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—第39章:3大貴族2

いつのまにか、先ほどの臆病さはなくなり、体に力が漲ってくる。みんなで協力して必ずこの戦いを勝利に導く、そう決意する。


「王様、あたしがそいつらをまとめて突撃部隊として束ねて必ず悪魔共に一矢報います」


王に強い意志で伝える。それは表情から窺い知れるくらい闘志が漲っていた。


フリードリッヒはそれを聞いて震えるような嬉しそうな表情を見せる。マルクスは再度鋭い目つきで見てくるが、先ほどより目を見開いている。やはり正確には思惑が読み取れない。エリナは特に変わったところもなく、いつも通りのような顔をしている。


「うむ、いい返事だ。先ほども言った通り、現在最終準備に入っている。出発は3日後だ。それまでにできるだけ部隊の編成を整えるように。軍用資金も好きに申告するがよい」


そう言い、王は退出する。退出するまでの間、皆が膝をつき首を垂れる。


やがて王が退出した。すぐさまフリードリッヒが近寄ってきた。


「ヴェルヴェット、素晴らしかったぞ!王様に対しての口の聞き方は後々教えるとして…いや、それにしても勇敢な立ち振る舞い、テクノバーグ家としても鼻が高い!」


いつあたしはテクノバーグ家になったのだろうか。まぁ無料で宿舎を借りてるわけだから、こちらに害がないのであればいくらでも利用してもらって構わないが。ただ、なんといっているのかは気になる。まぁ聞いたとしても、貴族同士の難しい読み合いのようなものかもしれないので、やはり聞かなくてもいいかとも思う。


フリードリッヒの横に先ほど紹介されたマルクス・アームスウォードが現れる。でかい、そして横にもでかい、とんでもなくいかつい戦士の様相だ。目の前に来られると余計にその大きさに驚く。


「ヴェルヴェット殿、そなたの武勇は聞いている。剣技の天才で高度な魔法を使いこなすと」


いや、いいすぎだろう。誰だそこまで話を昇華させたのは。噂というのはだいたい尾ひれがつくものだと言われているが、まさにそれを地で行っているようだった。


「だがそれだけでは総指揮官にはなれない。真に必要なのは精神力、覚悟、忍耐力。先ほどの表情から経験を積んでいる強者だということは十分にわかった。ならばこそ此度の戦いでそれを俺に見せつけてみろ」


なるほど、つまりマルクスはあたしが突撃部隊の総指揮官として相応しいか確認をしていたということだ。あたしの予想はだいたい合っていた。裏表のないわかりやすい性格だ。そういうやつはあたしも嫌いじゃない。


すると次に先ほど紹介された女性が隣に現れる、エリナだ。


「ふふふ、そのようなことを言っておりますけど、結局のところ自分が突撃部隊の総司令官に選ばれなかったことに嫉妬しているだけでは?男の嫉妬は見苦しいわよ」


あたしに話してきたというより、マルクスに話しかけてくる。


「ふざけたことを…俺は国の勝利のために身を捧げる所存。そのようなことを判じていない」


マルクスはエリナの挑発とも取れる発言を鼻であしらう。しかし、突撃部隊は非常に名誉ある立場だ。それはあたしは知っている。国を守るというのは本当だと思うが、嫉妬していないというのはやはり嘘が混ざっている気がする。


「そう?別にいいけど、どちらにせよ私の自動人形部隊が一番活躍するのは目に見えています。あなた達もせいぜい頑張ってくださいね」


エリナがそう言うと、特にマルクスがじろりとエリナを睨む。その表情には、戦争に人形を使うという行為の非常に強い侮蔑の表情が明らかに見て取れる。しかしエリナは全く気にしていないようだ。


「まぁまぁいいじゃないか。出撃するまであと3日しかない。陛下がおっしゃったように残りの時間は最終準備に回そう。ヴェルヴェット、志願兵に関しては僭越ながら私の方でまとめておいた。そこから部隊の編成などは任せたぞ」


嬉しい報告だ。フリードリッヒとしては余計な事をしている可能性もあると思ってるようで、少し申し訳なさそうに伝えてくるが、あたしにとってはまさに渡りに船。そんな面倒くさい作業を肩代わりしてやってくれるなんて、本当にいいやつだ。


あとはその中から配置だけ考えればよい。それくらいなら頑張ればまだどうにかなる気がする。わからなければマリア、レオン、フリードリッヒに聞けば良い、アモンには…聞かなくていいか。


それを聞きたマルクスが口を挟む。


「我が部隊で使用している大砲やマスケット銃の武器も貸し与えよう。好きに使ってくれ。礼はいらん。ヴェルヴェット殿の部隊に志願した者が我が部隊の中にもいるのだ。ああ、いや、文句を言っているわけではない。


惹かれる者の下につきたいというのは当然の気持ちだ。俺の魅力が足りなかったということだ。そしてその者たちを止める権利は俺は持たぬ。」


本当に、太っ腹で裏表のない人間だ。でかくて威圧的だが、こいつが傭兵なら皆に慕われるいっぱしの兄貴になることだろう。マリアが「このような男性が好みなのですか?」と聞いてくるが茶化すなと心の中であしらう。


ありがたく頂戴すると言うと「うむ」と返事をしてきてお互い握手をする。


エリナも続けて提案してくる。


「私の自動人形もある程度融通しましょう。あまり認めたくないけど、私の部隊からもあなたの部隊に志願している者がいます。そしてマルクスのように止めたりしていません。ただ融通する理由はちょっと違いますけどね」


「ふふふ」と計算高そうな声を出す。そこへ先ほどまで色々言われていたマルクスがここぞと言い返す。


「ふん、どうせ突撃部隊に自動人形を組み込んで活躍したら、これ見よがしに宣伝をして、それを皮切りにさらに自動人形を売り込む気だろう。単純な狡い手だな」


エリナが露骨に眉間にシワを寄せて不機嫌になる。


「なにをおっしゃるかと思いましたら、商売というものはいかに有用性をアピールするかが肝心。ただ性能を上げたり機能を増やせばいいというものではないですわ。それにあなただって同じ思惑があるからこそすぐに気づけのではないのかしら?」


お互いの間にピリピリとした空気が発生する。この二人は明らかに犬猿の仲だ。貸し与えてくれるというのは嬉しいが、片方だけ貸してもらうと問題になるのは明らかだ。なので、自動人形は使い勝手が全くわからないが、とりあえず両方から貸してもらおう。


「お二人方、王がご不在とはいえ、ここは王の間ですぞ。悪ふざけも大概にされたらいかがか」


フリードリッヒの仲裁により事なきを得る。この男の貴族の中での立ち位置を垣間見た気がする。マリアも「大変ですね」と労いの言葉が出ていた。一番理知的だとも言えるので、最初に会った大貴族がフリードリッヒでよかったと心底思う。


二人ともまだ文句がありそうな表情だったが、フリードリッヒの説得で矛を収める。目だけはまだ喧嘩をしていたが。部隊に入っている自分達に関わりのあるものに必要なものを伝えてくれと言い残し、部屋を後にしていく。


フリードリッヒは屋敷の庭を一時的に使用していい旨、その他私有地の土地の特別な使用許可。また、必要であろう出撃中の食料や水などのインフラにまつわるものなどを提供するから、好きに要求してくれと伝えられた。


さすがに金がかかりすぎだろうと思ったが、そこらへんはしっかりしており、先ほど王が軍用資金は出すと言ってきたのであたしの代わりに申請するし他に購入したものも代わりに申請してくれるということだった。めんどうな事をやってくれる実に頼りになる男だ。


諸々必要そうな内容の説明を受け、その後準備のために王城を後にする。

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