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18.ブサメンを囲む女子会(仮)

 最近、怜奈が登校してくるや恋乃丞の席に直行するという光景が当たり前の様になってきた。


「ちょっと笠貫君、良い加減にしてくれるかなぁ?」

「何の話でございましょう」


 怜奈に見向きもせず、窓の外をぼーっと眺めながら適当に返す恋乃丞。

 するとまたいつもの様に怜奈が前席の椅子にどすんと勢い良く座り込み、頬を軽く膨らませながら顔を寄せてくる。


「だぁかぁらぁ、笠貫君ってば一体朝何時に家出てるの? あたしがどんなに頑張って早くに迎えに行っても全然居ないじゃない。んでいっつも笠貫君のお母さんが、ごめんねぇって謝りながら出てきちゃうから、もうすっかり顔なじみになっちゃったんですけどぉ?」

「いや、勝手にひとん家のオカンと仲良ぅなんなよ」


 尚もふんすふんすと鼻息を荒くしている怜奈に、恋乃丞は心底嫌そうな顔を向けた。

 そうやって怜奈がぎゃあぎゃあ喚いていると、更に人数が増えてくる。まず浩太と智佐がほぼ同時に、のんびりとした足取りで恋乃丞席へと近付いてきて挨拶を交わした。

 そして更にその後、朝のホームルームの予鈴が鳴る少し前には俊之と麻奈美が登校してきて、矢張り同じ様に恋乃丞の席周辺でたむろし始める。


(……何や、この変な景色は)


 当たり前の様に恋乃丞の席周辺を居場所にしてしまっているこの陽キャ達は、何がしたいのか。

 高校入学直後から続いている一年と一カ月程のあぶれ者生活が、いつの間にか過去の記憶になってしまっている。どうしてこんなことになってしまったのか。

 余りにも当たり前の様にグループが出来上がってしまっている。しかもその中に恋乃丞が巻き込まれている。というよりも、恋乃丞を中心として五人の陽キャが寄り集まってきている様な気がした。

 流石にこれはもう、おかしいにも程がある。

 恋乃丞は微妙な顔つきで麻奈美に問いかけた。


「っていうか自分ら、ここで何してんの? あんたらのグループはあっちやろが」


 いいながら恋乃丞は、陽香を中心に輪が出来上がっているクラス内最大のグループを指差した。ところが麻奈美は、あぁアレね、などとすかした顔で小さく肩を竦めた。


「いや、別にウチ、桜庭と仲良い訳じゃないし。あそこに居たら、イケメンのひとりかふたりぐらいは捕まえられそうかなって思ってつるんでただけ」

「要するにイケメンホイホイか」


 恋乃丞が呆れていると、じゃあ俺は掴まれたクチかぁ、などと俊之が何故か照れた顔で頭を掻いた。

 そんな俊之に麻奈美は軽くキレた。


「いや、アンタ勝手に自分でこっち寄ってきてるだけじゃん。何いってんだよ」


 麻奈美にバッサリと容赦無く斬り捨てられたにも関わらず、俊之は照れてんじゃねぇよと尚も強気だ。

 その一方で智佐と浩太は、早くも朝っぱらからポテチをひと袋、空けようとしていた。


「自分ら、こんな時間からそんな重たいモンよぅ食うな……」

「えー? 若いって証拠だよぉ」


 全く悪びれた様子も無い智佐に、浩太が横合いからそうだそうだと相槌を送ってきた。

 それにしても、少し前までは考えられなかった賑やかさが、恋乃丞の周辺に形成されつつある。

 どうにも調子が狂って仕方が無い。


「っていうかさ、笠貫君。さっきの続き。一体、朝何時に出てんの?」

「五時半」


 すると怜奈は、その場に凝り固まってしまった。電車通学の彼女では、流石にその時間に迎えに来るというのは不可能だろう。


「ちょっと、それマジ? あたし、一緒にガッコ行けないじゃん」

「いや、それが目的やし。もうホンマ、迎えに来んでエエから。綾坂さん、ご自身のペースでご登校下さい」


 怜奈はムキィーっと憤慨しながら、恋乃丞の頭をぽかぽかと叩いてきた。

 痛くも痒くも無いから怜奈の好きにさせている恋乃丞だが、傍目から見たらどう映るのかは多少気になった。これでは自分までが陽キャの一員に見られてしまう。それが少し不安だった。


「せやけど自分ら、ホンマにそろそろエエ加減、考えや。俺みたいなネクラなブサメンの近くに()ったら、頭おかしい思われるで」


 この時、麻奈美と智佐は本気で不思議そうな面持ちになって、互いに顔を見合わせていた。

 そしてふたり揃って、何故か勢い込んで力説してきた。


「何いってんの笠貫。アンタ別に、ブサメンじゃないよ。そりゃアイドルみたいな小綺麗な顔って訳にゃいかないけど、付き合う相手としたら普通にアリだよ?」

「あたしも同意見かなぁ。笠貫君って目が死んでるけど、パーツはちゃんと整ってるし、そんな悲観しなくても全然、大丈夫だよぉ」


 恋乃丞は、疑惑の眼差しをふたりに返した。

 どう考えても彼女らは、目が悪いとしか思えなかった。


(何いうとんねん、こいつらは……俺のブサメンは陽香お墨付きやぞ)


 陽香が好みだというイケメンは、恋乃丞の目から見ても確かにルックスが整っている。その陽香がブサメン認定したのだから、自分は間違い無く不細工なのだ。

 そのことには揺ぎ無い自信を持っている。


「っつーか笠貫、お前、誰にいわれて自分がブサメンだって思ってんだ?」

「あそこに座ってるひと」


 恋乃丞は陽香やその周辺の陽キャに気取られぬ様にと警戒しながら、そろりと幼馴染み美女を指差した。

 ところが怜奈が、それはどうなんだろうと小首を傾げた。


「ひとってさ、好みの顔があるよね。桜庭さんがそういったからって、何もそこまで卑下しなくても良いんじゃない? あたしは秋篠さんの意見に賛成かな。笠貫君なら、誰と付き合ったって普通にバエるよ」

「何か、当たり前の様に俺が彼女作る流れになってへんか?」


 すると怜奈、麻奈美、智佐が同時に向き直ってきて、そして同時に同じ様なセリフを並べてきた。


「作んないの?」

「作らねーつもり?」

「作らないの、勿体無いなぁ」


 よもやこの女子達、自分をネタにして恋バナをしたいだけなのか。

 恋乃丞はそんな疑惑を抱いたのだが、俊之と浩太まで何故か目をきらきらさせている。


(ここは女子会か何か?)


 絶対にその手には乗らん――恋乃丞は渋い表情で再び窓の外に顔を向けた。

 そこで、朝のホームルーム前の予鈴が鳴った。

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