴブリンスマートたちは剣を抜いていた。
洞窟に来る前、最悪戦えなくても荷物を置いていけば逃げれると思ったていたがそれは無理そうだ。
まぁCランクのカルロさん達なら一つ上のランクだけど、冒険者ランクは魔物だと一つ上のランクまでは倒せる強さらしいから問題ないだろう。
その時僕は状況の深刻さに気がつかなかった。
だが、カルロとの会話が僕を現実に引き戻す。
「この硬さ、この見た目、もしかして彼らはゴブリンスマートか」
そうらしいです。カルロさん達は勝てますか?
「なわけないだろ、絶対に勝てない」
僕にはこの言葉が理解できなかった。
そしてカルロは返事をしながら僕を抱えて走り出した。
前を見ると他の突風のメンバーたちも既に走り出していた。
ちなみに走りながら聞いたカルロたちの情報によるとゴブリンスマートたちは単体武器なしでBランク、単体武器ありでA ランク、集団だとその上のA+ランクやSランクにまでなってしまう。
ここまで聞くともう僕は絶望と死の恐怖で心がいっぱいであった。
しばらくみな突風のメンバーは全力を尽くして走っていたが、僕含め彼らとゴブリンスマートたちの距離は着々と短くなっていた。
そこで意を決したのかカルロたちは体を反転させ広いところで立ち止まった。
さらにカルロは僕のことをおろしながら入り口の方に投げた。
…僕には彼氏が何をしているのか分かった。
彼らは皆それぞれ見た目は違えど、少し涙ぐみ決心した顔でゴブリンスマートたちが追いつくのを待っていた。
……………
そう僕は逃がされたのだ。
僕のせいなのに。
僕が彼らを洞窟に連れてきたのに。
そしてあまり時間が経たずにゴブリンスマートたちとの戦闘が始まった。
「ザシュ」「ドシュ」
僕が茫然自失している中後ろから斬撃音が聞こえる。
さらに僕は追い込まれた。
まさか僕たちがこのような状況になるとは思っていなかったからだ。
さらに血の音が聞こえる。
「バチャ」「ビチャ」
僕は逃げもせずだからといってカルロたちの戦闘に入りもせずその場でうずくまってしまった。
そしてふと絶望の中に昨日の風景が思い浮かんだ。
…発明家になりたいと言ってみんなに笑われる僕
今までそんなこと環境の問題だと思っていた。
自分の問題だと思っていなかった。
だが、この時自分は自然に気づいてしまった。
僕が笑われるのは自分に問題があるからだと。
自分は今まで発明家という目標だけ掲げて何も努力していないということを。
そこで、もし努力をしてあまり発展していないがその業界の学校に転入することはできたら、周りからの評価は変わっていたのではないかと。
転入までいかなくともそれ専門の勉強はいくらでもできたはずである。
だが実際に僕はそれらをしなかった。
勉強が全てとは言わないが毎日の日課では足りないことはわかっていた。
だがそれを見て見ぬふりをしてしまっていた。
笑われたのはそれら怠慢が起こした結果だったのだ。
今まではそれはあくまで自分の問題であったが、今回他人しかも善意で何も得もなくついてきてくれた人を危険にしてしまった。
しかも彼らは僕のせいで死ぬ。
考えながら涙がどんどんこぼれ落ちていく。
こうやって自分はどんどん周りの人を失っていくのだろうか?
その時はもう僕は死の恐怖より自分が生きていることで学校の友達やクラスメイト、そしてあの親切な門衛、母にまで迷惑が及ぶかもしれないことに恐怖を抱いた。
終わらない絶望の中である人が頭に浮かんだ。
自分が最も尊敬している人だ。
僕がその人のことなんて考えたくないと思っても何故か彼は頭を離れてくれなかった。
彼はこの世の人よりもたくさんのことを知っていた。
そしてとてもアイデアマンで僕が発明家になりたいと思ったのも彼を見たからだ。
だが彼らはその力を貧しい人や恵まれない人に使った。
彼は明らかにこの世の人間離れした人だったが一部の人を除き全くと言っていいほど知られていない。
彼だったらいくらでも世界の表舞台に出られただろうし、世界全体を支配することだってできたはずだ。
でも彼はそれをしなかった。
ある日僕がそのことを彼に聞いた時、
彼は「周りの人を不幸にしたくないから」と言った。
僕にはその時その意味がよくわからなかった。
聞いた時が幼かったからもあるだろうが幼くなくてもいつもだったら理解できなかっただろう。
だが僕はこの状況になってやっとその意味に気づいた。
そして同時に
「自分に負けたくない」とも思えた気がした。
先ほどとは明らかに違う感情だが何故かこの感情が消えることはなかった。
そして同時に自分が何かに包み込まれているような感じがした。
………
しばらく息を落ち着けた後僕はカルロたちの方を向いた。
そして僕は全力で前に走った。
なぜかその時も僕は後ろから何か温かいものに背中を押されているような気がした。




