プロローグ1 始まりを詠うもの、その始まり
「夢の国」、それは夢見ることの先にある世界。人は眠ることで夢を見る、だがその先にあるこの国にたどり着くことはまずない。だが今そこに、一人の人がいた。これを「人」と呼ぶならば。
それは人としてはありえないほど完璧で、ゆえに人の律から完全に離れたモノであった。
「夢の国蔵物館」は夢見るものたちの保管庫であり、しかし保管された物たちをとりに来るものは来得ない場所。そこにソレはいた。外形はおよそ人のそれである。足元まで長く伸びたストレートの髪、男とも女とも見える中性的な顔立ち、スマートだがか細さを感じさせない肢体、どこか気品を感じさせるたたづまい、それらは見るたびに移ろいながらその完璧性のみを保ち続ける。だが、その瞳は常にぼやけた色で移るものすべてを俯瞰し、ゆえに何かに集中する、人としての焦点を持たない。すべてのものはそれにとってとても瑣末な物事としてとらえられる。
その日もソレはただ人の残した夢のかけらをただぼう、と眺めていた。
だがその日は違っていた、否、その日が始まりであったといえよう。
ソレの瞳は明らかにあるものを捉えた。それは22枚のカードであった。
人はそれをタロットと呼び、主に占いの道具として使われるものであった。だがソレは、カードの絵に写るもの、その意味を捉え初めて「興味」を持った。
「この22枚こそ、人の生を詠うことのできるものなのね」
そしてソレは移ろうはずの形を固定させることとなった。七色に輝いていた髪は純白に、顔は大人とも子供とも見えるが体とともに女性体へ。そう、
「私は、すべての母であり終わりの22、世界として、人を詠いましょう」
世界はこの言葉を契機として変ることとなった。
そして、紡がれるのはーーー
作:何とか始まったこの物語、司会はこの「作者」と。
ニャ:この私、「無貌の神」たる旧支配者、「ニャルラトホテプ」でお送りしよう。
作:ニャルラトホテプ様はいつも僕の体に憑依して物語を書いているので、作者って表現は実際は間違いなんだけどね。
ニャ:確かに、この作者にそんな表現は合わんな。私が憑けるほどには狂気を持ちながら、そのじつ正気を保とうとする半端者だからな。
作:おかげで気を抜くと言語回路がいかれ、い、いひ、ひ。
ニャ:まったく、こうなると私が一人で説明しなければならなくなる。なんのための媒体なんだかな。
ニャ:では説明に入ろうか。このコーナーでは寄せられた感想に答えるか、設定を公開するか、キーワードを示すか、以上のどれかを行うつもりだ。今回はまだ本編にすら入っていないから、キーワードだけ示しておこう。おい作者、キーワードだけ言っておけ。この私が憑いた分だけでも働いてもらうぞ、でなければ狂気山脈に放り出すぞ。
作:ふ、ふぁーい。くく、で、では今回のキーワードは、
「夢の国」、「夢の国蔵物館」、「タロットの大アルカナ」、「世界」
でふ。ふふふふ、
ニャ:というわけだ。今後ともよろしく。