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第5話 ミニスカート

 しばし、時が止まった。

 立会人をしていたロミも、観戦していた生徒たちも、壁に貼りついたシュロを呆然と見ていた。

 シュロの体は壁にめり込んで、未だ剥がれないでいる。

 

 シュロが手にしていたはずの【魔法剣】は真っ二つに折れて、空中をくるくると回転していた。

 刃が三分の一だけ残った柄が地面に落ちて、その数秒後に三分の二の刃が落ちた。

 

「ロミ、決着の合図を」

 

 フレミーの一言で、立会人であるロミが我に返る。

 

「シュ、シュロさん!?」

 

 そして、急いでシュロの方へと走って向かう。

 

「あ、おい。決着の合図を」

 

 フレミーは走っていくロミに声をかけたが、ロミの耳には届かなかった。

 フレミーはロミに伸ばした手を引っ込めて、暴風で乱れた【裸エプロン】を整えた後、観戦していた生徒たちの方を向く。

 

「まあいいか。勝敗の判断は、明白だろう」

 

 観戦していた生徒たちの視線は、シュロからフレミーへと移る。

 

 ラパン学院の主席という実力者。

 女神から無等級装備を授かった敗北者。

 そして半裸の変態。

 良い感情と悪い感情がごちゃまぜになった心で、生徒たちはフレミーを見続ける。

 

 ただ一つ分かったことは、ラパン学院において十位という優秀な成績を残し、さらにはA級装備を授かったシェロを、一撃でのしたフレミーの圧倒的な実力だけだ。

 

 生徒たちの中で、フレミーの評価が揺れに揺れる。

 冒険者には、個人の強さと同じくらい、横の繋がりも必要だ。

 フレミーという人間と関わり続けることが得か、それとも離れることが得か。

 生徒たちは、悩みに悩んでいた。

 

「そこの君」

 

 そんな心中など察することなく、フレミーは近くにいた生徒に声をかける。

 

「え? あ、はい!」

 

 声をかけられた生徒は、誰へ声をかけたのか確認するため左右を見て、自分だと分かると背筋を伸ばして直立した。

 

「シュロのやつに伝言を頼む」

 

「伝言?」

 

「ああ。決闘の勝者は、敗者に何でも一つ命令ができるルールだったからな」

 

 生徒は、サッと顔を青くする。

 それはつまり、その生徒がシュロに対して直接命令の内容を告げることを意味するからだ。

 シュロの性格上、八つ当たりに巻き込まれる可能性は大いにある。

 

 生徒は即座に断ろうとも考えたが、逆にフレミーからの頼みを無下にすれば、フレミーの機嫌を損ね、シュロよりも強いフレミーとの繋がりが絶たれる可能性もある。

 

「わ、わかり……ました……」

 

 思考を巡らせた末、生徒は決して繋がりが持てないだろうシュロでなく、可能性の残るフレミーを選んだ。

 シュロがフレミーを見下し、煽っていたのは周知の事実だ。

 フレミーが、この機にシュロへ復讐する可能性は十分にある。

 生徒は、どんな過酷な命令が来るかを覚悟して待った。

 

「では、こう伝えてくれ。『ラパン学院の同期として、そして冒険者の高みを目指すライバルとして、共に研鑽し、A級冒険者を目指そう』とな」

 

「え? あ、はい」

 

 フレミーはそう言い残すと、シュロに背を向けて立ち去って行った。

 

 復讐どころか、まるで真逆。

 シュロと握手するような命令を受け取った生徒は、想定外の命令に驚き、その場に立ち尽くす。

 そして、さらに顔を青くする。

 

 対等として扱われること。

 それは、シュロが最も嫌うことである。

 フレミーのお願いを聞いた生徒が、シュロの八つ当たりに巻き込まれる未来が確定した。

 

 

 

 

 

 

「あ、あの! フレミー君!」

 

 大聖堂を出て帰路につくフレミーを追いかけ、ネザーが声をかける。

 フレミーは立ち止まり、ネザーの方を振り向く。

 息を切らし、下を向いて立つネザーの手には、無等級装備【ミニスカート】が握られており、ネザー自身は【装備神託の儀】が始まる前から履いていた制服のスカートを着用していた。

 

「ネザーさん、何か用かな?……【ミニスカート】、脱いだんだね。余計なお世話かもしれないが、せっかく女神様から最適な装備だと授かった装備だ。できれば、常に着用しておくことをお勧めするよ」

 

 フレミーは学院主席。

 ネザーは学院次席。

 性別も性格も違ったが、二人とも一流の冒険者を目指す良き学徒として接していた。

 例えば、総合的な実力の評価によってフレミーは主席となったが、魔法の実力だけで言えばネザーの方が優れているため、ネザーからよく魔法を教わってもいた。

 

 ネザーは息を整え、顔を上げてフレミーを見る。

 そして、裸エプロン姿のフレミーを見て、頬を染めて顔を背ける。

 

「あ、あの」

 

「ん?」

 

「え、えーっと、その」

 

「なんだい?」

 

「お、怒らない?」

 

「内容によるけど、ネザーさんが俺を怒らせるようなことを言うとは思えない」

 

 ネザーはもごもごと口を動かした後、恐る恐る口を開く。

 

「そ、その格好、恥ずかしくない……の?」

 

「格好?」

 

 ネザーが指しているのは、言うまでもなく【裸エプロン】だ。

 前方だけを隠し、側方と後方が無防備な装備を躊躇いなく着用し、あまつさえそのままの格好で大聖堂の外へ出たフレミーの行動が、ネザーには信じられなかった。

 仮にネザーが【裸エプロン】を授かり、生徒たちの前で着替えさせられていたとすれば、二度と人前に現れない程度に恥辱を感じていただろう。

 

「そ、その……。私、【ミニスカート】……じゃない?」

 

「そうだね。女神様より授かっていたね」

 

「は、恥ずかしくて……」

 

「恥ずかしい?」

 

「女神様が選んでくださった物だって、わかってはいるんだけど……。その……あんな、脚が露になる格好は……私…‥‥」

 

 ネザーが俯き、自身のスカートを両手でぎゅっと握る。

 長い丈のスカートは、くしゃりとシワができてもネザーの膝を隠したままだ。

 

「なるほどな」

 

 フレミーは、自身の【裸エプロン】を見る。

 フレミーとて、まったく恥ずかしさがないと言えば嘘になる。

 しかし、冒険者になるために鍛え上げられた肉体は、誰に見せても恥ずかしいと感じるものではなかった。

 

 むろん、その考えをネザーに押し付ける気はないが、ネザーへの回答として、フレミーは腰に手を当て胸を張った。

 その堂々とした姿に、ネザーは思わず顔を上げ、フレミーを見つめる。

 

 瞬間、突風が吹き、ネザーのスカートとフレミーの裸エプロンが捲れ上がった。

 

「ひあっ!?」

 

「ネザーさん! 女神様が俺のために選んでいただいた装備を、俺は誇りに思っている! 恥ずかしさ以上に、俺は女神様の期待に応えたいんだ!」

 

 風が収まる。

 スカートと【裸エプロン】が元の位置に戻る。

 スカートを押さえるネザーに、フレミーはグッと親指を立てる。

 

「どうするかはネザーさん、君次第だ。でも、俺は君とラパン学院の同期として、そして冒険者として、ともに高め合っていけると嬉しい」

 

 そのままフレミーは、再び帰路についた。

 励ましの言葉を残して去っていくフレミーの姿を、ネザーはボーッと見つめていた。

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