—第23章:3人の再会
商店街をしばらく歩き、傭兵ギルドにたどり着いた。
最近は商店街を歩いていると「天使様だ」などと尊敬の眼差しで声をかけられることが増えてきた。店で酒を飲んでいると、やたらと目線を感じて落ち着かない。睨むと視線を逸らされるが、またすぐに見てくるのだ。
別に喧嘩を売られているわけでもないので「なにか用か?」と尋ねても、「すいません」と謝ってくるばかり。謝られる以上、ぶん殴るわけにもいかない。
これも、あの悪魔たちとの戦いのせいだろう。そこには傭兵、騎士、兵士、魔法使い、調査をする役人などが集まっており、噂が広まるのも早かった。
この国に来た当初から、やたらと視線を感じることはあった。それはおそらく、誰もが振り返るほどの端正なマリアの顔が原因だろうが、今ほどではなく、特に女性はあまり気にしない様子だった。
しかし、今では子供でさえ振り返ってくるほどで、時には握手を求められる始末。最初は面倒なので断っていたが、今では断る方が手間で、断ると泣きそうな顔をされ「なぜですか?」と理由を聞かれたりもする。
握手をして感謝された方がまだ楽だと思うがそれでもやはり面倒臭い、最近ではもっぱら家で酒を飲むことが増えている。
人混みに疲れつつも傭兵ギルドのドアを開ける。ここには慣れてきた。大男のマスター、ダンカンも今では当初の暴言を悔い改め、敬語で話しかけてくる。非常にいいことだ。
カウンターまで歩き、ダンカンの前に片手を置いてパーティの増員を伝える。
「ダンカン、こいつが私のパーティに入ることになった。名前はアモンだ、登録頼む」
ダンカンは微笑んで答える。
「はい、わかりましたヴェルヴェットさん。確かに登録しておきます。ところでアモンさんの職業は?」
見るからに戦士だろうと言おうとしたが、今は悪魔ではなく人間の姿をしている。そして武器も持っていないため、知らない者が見たら職業がわからず質問するのも無理はない。
「ああ、えっと…」
答えようとして言葉が詰まる。そういえばこいつの職業はなんだろう? 魔法が使えれば魔法使いでも通じるが、この体格の大きい男が魔法使いでは少し不自然だ。剣士が適当だろうか。
アモンの戦闘を思い浮かべるも、逃げている記憶、命乞いしている記憶、酒を飲んでいる記憶、食べ物を食い散らかしている記憶ばかりで、まともに戦闘している姿が全く浮かんでこない。こいつ、本当に戦闘できるのか?そんな疑問が浮かぶ。
「?」
言葉に詰まった様子を見て、アモンが不思議そうな顔で覗き込んでくる。
「け、剣士…だ」
戸惑いながらもダンカンに伝える。
「剣士ですね、はい、かしこまりました」
それを聞いてダンカンはさらさらと紙に記入する。
「ええと、これで剣士のヴェルヴェットさん、機械技師のリオさん、剣士のアモンさんの3人ですね」
ダンカンの確認にアモンが不思議そうな顔で聞いてくる。
「ん?俺様とヴェルヴェットだけじゃないのか?」
「そういえば伝えてなかったわね。実は私のパーティにはもう1人仲間がいるんだ。あんたも一度見たことがあるはずだけど…まぁ覚えていないだろうけど」
アモンが契約した際の噴水公園で、悪魔たちと戦った時にリオを抱えていたはずなので、リオも視界には入っていたはずだ。しかし、その時は状況が状況なだけに、いちいち覚えている余裕はなかっただろう。
リオは現在、機械の開発に専念しており、傭兵活動はおろか外にもあまり出ていない。たまに様子を見に顔を出すと、部屋は汚れ、少し匂いもするので、無理やり風呂に入れ、その間に掃除をし、ご飯を作ってやっている。最近は涙を浮かべながら食事をすることもなくなり、その点は安心している。
「ここからそんなに遠くないし、後輩として挨拶しに行くか」
商店街から少し外れ、いつもの坂を登っていく。さすがにこの坂にも慣れているので、軽快に歩く。
アモンは悪魔だけあって全く疲れた様子がない。体格もたくましいので当然といえば当然だが、空を飛んでいることが多いくせにどうしてここまで鍛えられるのか、種族的なものだろうかと疑問が浮かぶ。
リオの家に到着すると、アモンが一言。
「ここがその先輩とやらの家か、挨拶したら帰ろうぜ。腹も減ったしよ」
仲間との対面よりも飯を優先するとは、本当に自分のことしか考えていないのか。アモンをいぶかしげに見たが、自分も最近酒浸りの日々を送っていたことを思い出し、「まぁそんな日もあるか」と言い訳し、考えを止めて家に入った。
家に入って一番奥の部屋に進むと、カチャカチャと作業音がする。開発に没頭しているリオに話しかける。
「リオ。調子はどう?」
「あ、ヴェルヴェット!」
リオはすぐにゴーグルを外し、こちらに抱きついてくる。
「こら、ハハッ、よしよし」
頭を優しく撫でてやる。最近はいつもこんな感じで出迎えてくれる。12歳の少年で、過去に両親を失っていることも知っているので、邪険にするわけにもいかず、ちょくちょく様子を見に来ていた。
「うわ、気持ち悪っ」
その様子を見て、横でアモンが一言。殺意のこもった目で睨むと、同時にマリアの「殺しましょう」の声が頭に響く。その声にリオがアモンを見つめる。
「ヴェルヴェット、こいつ誰?」
「ああ、こいつはあたしたちのパーティに新しく入った仲間だ。よろしくしてやってくれ」
それを聞いて、リオが少しムッとした表情をした気がする。気のせいだろうか。
「リオだ、よろしくアモン」
「ああ、よろしくなガキンチョ」
「ガキンチョじゃない!リオだ!」
さっそく険悪な雰囲気になりそうなので、話を遮るように口を挟む。
「はいはい、とりあえずリオはお風呂に入ってきて。どうせ入ってないんでしょ?」
そう言って、前回来た時に畳んで置いていたバスタオルをリオに投げる。
「え、あ、うん…」
返事をしながらリオはそのまま風呂に直行した。
「あたしは掃除してからご飯を作る。アモン、あんたは食材を買ってきて」
「ちゃんと野菜も買ってきてよね?バランスを考えて」
ギアが入った袋をアモンに渡す。
「バランス?野菜はわかるが…まあとにかくいろんなものを買ってくりゃいいんだな」
そう言い、アモンはそのまま買い物に出かけていく。
「量も考えなさいよ」
去り際に念を押す。料理をしない者に食材の配分を任せるのは少し不安だからだ。
部屋に散らかる機械や道具を片付けていく。毎回、よくここまで散らかせるものだと感心しつつも、掃除をするたびため息が出る。
「はぁ、マリアと別れることができるなら掃除しているうちにご飯も作ってもらえるんだけどな」
そう愚痴りながらも、手際よく片付けを続ける。
—お料理はしたことがないのですが…
「どいつもこいつも…」
そう呟きながら、無言で掃除を進めていく。
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