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—第24章:ギアの天使

外はすっかり日が落ちていた。


周りの家では、きっと家族が和気藹々と夕食を囲んだり、風呂に入ったりしている時間だろう。ここリオの家でも、今日はその例に漏れず、皆で食事を楽しんでいる。


食卓にはハーブの香りが漂うチキンの照り焼き、新鮮なサラダにかけられた自家製ドレッシング、そしてコーンスープが並んでいた。リオは美味しそうにパクパクと食べ、笑顔でがっつく様子に、自然とこちらも微笑んでしまう。


「なぁ、酒はないのか?」


アモンは器用にナイフとフォークを使いながら、ちらりと尋ねる。


「ここはそういう場所じゃないんだ。少し我慢しなさい」


吐き捨てるように言い、チキンにフォークを刺して口に運び、咀嚼する。うん、我ながらなかなかの味付けだ。リオがこんなに喜んで食べてくれているのを見ると、作った甲斐があったとしみじみ思う。


部屋の掃除をしてからご飯を作ったので、今日はかなり忙しかった。幸いアモンがいたので、トイレと風呂掃除を押し付けることができたが、最初は嫌がっていた。しかし、「なら今日のご飯はなしだ」と言うと、渋々掃除を始めてくれた。


食事が終わり、アモンに皿洗いを任せて一息つくと、ふと思い出すことがあった。


「ああ、そういえば、あたしが頼んでいた機械、どうなった?」


「とうとう完成したよ!これがそう!」


そう言ってリオは部屋の隅からある品を持ってきた。


「アルケイン・リボルバーって名前にしたんだ。魔法を結晶に込めて弾丸として打ち出せる。ただ、ヴェルヴェットが使う魔法の威力には及ばない。容量オーバーで、かなり威力が落ちると思う」


その銃は異世界から現れたような神秘的なオーラをまとっていた。この国では長身のマスケット銃が主流で、装填に時間がかかる単発式のものが常識だ。しかし、この短身リボルバー式の銃は、異質な存在感を放っている。


弾丸を装填するシリンダーには、通常の弾頭ではなく、光り輝く魔力の結晶が4つ収められている。銃身には複雑な模様が走り、古代の言語で刻まれた魔法のルーンが淡く輝いていた。まるで呪文を唱えるように、静かに脈動する光が銃全体を包み込んでいる。


握りの部分は、黒く染められた魔力を宿す木材で作られており、握る者の意志に反応するように温かみを感じさせる。


シリンダーから結晶を1つ取り出し魔法を込めてみる。結晶がさらに輝きを増し、まるで力を解放する準備が整ったかのように存在感を主張していた。


「上出来だ、さすがリオね!」


頭を撫でると、リオは顔を真っ赤にして嬉しそうに笑った。


威力が下がるのはむしろ好都合だ。マリアが使っている魔法は威力が高すぎて使い勝手が悪いし、もし誤って人に当たれば、カルマ値によっては重傷を負うこともある。この銃があれば、威力も範囲も小さくなるだろう。願ったり叶ったりだ。リオから渡されたホルスターを腰に巻き、銃を収める。


「へへ、魔法剣士ってところかしら?」


いままでにない職業の響きに高揚感を覚え、傭兵ギルドの職業欄も変えてしまおうか、などと考える。


「いや、ヴェルヴェットはもっと特別だよ!もっといい名前にしよう!」


これは、少年が調子に乗って痛々しい名前をつけ、後で後悔するというアレか? そんなことを思っていると、横からアモンが口を挟む。


「おーそうだな、もっといい名前にしようぜ。そうすりゃ俺様たちのパーティにも箔がつくってもんだ。そうだな…“殺戮天使ヴェルヴェット”なんてどうだ?」


こいつ、やっぱり今までのことを根に持っているな、と改めて感じる。


「却下よ」


即答で却下する。するとリオは真剣な顔で考え込み始めた。ああ、そんな純粋な顔で考えないでほしい。断りにくくなる。


「ギアの天使はどうかな?」


「どういう意味?」


「ギアは歯車のこと。メカストリアの機械文明には欠かせない存在で、その銃にもその仕組みが使われているんだ。そしてそれを操り、国を守護する天使って意味だよ」


なるほど、理解はできる。しかし最初に思い浮かんだギアは通貨の方だった。偶然にも皮肉が込められている気がして、少し笑ってしまう。


「まぁいいんじゃない」


肯定とも取れる返事をすると、マリアも「天使」を名乗るのは気恥ずかしそうにしつつ、まんざらでもなさそうだった。満場一致で決まったかと思った、その時。


「いや、ちょっと待て」


もしこれを採用するとしたら、傭兵ギルドで「ギアの天使」と記載するのか?職業を尋ねられた時に「天使です」と答えるのか?それはさすがに…恥ずかしすぎる。これでは、周りからちょっとアレな人と思われるだろう。いや、間違いなくそう思われる。


「ちょっと…1日だけ待ってほしい」


とりあえず1日待ってもらい、あとで適当な理由をつけてこの話はなかったことにしよう。今日はお開きにして、自宅に帰ることにした。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるのっ……!」


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