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—第20章:戦闘開始

ヴェルヴェットの合図で、茂みに隠れていた殲滅部隊が一斉に坂を駆け降り、悪魔たちに突撃する。


大量の砂埃と大勢の叫び声で、悪魔たちはそこで初めて人間が近くにいることを知った。


いや、1匹だけ人間がいることを知っている悪魔がいた。アモンだ。しかし、アモンもヴェルヴェットがいることはわかっていたが、大勢の人間が駆け降りてくるのを見て、目を白黒させる。


「人間だ!迎撃しろー!」


アモンの隣にいた中級悪魔が大声で悪魔たちに命令する。最初は焦っていた悪魔たちも、命令によって徐々に冷静さを取り戻し、迎撃の体制を整える。


仲間たちと共に駆け降りながら、悪魔たちとアモンの動きを確認した。アモンが全速力で走って逃げていくのが見えた。


いや、いくらなんでも逃げるの早すぎだろう。中級悪魔なら命令を下す義務があるのではないか?というか、敵前逃亡って罪にならないのか?


そう思いつつも自らも戦闘を開始する。1匹、2匹と軽快に悪魔たちを斬り殺していく。所詮下級悪魔だ、たいした敵ではない。


仲間の様子も伺うと、さすが王命で招集された殲滅部隊だ。みな相応の腕があり、次々と悪魔を倒していく。それを見て後方で控えていた中級悪魔が何やら命令を下し、下級の悪魔たちが何匹か後方に下がって坂を駆け上がり、森に入っていく。


命令を下した中級悪魔が後ろを見た際、アモンに気づいたような仕草をしていた。


「そりゃバレるでしょ。あとで大丈夫なのか、あいつ…」


—後から向かった悪魔に殺されるとちょうどよいのですが


まったくよくない。そんなことがあったらあたしの飯代はどうなるんだ。


アモンよりも飯のことを心配しつつ戦闘を続けているうちに、戦いは優勢となり、徐々に戦場を押し始めた。


すると大きな雄叫びと共に、ビリビリとした振動が体を震わせる。


はっとして崖上を見上げると、そこには人の大きさを優に超える獣の姿が複数あった。それはまさに闇の底から這い出てきたかのような禍々しさをまとっている。


三つの巨大な頭部はそれぞれ異なる表情を浮かべ、片方は怒りの咆哮を、もう片方は狂気に染まった笑みを、そして最後の一つは冷徹な静寂をたたえている。


どの頭も黒々とした毛皮に覆われ、その毛先は常に風に逆立っているように見えた。鋭い牙がきらめき、あらゆるものを噛み砕こうとする欲望が透けて見える。


その体躯はまるで岩のように屈強で、四肢の筋肉は盛り上がり、地を踏みしめるたびに重厚な音が響き渡る。後ろに伸びる尾は蛇のようにしなやかに動いていた。


その瞳はまるで地獄の炎を宿しているかのように赤々と輝き、獲物を見つけその輝きが増していく。


「ははー!いけ、ケルベロス!人間共を全員残らず食い殺せー!」


中級悪魔は命令を下し、ケルベロスは鎖を解き放たれた犬のように一目散にこちらへ走ってきた。


「う、うわああああああ!引け!引けえ、逃げろぉぉぉ!」


あまりの体格差と狂気じみたその迫力に、殲滅部隊は完全に戦意を失ってしまう。ケルベロスに乗じて、悪魔たちも一気に優勢となり、撤退しようとする殲滅部隊員を背中から斬りつけていく。

「これはまずい、全滅するぞ」


今までの経験上、劣勢になるだけならどうにか生き延びることはできたが、完全に戦意を失って背中を見せて逃げている者たちは、ただの狩りの対象だ。我先に逃げるので連携もなにもない。追っている方はさらに士気が上がる。


勝負としてはもう話にならない、文字通りの負け戦である。


さらに問題は、撤退する場所がないということだ。籠城できる城や自分たちの領地があれば敵も深追いはしてこないが、今回は獰猛なケルベロスが追ってきている。そのような警戒心はないだろうし、実際に籠城する城も罠もない。


その光景を見て覚悟を決める。あたしの使う魔法は、人間に当たった場合に必ず無傷とは限らない。カルマ値によっては怪我をしてしまう者もいるため、このような混戦では使う事がなかった。


しかし今は状況が違う。このままでは大勢の命が失われる。


「まだ人が大勢いる!くそっ、みんな散らばっていて守りきれない!マリア、何かないのか!?」


—もしかしたら、今のあなたなら使えるかもしれません。唱えてください、「ヘブンリーゲート」と


ヴェルヴェットは手を広げ、片手を前に突き出して唱えた。


「ヘブンリーゲート!」


その瞬間、天使の羽が具現化し、体がまばゆい光に包まれる。ケルベロスと悪魔たちはその眩い光にたじろいだ。


しかし、突き出された手からは何も出てこない。失敗したのか?今まで失敗したことはなかったのに。


たしかマリアが「使えるかもしれない」と言っていた。つまり、使えなかったということか。歯をぎりりと食いしばった。こんな時に、こんな大事な時に魔法が不発するなんて。しかし、そんなことを考えている暇はない。


他の魔法を使うべきだ!そう思った瞬間だった。


敵の様子がおかしい。なぜか後ずさりして攻めてこない。自分の体のせいだろうか?いや、ただ羽が生えただけで悪魔ならともかく、あの獰猛なケルベロスが攻めてこないはずがない。


不思議に思いその様子を見ていると、ある違和感に気づく。視線が合わない。自分に怯えているとしたらこちらを見るはずだが、敵たちの目線ははるか上を向いている。ふと上を見上げると、上空に光り輝くとてつもなく広いゲートがあった。


まばゆいばかりの光があふれ出し、その眩しさに目を細めながらも、誰もがその光景に釘付けになっていた。


そこにいたのは、純白の翼を持ち、堅牢な鎧に全身を包んだ天使たちだった。全身を純白の鎧で覆い、顔を隠した兜をかぶっている。そして、その手には真っ白い槍をしっかりと握っていた。その槍はまるで光の道筋を描くかのように長く、先端が鋭く尖っており、白い鎧と調和して神聖な雰囲気を漂わせていた。


槍の柄には複雑な模様が施され、光を反射するたびに鈍く輝く。その存在感は圧倒的で、まるで彼らの意志を具現化したかのような威厳があった。


天使たちは静かに舞い降り、槍を地面に突き立て、周囲に神聖な気配を漂わせた。その瞬間、まるで空気が一変し、彼らの存在がこの世に新たな秩序をもたらすかのように感じられた。


「なんだこいつら…」


その姿を目にして呆然としてつい声にでてしまう。


—複数の天使を召喚する超位神聖魔法です。私は唱えることができなかったのですが、やはり唱えられたようですね。


「超位魔法…?まぁなんでもいい、敵を倒せるのならなんだっていい!」


そんなやりとりをしている間に、天使たちは大きな標的のケルベロスに向かって突進していく。槍がズブリと胴体に深く突き刺さり、ケルベロスは悶絶する。抵抗するように体を激しく揺らし、攻撃を仕掛けた天使の頭に噛みつく。


その間に他の天使たちも同様に攻撃をする。ほかのケルベロスたちも同じように天使たちの攻撃を受けている。


—天使たちはおそらく負けないでしょうが、倒すのに時間がかかるでしょう。味方が離脱できたので、上空から一気に殲滅しましょう。


「よし、やってやるか!」


そう言いつつ具現化した羽を羽ばたかせて上空に飛び上がる。それに反応して1人の天使が追従してついてくる。


悪魔たちが全て視界に収まるくらいまで上昇したところで止まる。追従してきた天使が持っていた槍を手渡す。


受け取った槍を強く握りしめると、槍が強い光に包まれ、刃の部分が巨大化する。


「これでやれってことか、食らえ!」


ブンっと巨大になった槍を思い切り地面に叩きつけた。地面に突き刺さった瞬間、強い球状の光が発生し、同時に一面が大爆発を起こす。戦場跡がさらにえぐられる。


すさまじい衝撃で、大量の砂埃が舞い散る。少しすると砂埃が消え、そこにはケルベロスと悪魔たちの姿が消えていた。


「どうやら片付いたようね」


ふぅ、と息を吐き、ゆっくりと羽を羽ばたかせて地面に降り立つ。着地した瞬間、羽が消え、それに合わせて天使たちも自然と消えていった。


少数だけ端に残っていた悪魔たちは慌てふためき、全速力で逃げていった。


「すげぇ…」


1人の傭兵がつぶやき、それが合図となって、


「うおおおおおお!」


「勝った!助かった!やったぁぁぁぁ!」


みんなが歓喜に満ち溢れ、周りは歓声で包まれる。ひざまずいて両手を組み涙を流して感謝する者、雄叫びをあげて腕を上げる者、安心して腰を抜かす者など様々だ。


「ちょっとうるさすぎ!こら、抱きつくな!」


迷惑そうにしながらも、みんなが無事な様子で自然と笑みがこぼれた。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるのっ……!」


と思ったら


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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


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