—第41章:演説のために
出発当日、ヴェルヴェットは自分の部屋でそわそわしていた。
「あー、なんでこんなことに…」
フリードリッヒから出発の前に自分の部隊に対して演説をするようにと言われた。なんでも士気を高めるため、目標を明確にするため、団結を促すためなどに必須だということだ。
もちろん、そんな話ができるわけがないのでマリアに頼もうとした。しかし、思いがけずマリアから拒否されてしまった。
曰く「戦闘で実際に動くのはヴェルヴェットです。みんなあなたを信頼して命を預けるのです。だからこれはあなたがやらないといけません、これはあなたの義務なのです」と。
確かにあたしだとしたら戦争に直接参加していない者が意気揚々と誇らしげに講釈を垂れる姿を想像すると、胸糞が悪く、ぶっ飛ばしたくなるだろう。
そう考えると、マリアの説明は至極真っ当で言い返しようがないものだった。それと同時にこういう事は真っ当な考えをしているのだなと。一定の物事の考えに対するアンバランスさを考えると少し笑ってしまう。
とはいえ、あたしはただの傭兵だ。そんな大それたことはとてもじゃないが言える気がしない。どうしようと、フリードリッヒに言われた昨日の夜からずっと頭を抱えていた。
「よう、ヴェルヴェット。何を悩んでいるんだ?」
お気楽そうなアモンが部屋に入ってきた。ノックぐらいして欲しい。しかしアモンも忙しかったはずだが、ここに来たということはもう自分のやることは全部終わったということだろう。
「何って、演説の件よ。あたしはただの傭兵よ。何も言うことが思い浮かばないの」
胸の内を晒すが、アモンはそんな単純なことかと一蹴して言葉を返す。
「何をそんなに迷うことがあるってんだよ、思ったことを言えばいいんだよ。悪魔共は気にいらねーからぶっとばすとか言ってやれよ」
「あんたねぇ…相手が一人ならいざ知らず、数千人の前でさすがにそんなこと言えないわよ」
「そうか?まぁでも思ってもないことを言えばいいってもんでもないだろう。お前はお前だ、ヴェルヴェットが思ったことをそのまま言ってやれよ」
大したことを言ってきてないはずなのだが、妙にストンと胸に落ちる言葉だった。
「あたしの思ったこと…やりたいこと…」
聖王国の悪魔どもを排除して元の体に戻ること、なんとも自分勝手な理由だ。しかし、まだ他にも色々理由があるような気がする。本当の胸にしまっている理由、本能ともいうべきもの。だがまだ頭に浮かんでこない。言葉が見つからない。
「そうね、まだ言いたいことはわからないけど、あんたのおかげで少し楽になったわ。ああ、そうそうこの間あたしが刺した足の傷、見せてくれない?戦いの前だし、ちゃんと治ってるのか見ておきたいのよ」
ベッドに座り、隣に座るように促す。
「足?ああ、流石にもうほとんど治ってるぞ」
隣に座りズボンを脱ぎ始める。一瞬ビクッと硬直するが、考えてみたら足の傷を見るのだ。ズボンを脱がなければ確認のしようがない。グッと堪えてパンツだけになったアモンの足を確認する。
傷はまだ残っているが、痛くはなさそうだ。実際に手をアモンの足に触れて確認する。
「お前、ちょっとくすぐったいぞ」
「確認よ、確認。痛みで動きが鈍って死んだりしたら寝覚めが悪いでしょ」
「ヴェルヴェット、もしかしてお前、実は優しいやつだったのか?」
「実はってひどい言い草ね。あたしはドライなだけよ。もともとこんな性格だと思うけど?」
「ふ〜ん」
そう言うと、足の確認をしているあたしの顎を手でクイと持ち上げ、自分の顔に引き寄せ、もう片方の手で腰に手を回してきて引き寄せられる。
「お前が悪魔だったら俺の女にしてたかもな」
「は?な、なにいってるのよ!あ…あたしは悪魔なんかじゃないわよ!」
急に変なことを言われて顔が真っ赤になり、突き飛ばす。
「いて!別に突き飛ばす事ないだろう」
「あんたが急に変なこと言ってきたのが悪いんでしょう!」
動揺からまだ胸がバクバクしている。悪魔に言われただけなのになぜこんなのに動揺しているのか。そうだ、きっと変身しているからだ。そうに違いない。
「も、もう足は大丈夫そうなんだから、もうあたしは部屋に戻るわよ」
そういうと、つかつかと部屋のドアに向かう。
「いや、ここはお前の部屋だぞ」
そのままアモンのところへ踵を返し、頭を叩いて部屋から追い出した。
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