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第7話 冒険者ギルド

 冒険者ギルド。

 王国内の冒険者の管理や、王国に点在するダンジョン・魔物の生息地といった情報を管理する組織である。

 全ての冒険者は冒険者ギルドに所属し、あらゆる活動は冒険者ギルドの承認を受けたうえで行わなければならない。

 

 冒険者ギルドは国ごとに本部を持ち、ラパン王国の王都には、ラパン冒険者ギルド本部の建物が存在する。

 ラパン冒険者ギルド本部の建物は、真っ白な円柱の形をしており、全部で五階建てとなっている。

 三階以上は、基本的に冒険者ギルドの関係者しか立ち入ることを許されず、冒険者たちが立ち入るのは会議室のある二階か、仕事の受付やダンジョン・魔物の最新動向を掲載している一階である。

 

 ラパン冒険者ギルドの一階は、いつにもまして冒険者たちでひしめき合っていた。

 三百人は座れる席は全て埋まり、あぶれた冒険者たちは壁に寄りかかって立っている。

 

 今日は特別な日。

 ラパン学院の卒業生たちが、冒険者登録をする目出度い日。

 先輩冒険者たちは、冒険者の世界に踏み込まんとする新人たちを手厚く歓迎するために、仕事を休んでまで集まった――。

 

 訳ではない。

 

 もちろん、新人たちを優しく導こうと考えている冒険者も一部いるだろうが、大多数の目的は違う。

 ラパン冒険者ギルド本部には、特別な日にのみ姿を現す、特別な職員がいるのだ。

 彼らの目当ては、それだ。

 

 受付担当の職員たちがカウンターの奥で仕事に勤しむ中、彼女は一人遅れて、階段から下りてくる。

 

「き、来たぞ!」

 

「うひょー! 相変わらず、美人だなあー」

 

 ニルヴァーナ・ペイルロード。

 焦げ茶色のロングヘア―を靡かせて、一歩一歩、丁寧に脚を動かす。

 その歩き方はお手本のように美しく、王族貴族の振る舞いと遜色ないどころか、それ以上の気品がある。

 あまりにも美しすぎる歩行は、ニルヴァーナの完璧な曲線美を一ミリメートルも歪ませない。

 まるで絵画のようだ。

 

 階段を下り切ったニルヴァーナは黒い瞳にギルド内の冒険者たちを映し、ニコリと微笑んだ。

 

「ぎゃああああ!? 美しすぎるううう!!」

 

 あちらこちらで、幸せな叫び声と共に冒険者たちが倒れていく。

 ニルヴァーナの容姿は皆を惹きつけ、ニルヴァーナの笑顔は皆の意識を刈り取るほどに美しい。

 ニルヴァーナが初めて受付として現場に立った三年前、大量の冒険者が気を失い、当日の仕事が大混乱を引き起こしたのは今や伝説だ。

 その後二回、ニルヴァーナの要望で受付としての出勤を試みたが、結果は同じ。

 ニルヴァーナが出勤する日、冒険者たちは仕事どころではなくなった。

 

 結果、ニルヴァーナは完全に裏方へと回った。

 受付業務から手を引かされ、本部の奥で書類仕事。

 が、冒険者たちのニルヴァーナを一目見たいという強い要望が暴動を起こしかけたこともあり、ギルドは年に数回、特別な日にのみニルヴァーナを受付に立たせることで手打ちとした。

 

 誰が呼んだか、世界一美しい受付嬢。

 

「ニルヴァーナさん、こちらへ」

 

「ありがとうございます」

 

 受付のカウンター窓口は、一番から十番まで、全部で十ある。

 大量の冒険者を迅速にさばくためには、多すぎるくらいがちょうどいいのだ。

 そのうち、一番はA級冒険者が優先されたり、逆に十番窓口は新人の冒険者が優先されたりと、明文化されていない細かなルールも存在する。

 いわゆる、流れでできた暗黙のルールだ。

 

 ニルヴァーナは案内に従い、窓口へと移動する。

 

「はあー」

 

 ただ歩くだけのニルヴァーナを見て、また数人の冒険者が意識を失う。

 

 ニルヴァーナにとって、冒険者が倒れることは誇りだ。

 

 職員となったばかりのニルヴァーナは、新人の自分が受付業務を担当できないことに申し訳なさを感じ、また冒険者ギルドに混乱を招いたことについては自責の念を感じていた。

 初日から成果を出せない自分を恥じていた。

 

 一方、冒険者ギルドがニルヴァーナの美しさで倒れる冒険者を前提とし始めてから、つまり冒険者にニルヴァーナを見せる日が作られてからは話が別。

 裏方としてバリバリ仕事をこなすことで自責の念を払しょくし、年に数回の受付業務の時は、むしろ積極的に冒険者を魅了することを心がけた。

 冒険者好みの細くも引き締まった体を維持し、また念入りな髪の手入れや化粧で美しさも磨き続けた。

 ニルヴァーナの勝気な性格は、冒険者を外見だけで喜ばせるというミッションに対しても、全力で応えてみせた。

 

 与えられた仕事を十全にこなすこと。

 ニルヴァーナにとって、これに勝る喜びはない。

 

 ニルヴァーナは案内された一番窓口に立ち、カウンターに置かれた書類を手に取る。

 

 一番窓口は、A級冒険者のための窓口。

 他の窓口よりもスペースが広く、冒険者が座るための椅子もふかふかとしたクッションがついて快適で、特別扱いされている。

 

 ラパン学院の卒業生たちの冒険者登録もまた、一番窓口で行われる。

 一番窓口の特別さを見せつけ、A級冒険者が特別であるという意識を刷り込むため。

 そして、一度特別扱いをすることで、自分たちもA級冒険者になって特別扱いされる存在になるのだとやる気を出させるため。

 

「あー、いいなー。俺ももっと若かったら、ニルヴァーナちゃんに冒険者登録してもらえたのになー」

 

「なー。今のやつらは、恵まれすぎてるぜ。羨ましい……」

 

 冒険者たちの怨嗟の声を眉一つ動かさずに聞き流し、ニルヴァーナはこれから来る人間の情報が書かれた書類に目を通す。

 

 ラパン学院主席。

 フレミー・マンスリーの情報に。

 

(学問での成績が一位。武術も一位。魔法だけは一位じゃないけど、それでも二位。なるほど。歴代最高傑作って噂は、嘘じゃないのね)

 

 ニルヴァーナの耳にもまた、フレミーの情報は届いていた。

 ニルヴァーナは、今朝がた届いたフレミーの最新の情報を読み進めていき、装備の項目で視線を止める。

 

(裸……エプロン……?)

 

 その瞬間、冒険者ギルドの扉が開いた。

 

 さて、ラパン学院の卒業生には、伝統がある。

 冒険者登録をしにくる卒業生の順序は、成績優秀な者が優先されるという伝統だ。

 つまり、第一陣は主席を含む三名。

 

 開いた扉から本部の中に入ったフレミーは、威厳ある堂々とした姿勢で歩き始めた。

 

 裸エプロン姿で。

 

「へ、変態だーーーーー!?」

 

 ニルヴァーナは、思わず叫んだ。

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