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第4話 決闘

「おい、どけ! 道を開けろ!」

 

 シュロとフレミーを囲む人混みをかきわけて、シュロの友人であるロミ・プラネタが現れた。

 小柄な身長ではあるが、シュロをリスペクトした金髪とシュロの庇護下にあるという強気な態度で、存在感だけはある少年だ。

 周囲からは、よく思われていない。

 強引に通ろうとするロミの前から生徒たちは消え、ロミの前に道が開く。

 ロミは囲みの中に入ると、シュロに軽く頭を下げた後、フレミーを睨みつけた。

 

「この決闘、俺が立会人をする! 文句はないな平民?」

 

 立会人とは、決闘の勝敗を判断する者。

 通常、中立な立場の人間が行うものだ。

 関係者の場合、どちらかを贔屓した判定を下しかねないためだ。

 

「いいだろう」

 

 だが、この決闘は非公式。

 言葉を選ばずに言うのならば、遊びのようなものだ。

 故に、フレミーはロミの立会人を受け入れた。

 

「だがな、ロミ」

 

「なんだ?」

 

「お前も平民だ。平民のお前が俺を平民と呼ぶのは、適切ではない」

 

「黙れ! 俺は将来の騎士、シュロさんの一番の側近! 平民でも、お前とは格が違うんだよフレミー!」

 

「シュロにも言ったが、シュロも平民だ」

 

「なん……んぎぎぎぎぎ!」

 

 フレミーとロミが言い合う最中。

 シュロは腰の鞘から、見せつけるようにゆっくりとA級装備【魔法剣】を抜き、切っ先をフレミーへと向けた。

 

「見ろよ。これがA級装備だ」

 

「ああ。【装備神託の儀】で見させてもらった」

 

「これこそ、女神様に愛された者のみが授かる力」

 

 シュロは伸ばした手を戻し、魔法剣の柄を慈しむように撫でる。

 蛇が巻き付いたデザインの柄は、純粋な黄金製。

 しかし、女神の加護によって、重量はさほどでもない。

 柄から伸びる刃は銀色に光っており、鏡のように周囲の景色を反射して映し出している。

 

 そして、シュロは【魔法剣】の柄を両手で握り、構える。

 フレミーに、A級装備を見せつける。

 

「……気に食わねえ」

 

「何がだ?」

 

「お前の全部がだ! 騎士である俺様を崇めやしねえ! 成績で俺を越えてるのに喜びやしねえ! 今もだ! A級装備を持った俺様を、お前は見ようともしてねえ!」

 

「そんなことはない。同級生として、お前を」

 

「見下してんじゃねえぞ平民が!」

 

 無糖級装備【裸エプロン】が、風によってひらひらと靡く。

 裸エプロンの布によって隠されていた下半身が、ちらちらと白日の下にさらされる。

 が、シュロの目はもうフレミーの瞳しか捉えていない。

 あらゆる異常を脳から排除し、ただフレミーを血祭りにすることだけに集中する。

 

「俺様の輝かしい冒険者人生! 始まる前に、まずは俺様の学院の汚点を雪いでやる!」

 

「汚点だなどというな。お前が学院で立てた目標に辿り着いていなかったとしても、学院で積んだ努力は必ずお前の力となってい」

 

「決闘開始を宣言しろロミイイイ!」


「は、はい!? 決闘開始!」

 

 これ以上、フレミーと話しても噛み合うはずがないと、シュロは会話を打ち切った。

 代わりに、力によってねじ伏せることで、自身の正当性を証明しようと動いた。

 

「俺様の魔力、存分にくれてやるそ【魔法剣】!」

 

 決闘が始まるや否や、シュロは即座に自身の魔力を【魔法剣】へと送り込んだ。

 

 ラパン学院で学ぶ戦闘術は、大きく三つ。

 剣を使って敵を斬る剣術。

 杖を使って魔法を放つ魔術。

 己の拳を使って敵を殴打する武術。

 その他、盾や弓矢といった戦い方も学びはするが、メインとなるのはこの三つだ。

 

 剣術は、剣を使わなければ使えない。

 魔術は、杖を使わなければ使えない。

 

 A級装備【魔法剣】は、そんな常識を一変させる。

 剣自体が杖の役割も兼ねるため、剣を持ちながら魔法を扱うことが可能になる装備なのだ。

 

 シュロの魔力を【魔法剣】は吸い上げ、その刃を赤い光で包む。

 赤い光は、炎魔法の魔力。

 刃は徐々に熱を帯び始め、熱気がシュロの周囲を包む。

 しかし、シュロの掴む柄の温度は変わらない。

 

 魔法を行使する冒険者が杖を必要とする理由はここにある。

 素手で魔法を放とうとした場合、手に熱がこもってしまい、自身の魔法によって手が焼け落ちる危険性があるからだ。

 

「ははははは! 見ろ、フレミー! これが、A級装備の力だ!」

 

 シュロは勝ち誇った雄たけびを上げて、【魔法剣】を振り上げる。

 【魔法剣】の輝きは最高潮に満ちており、現時点でシュロが制御可能な最大の魔力をため込んでいた。

 即ち、人間一人を二度と戦えなくするには十分すぎる熱量を。

 

「お、おい……。やばいって。誰か止めろよ」

 

 周囲を囲んでいた生徒たちが、ざわつき始める。

 誰もが、シュロの放とうとしている魔法の危険性を理解したからだ。

 直撃すればただでは済まない、炎の力。

 

 だが、シュロの攻撃的な性格は、生徒たちの誰もが知るところ。

 誰一人、シュロを止めようとはしない。

 否、巻き込まれるのを恐れて止められない。

 シュロが魔法を放つ先、つまりフレミーの後方に立っていた生徒たちは、危険を感じて蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 

 本来であれば、命にかかわるとして立会人が止めてもおかしくない場面。

 だが、立会人であるロミは、フレミーに起きるだろう惨劇を予想してにやにやと意地悪く笑っていた。

 

 この場においては、ただ一人、フレミーだけが冷静さを保っていた。

 

「見事な魔法だ。鍛錬のほどがうかがえる」

 

「その……! その上から目線をやめろ! 無等級の平民風情が!!」

 

 どれだけ煽っても力を見せつけても冷静なフレミーを見て、シュロは激高する。

 怒りが魔力を増幅させ、シュロに限界を一歩越えさせる。

 魔力が一回り大きくなり、シュロにとって過去最大の魔力が、【魔法剣】に宿る。

 シュロは怒りのままに【魔法剣】を振り下ろし、過去最大の炎魔法を放った。

 

 剣から発せられていた赤い光は集まり、炎の龍へと姿を変える。

 そして炎の龍は、大きな口を開けて一直線にフレミーへと飛び込んでいく。

 

「きゃあああああああ!!」

 

 この後の惨劇を想像し、一人の女子生徒が叫ぶ。

 

 炎の龍から発せられる熱と赤い光を浴びながら、フレミーは粛々と体を動かした。

 

 右の拳を握りしめ、脇の下まで引く。

 同時に、左の掌を開き、前に出す。

 

 

 

「ふっ!」

 

 

 

 正拳突き。

 腰の回転と共に突き出した右の拳は、大きな衝撃波を生み出した。

 周囲に暴風が巻き起こり、観戦していた生徒たちの服を大きく揺らす。

 

 フレミーの正拳突きによって、拳の前方にある空気が上下左右へと押し出され、酸素がなければ燃焼し続けられない炎の龍もまた空気と共に上下左右へと引き裂かれた。

 炎の龍の喉から尾にかけて、ぽっかりと穴が開き、穴を通してフレミーとシュロの目が合った。

 

「……ゑ?」

 

 目の前の出来事に理解が追い付かず、【魔法剣】を振り下ろした態勢でぽかんと口を開けるシュロの体に、衝撃波が直撃した。

 

「ぶぎゃびゃびあ!?」

 

 シュロは突然の衝撃に意識を失ったまま後方に吹き飛ばされ、顔面から礼拝堂の壁に衝突した。

 手足の肘膝が九十度曲がった状態で壁にへばりつくその姿は、さながら蛙のようだった。

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