—第42章:いざ聖王国へ
出発当日、ヴェルヴェットは3000人超えの部隊を前に演説台に立っていた。
「すごい光景ね…」
見渡す限りの人、人、人。大勢の者たちがあたしの言葉を聞くために静かにこちらを見ていた。結局考えた結果、言いたいことは見つからなかった。その瞬間のあたしがきっとどうにかしてくれるだろうと思って自分自身を騙してその時を迎えた。
しかしどうだ。なにも思い浮かばない。本当になにも思い浮かばない。少しくらいはそれっぽいことを頭に入れてきてはいたが、この光景を見て緊張や焦りから頭は完全に真っ白になっていた。
「どうしよう…」
目を瞑り、心の中で落ち着け、落ち着けと何度も念じる。
—ヴェルヴェット…
(私が変わって演説することも可能なのですが、やはりそれはやってはいけない。自分に命を預ける者に対しての最大の侮辱となってしまいます。
それに私は皆さんの心に本当に響く話はきっとできないでしょう。私は今までのあなたを見てきました。ある部分においては本当に純粋で嫉妬してしまっているというのは本当です。
そしてそれは非常に素晴らしいことなのです。だからあなたは本当は言えるはず、わかっているはず。どうか自分を信じて)
マリアは応援したい気持ちをぐっと堪えて、ヴェルヴェットの考えの邪魔をしないように意識して心が読まれないように心の奥底にしまう。
目を瞑りながらアモンの姿を思い出す。
<<そうか?まぁでも思ってもないことを言えばいいってもんでもないだろう。お前はお前だ、ヴェルヴェットが思ったことをそのまま言ってやれよ>>
ハッと思い出す。あたしがなぜ傭兵をしているのか。
「そうだ、あたしは…」
目を開け、大勢の部隊の者たちに向き直り口を開く。
「みんな、聞いて欲しい。あたしは元々孤児だった。なんで今この場にいるのか、正直今でもよくわからない。でもあたしは昔からずっと思っていたことがある。
それは子供は誰もが育てられ、幸せになる権利があるんだ。そしてその子供を幸せにしてあげるのは大人たち、そして国だ。
それを悪魔どもが蹂躙しようとしている、いや、今まさにしている。そんなことは絶対に許さない!悪魔どもは皆殺しだ!」
同時に剣を抜いて高らかに上げる。部隊の者も同様、武器を掲げ大きな雄叫びを上げる。一帯の空気が激しく震え、体がびりびり震える。
「出発する、あたしに続け!」
ギアカーに準備を整えたアモン、レオンと共に飛び乗る。リオが走って近づいてくる。
「ヴェルヴェット!絶対に勝ってきてね、信じてるから!」
「当然よ」
そう言い、スピードを上げてメカストリア部隊は聖王国に向けて出発する。
道中、レオンが感動したように語りかけてくる。
「さっきの演説は素晴らしかったぞ。元騎士として色々な方の演説を聞いてきたが、あそこまで短い言葉であそこまで心に響く演説は俺は見たことがない。正直俺も震えた。きっと部隊の士気は最高潮に達しているだろう。
いや、俺たちの部隊だけじゃない、あの雄叫びともいうべき士気の高さは明らかに他部隊にも伝播している。これはいけるぞ!」
「そ、そう…?でもあたし、何いったかよく覚えてないのよね」
アモンを思い出したのは覚えているのだが、それ以降自分でしゃべった時の記憶がない。理由が全くわからない。緊張しすぎたからだろうか。
—感情の昂りや、神に仕えている者に稀に起こる神秘だと言われています。ヴェルヴェットの場合はおそらく感情の昂りからきたのではないでしょうか。
なるほど、たしかになにかを思い出した気がして胸の内が熱くなった気はした、たぶんだが。
「でも喋れたって事は最初はなんか考えてたんじゃないか?」
細かいところをアモンが突っ込んでくる。最初に、記憶がなくなる前に考えたこと。それは…
「そ、そんな事知らないわよ、覚えてないって言ってるでしょ!」
アモンの頭を力一杯はたく。
「いて!なんで聞いただけで殴るんだよ!」
「殴ってないわよ!叩いただけだし!」
これから戦争をしに行くのにひどい緊張感の無さだ。しかし、戦争に緊張は悪影響だ。このくらいでいいのかもしれない。どんな理由であれ…だ。
「ところでアモン、なんかギアカーの脇に何か色々くっついてない?」
「ああ、自分で作成した小型の大砲みたいなもんだ。これを開幕でお見舞いしてやるぜ。ああ、ちゃんと最終設計のチェックはリオにしてもらってるからそこらへんは問題ないぜ」
他にも色々ついてるだが、まぁリオがチェックしてるというので問題ないだろう。そういえばリオも何か秘密なものがあるって言っていたような気がする。
色々思うところがあるが、今考えて頭を消耗させるのも損な気がする。元々頭の容量は極小なのだ。酒を飲みたいところだが、さすがにこの場、このタイミングで飲むわけにはない。というか持ってきてない。
そうだ、悪魔たちを殲滅したあとにお礼で酒をもらって、しばらくそこでおいしいものを食べながらだらだらすればいい。昔の傭兵仲間もきっといるだろう、懐かしい故郷なのだしばらく羽を伸ばそう。勝った後の楽しいことを思い浮かべながら目を閉じてリラックスしながら徐々に聖王国に向かっていく。
「面白かった!」
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