第13話 ロビー
裏庭から戻って来たフレミー、ネザー、ベレイを待ち受けていたのは、冒険者たちの固まりだった。
冒険者たちは一目散に三人の元へ駆け寄って、三人のブレスレットを確認した後、ベレイ一人を囲んだ。
「な、なんだ!?」
一人の少女を大人たちが囲む奇妙な光景を前に、ベレイは少々委縮する。
「パーティメンバーは決まっているか? 決まってなければ、うちにどうだ?」
「おい姉ちゃん、やめときな。そこは剣士がもういるから喧嘩になるぞ。それよりうちだ! 丁度、剣士がいないんだ」
「やめとけやめとけ、そんな貧乏パーティ。うちならしばらく、通常の仕事の報酬に加えて、特別ボーナスも払う。新人ってことは、何かと入用だろう?」
「ふざけんな! 金で解決しようとしてんじゃねえ!」
が、その目的がベレイへの勧誘だと分かれば、萎縮から一転。
表情に冷静さを取り戻し、逆に冒険者たちを品定めするような瞳へと変わる。
強い者は、選べる。
実力社会の、単純な真理だ。
今日という日は、ラパン学院卒業生にとっての等級試験日であり、先輩冒険者たちの新人勧誘の場でもある。
冒険者は、単独行動ではなく、パーティを組むのが一般的だ。
パーティの規模は三人から六人が一般的だが、大規模になると数十人を超える。
パーティの強さは、メンバーの強さやバランスに依存する。
新人冒険者を勧誘できるこの場所は、冒険者たちにとって戦力増強の場でもあるのだ。
ちなみに、卒業生の上位陣から順に等級試験を受けて冒険者となるのは、優秀な新人を選ぶ側に回す意図もある。
先にギルドのロビーに立てるので、等級試験が終了した優秀な動機を勧誘できるのだ。
「大人気だな」
「だ、だねえ」
フレミーとネザーは、ベレイに集まる冒険者たちをただ見ていた。
無等級である以上、いくらかの偏見に殴りつけられることは覚悟していたが、二人の想定以上に現実は露骨だった。
「とりあえず、座る?」
「あ、うん」
ベレイの周りに冒険者たちが集まったことで、ロビーにある椅子には空席ができていた。
フレミーとネザーは空席となった席に座り、ギルド内を見渡した。
冒険者たちの動きは三種類だ。
ベレイに群がる者。
ギルドから出ていく者。
椅子に座ったまま待機する者。
ベレイに群がる者の理由は単純だ。
ベレイをパーティに引き入れたい、それだけだ。
ギルドから出ていく者は、上位三人を見た結果、今期の新人を取る必要はないと判断した者だ。
一位から三位までが眼鏡にかなわなければ、それ以下の冒険者など見るにも値しないというわけだ。
そして椅子に座ったまま待機する者は、四位以下の学院では測れない原石を探す者か、たんに賑やかしとして遊びに来ている者だ。
待機している冒険者の視線がちらほらフレミーとネザーに刺さるが、すぐに逸らされる。
期待外れ。
視線がそう告げていた。
「どうするかな」
誰にも求められていない空気の中、フレミーは考える。
期待されないことは気にならなかった。
結果で見返せばいいと考えているから。
しかし、誰ともパーティを組めないのだけは避けたかった。
冒険者には、得手不得手がある。
どんな状況にでも対処するためには、誰かとパーティを組むことは必須だ。
また、一人だけのパーティに発注される仕事も少ない。
商人の護衛などまずないし、魔物討伐も避けられるだろう。
発注されるとすれば、せいぜい雑用くらい。
一人だけのパーティの成功例など、例外中の例外だ。
フレミーは、実力を疑われている。
であれば、フレミーが思いついた手は二つだった。
一つは、荷物持ち係としてパーティへ加入すること。
もう一つは、自身の実力を知っているラパン学院の同期と組むことだ。
フレミーの考えと同期するように、四位以下の卒業生たちが続々とギルドを訪れ、一番窓口へと誘導されていく。
フレミーが視線を向けると、視線に気づいた卒業生たちは複雑な視線を返してきた。
フレミーは、未だ同期たちが、フレミーと組むべきか否かを悩んでいることを理解した。
「はあ」
フレミーは、思わずため息をついた。
「ど、どうしたの?」
「いや、誰とパーティを組もうか悩んでいてね」
「あ、そ、そうだよね。私も、考えなきゃ」
心配そうに自身を見るネザーを見ながら、フレミーはネザーの無頓着さを羨ましく思った。
次席にして無等級装備。
そして等級試験後、どの冒険者からも声がかからなかった存在。
つまり、フレミーとほぼ同様の立場だ。
にも関わらず、フレミーと違って現状の心配をしていない。
場を和ませようと笑顔を作るネザーに対し、フレミーは思わず心配で口を開く。
「ネザーさん、君は」
「?」
と、そこで気が付いた。
誘うべき相手は、目の前にいたことに。
「……君は、もう誰かとパーティを組むか決めているのかい?」
卒業生は、卒業生同士でパーティを組むことも珍しくはない。
ネザーもまたすでに相手が決まっていて、待っているのではないかという確認だ。
「え、ううん? 決めてないけど」
「そうか」
「うん」
「なら、俺とパーティを作らないか?」
フレミーは、相手がいないネザーをパーティに誘った。
考えてみれば、魔法に長けるネザーは、拳で戦うフレミーとの相性はよい。
近距離と長距離で、役割分担ができるという点において。
「え? あ、わ、私で良ければ喜んで」
ネザーもまた、フレミーの誘いに喜んで乗った。
ネザーにとって重要なのは、相手の実力よりも話しやすさ。
少々堅物なところはあるが、どんな相手かもわからない冒険者と組むよりフレミーと組むことが、ネザーにとっても都合がよかった。
「では、よろしく頼む」
「こ、こちらこそ」
誰も注目されない一席。
ひっそりと、パーティが一つ誕生した。
なお、フレミーは等級試験が終わった同期たちを何人か誘ってみたが、残念ながら良い返事はもらえなかった。




