—第26章:宿舎へようこそ?
フリードリッヒが慌てて走ってきた。当初、傭兵であるヴェルヴェットから「仲間を宿舎に住まわせてやってくれないか」と相談され、フリードリッヒは二つ返事で承諾した。
彼はヴェルヴェットに家族の命を救われた恩人として、まだ何も返せていないと感じており、追加の依頼が来たことでまた恩返しができると上機嫌で引き受けたのだ。
ただ、ヴェルヴェットの仲間とはいえ面識がないまま屋敷の敷地内に住まわせるのはどうかと思い、まずは挨拶だけでもと宿舎に向かうことにした。途中、すでに就寝していたエミールを残し、アナスタシアも同行したいと言うので一緒に向かった。
しかし、そこで見たのは衝撃の場面だった。見知らぬ男とレオンが殴り合っており、その様子を周りの騎士たちが見守っている。一体何をしているのか。
「なにをしている!こんな夜中に騒がしい!」
早足で駆けつけたフリードリッヒが怒鳴ると、レオンの拳はピタリと止まり、相手の男もそれに倣った。
「まだやってたのか…」
ヴェルヴェットは呆れた顔でつぶやいた。実はフリードリッヒに説明をしていたので、そこそこの時間が経過していた。すでに終わっていると思っていたので、彼にもこの場のことを伝えていなかったのだ。
「一体なにがあったのか、説明しなさい!」
フリードリッヒはレオンに向かって厳しく問い詰める。
「いや、それは…こ、この男が…そう!この怪しい男がヴェルヴェットと同じ部屋に住むと言い出したからです!」
「言ってねーし!」
二人は今度は口喧嘩を始めた。さすがに主君の前で再度殴り合いはしないようだが、言った言わないの水掛け論が続く。そんな二人の様子を見てアナスタシアはクスクスと笑っている。
一方フリードリッヒは、まだほとんど説明になっていないレオンの言葉にどう対応すべきか思案している様子だ。
「フリードリッヒ、とりあえず空いている部屋を一つ貸してほしい」
「え?いや、しかしこの状態では、しっかり話し合って解決しなくては…」
フリードリッヒもこのままではと困惑し、動きかねていた。
「まぁまぁ、いいじゃない。男の子なんだから、このくらいの喧嘩はよくあることよ」
アナスタシアが場を収めるようにフリードリッヒに言う。
「いや、そうは言ってもアナスタシア、このまま放置すると今後また同じようなことが…」
「いいでしょ?」
いつもとは違う、威圧的な雰囲気で言われたフリードリッヒは、ごにょごにょと何か言いながら最終的に「わかった」と折れた。普段は堂々として家族を引っ張る姿が印象的だが、実は案外アナスタシアには逆らえないようだ。
こうして話は収まったが、レオンの激情に満ちた目はまだ冷めていなかった。
その後、空いている部屋を見せてもらい、一室を借りることができた。部屋の場所は、いろいろ押し問答があった末に、レオンの部屋の正面に決まった。
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