第9話 等級試験
「コホン。失礼、見苦しいところを見せたね」
ノーマは照れ隠しでもするように、手櫛で髪をとく。
かつらを乗っけているようにも見える広がったベージュの短髪は、手櫛でといてもなお広がりを維持し続けている。
そして、フレミーたちを恐がらせないように、にいっと笑いかけた。
「ひっ!?」
が、こけた頬からくり出される笑顔はゾンビのように不気味で、ネザーを恐がらせる結果に終わった。
「ノーマ様。笑顔はやめるよう、グリッシュ様に言われてましたよね?」
「ああ、そうだったね。失敬失敬。いや、新人の冒険者たちの緊張を、少しでもほぐして上げようと思って」
「逆効果です」
ノーマは再び、口角の上がり過ぎた不気味な笑顔で笑い、フレミーたちの方を見た。
「改めて、ぼくが本日の等級試験を担当するノーマだ。よろしく頼む」
「ノーマ様は、冒険者として二十年以上活動しているベテランの方です。安心して、試験を受けてください」
等級試験とは、新人冒険者の等級を決める試験だ。
装備と同じく、冒険者はA級冒険者、B級冒険者、C級冒険者のいずれかに振り分けられる。
振り分けの基準は、ラパン学院の成績、女神より授かった装備も加味されるが、大部分は等級試験の結果で決まってしまう。
等級試験の結果は、試験を担当した冒険者の裁量によるところが大きく、誰が担当になるかの運も重要になって来る。
それ故、ノーマという公平な審判を下す冒険者は、当たりとされていた
「試験は単純だ。女神様より授かった装備を使って、君たちの今できる全力の攻撃をぼくに打ち込んでみてくれ。その強さを持って、等級を判断しよう。そうだ、この中に、防具や攻撃魔法以外の装備使いはいるかい?」
ノーマはそう言って、三人を見る。
本来であれば、装備が武器か防具かなど、装備を目にした瞬間分かる。
事実、ベレイの【空斬剣】については、ノーマは見た瞬間に攻撃のための武器だと分かった。
しかし、フレミーの【裸エプロン】とネザーの【ミニスカート】については、何一つ予想がつかなかった。
ノーマは三人の動きをしばし待ち、誰も挙手しなかったことで、全ての装備が攻撃向けの物だと判断した。
「大丈夫そうだな。では、始めよう」
ノーマはそう言って、裏庭に設置された壁に向かって歩き、壁を後方にして立った。
特殊装備【堅牢の壁】。
世界そのものに装備する人工物。
物理攻撃、魔法攻撃に対して高い堅牢性を持つ壁であり、王城や貴族の城の壁に好んで使われている。
「まずは、ベレイ・ジェニュイン」
「はい」
指名されたベレイは、ノーマの前に立った。
あまりにも細い剣先は、一見すると突きに特化している。
が、ベレイは【空斬剣】を抜かず、居合で構えた。
(横振りか? 空斬剣の名前から察するに、空を斬る剣。さて、空とは空気のことか、それとも)
「いつでも来てくれ」
ノーマは両手を広げて、攻撃に対する無抵抗を示す。
ベレイは、そんなノーマをじっと見つめる。
感情は、警戒だ。
平民が着る服の上に装備している無色透明のぶ厚い鎧の性質を、ベレイは読み取ることができなかった。
(あの鎧はなんだ? そのまま斬ることができるのか? 無色であることの意味は?)
試験とは言え、ベレイは斬ろうとした物が斬れないという失敗をしたくはなかった。
それ故、ノーマの鎧を凝視し、その性質を暴こうとする。
が、答えは出ない。
足りないのは経験。
ラパン学院の中で、基本的な装備の性質しか学んでいない、純粋な経験不足。
(わからない。……いや、大丈夫だ。私の【空斬剣】であれば、どんな物体も斬り裂ける)
結局、ベレイは自身の装備を信じることに徹した。
最速で、最大の一撃を振るうことに。
「行きます!」
ベレイは駆け出し、ノーマの目の前で鞘から【空斬剣】を抜く。
「やあああ!!」
【空斬剣】は、まっすぐにノーマの腹へと向かう。
「これは……なるほどね」
ノーマは剣が鎧に触れないよう、後方に飛んで躱した。
その祭、手に持っていた石を投げて、ベレイの【空斬剣】が通る場所に置いておいた。
石は、綺麗な切断面で真っ二つに斬られ、そのまま地面に落ちた。
「そこまで」
ノーマは試験終了を宣言し、地面に落ちた石を拾う。
「その剣……【空斬剣】だっけ? おそらく、物体を斬るというより、空間そのものを斬る剣だろう。違うかい?」
「!? そ、その通りです」
「いや、すごい剣だ。まともに受けたら、ぼくの体が真っ二つだっただろう」
ノーマからベレイへの評価は、好意的な物だった。
が、ベレイはノーマへの警戒心をさらに引き上げた。
(初見で私の【空斬剣】の効果を見抜き、躱すだけではなく検証までされた? B級冒険者とは、これほどの)
想像を超えた相手への、越えるべき相手への、敬意を込めた警戒心。
ノーマは警戒を解こうと、ベレイに向かってにいっと笑顔を作る。
目も口も、不自然なほどのU字型だ。
「ノーマ様。先程も申し上げましたが、笑顔はおやめください」
「……そんなに駄目? これでも、毎日笑顔の練習をしてるんだけど」
「私には判断を致しかねますが、グリッシュ様からまだオッケーを出ていないと認識しております。今回は、お控えください」
「わかったよ」
ノーマは笑顔をやめて、ニルヴァーナから紙を受け取る。
紙にはベレイの成績や評価が書かれており、ノーマは一通り目を通した後、ベレイに結果を下す。
「君は、B級冒険者から始めなさい」
「! ありがとうございます!」
自身の結果に対し、ベレイは静かに頭を下げる。
原則、新人冒険者はC級冒険者から始まることとなる。
が、実績がなくとも著しく戦闘能力が高い存在、つまり魔物と戦う際に適切な指示を下せば足手まといにならない程度があると認められれば、例外的にB級から始めることができる。
B級の認定とはつまり、最初の等級試験における最大の名誉だ。
「すごいな、ベレイさん」
「す、すごいですね。ベレイさん」
「ありがとう」
共に青春時代を駆け抜けた同期の成功は嬉しい物だ。
称え合う三人を見ながら、ノーマは一人、気を引き締めていた。
(さて、【ミニスカート】と【裸エプロン】……か。さすがに、能力の予想ができんな)
迫りくる、未知に対して。




