第12話 裏庭
等級試験を終えた冒険者には、等級を示すブレスレットが授与される。
A級はゴールド。
B級はシルバー。
C級はブロンズ。
フレミーとネザーはブロンズ、ベレイはシルバーをそれぞれ腕につける。
「以上をもって、等級試験は終了となります。皆様、お疲れ様でした。たった今より、皆様はラパン冒険者ギルドの冒険者となります。建物に戻って、仕事を受けるも良し。仲間を集うも良し。ギルドの規範を守って、ご自由に冒険者活動をなさってください。皆様の冒険に、素敵な未来があることをお祈り申し上げます」
ニルヴァーナが三人に深々と頭を下げ、裏庭の出口へ誘導するように手を伸ばす。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
フレミーとベレイが、ニルヴァーナとノーマに向けて頭を下げる。
「あ、ありがとうございました!」
遅れ、ネザーが頭を下げる。
頭を上げた三人は、ニルヴァーナとノーマに背を向けて歩き、扉をくぐって本部の建物の中へと戻っていった。
裏庭に残ったのは、ニルヴァーナとノーマの二人だけ。
ニルヴァーナは、頭をガシガシと掻くノーマを見ながら口を開く。
「どうでした? あの二人」
「無等級の二人か? どっちもやばいね」
ノーマの言葉に、ニルヴァーナの瞳がギラリと光る。
「具体的に伺ってもよろしいでしょうか?」
ニルヴァーナは冒険者ギルドの人間。
職務の一つに、冒険者の正確な実力を推し量りることがある。
そのため、冒険のプロフェッショナルであるノーマの目から見た評価も、情報として仕入れておきたかった。感想は、記録すべき情報である。
ノーマは、紙とペンを持って準備万端のニルヴァーナを見て、話すまで解放されないことを悟る。
雑談のネタとして、他の冒険者の実力を推測で話すのはマナーとして良くはない。
だが、ニルヴァーナに話すことは、冒険者ギルドに所属する人間としての職務の一つかと判断すれば、ノーマはすっと口を開いた。
「まず、ネザー・ランドの方だが」
「ノーマ様をパンツ一丁にした方でございますね?」
「……そうだが。口にする必要あったか、それ」
「いえ、失礼致しました。続けてください」
「……ネザー・ランドの装備、【ミニスカート】の能力はおそらく、ズボンかスカートを吹き飛ばす能力、あるいはパンツを露出させる能力だな」
「まあ、でしょうね」
ここまでは、ニルヴァーナも予想できた回答だ。
だからこそニルヴァーナの持つペンは動かない。
ニルヴァーナが欲しいのはその先、つまり、冒険の中でどのように使えるかである。
ノーマは、言葉を続ける。
「どちらの能力にせよ、人前でパンツ一丁になんてされたら、パニックになるのは間違いない。女は当然、男もな。で、飛んでいったズボンを取りに行こうと無理に動けば最後、陣形が崩れてそこから雪崩れ込むってこともできそうだ。対人戦闘においては、大きな混乱を引き起こせる能力だな」
「なるほど。おっしゃる通りですね」
(さらにいえば、もしも【ミニスカート】がズボンやスカートに限らず、装備そのものを吹き飛ばせる装備に進化したら、凶悪度は増すが……ここまでは言わなくていいか)
ニルヴァーナの手が動く。
ペンが紙の上を走り、ネザーの情報が記録されていく。
記録したいことを書き終えると、ニルヴァーナはネザーの情報を記録した紙を仕舞い、フレミーの情報を記録するための新しい紙を取り出し、視線で次を促した。
「で、もう一人。フレミー・マンスターだが……はっきり言おう。装備についてはわからない」
「わからない、ですか?」
「ああ。わからない。そもそも彼は装備を使っていなかった。さすがに使わない装備、それも無等級の装備を推し量るのは不可能だ」
「まあ、そうですね」
ノーマの言葉を聞き、ニルヴァーナは取り出した紙とペンを仕舞い始める――。
「だが」
「だが?」
途中で、手を止めた。
「強い。おそらく、桁違いに」
「理由をお伺いしても?」
ノーマは、自身の腹部に触れる。
先程、フレミーに殴られた場所だ。
痛みは既に残っていないが、殴られた時の感触は鮮明に記憶に刻み込まれていた。
「【柔らかい鎧】は、並みの攻撃……少なくとも、C級装備【棍棒】程度であれば、無傷で防げる代物だ。彼との手合わせでは腹部への防御力を高めていたため、B級装備の攻撃さえ無傷でいられた自信がある」
ノーマの言いたいことを察したニルヴァーナは、神妙な表情へと変わる。
「それを、B級装備も防げる防御力を破ったということですか? 素手で?」
「あくまで防げる自信があっただけだ。絶対に防げる防御力だったという気はない。だが、まあそうだ。素手で、破られた」
「もしも人伝で聞いていれば信じられないお話ですね。ですが、フレミー様の攻撃が【柔らかい鎧】を突き抜けていたのは、私も自分の目で確認しています。信じざるを、えませんね」
「彼が【裸エプロン】の効果を意図的に隠したのか、あるいは彼自身も使いこなせていないのかはわからないが。もしも、【裸エプロン】に筋力を増す効果や拳を棍棒のように固くするような効果があれば、元々の身体能力と相まって、一気に上がって来る可能性はある」
「要チェック、ということですね」
ノーマの意見を聞き終えたニルヴァーナは、止めていた手を再度動かす。
フレミーの情報を、紙へ書き留めていく。
そして、全て書き終えたところで、紙とペンを仕舞う。
「冒険者ギルドとしては、強い冒険者の登場は歓迎だろう」
「まあ、そうですね」
ノーマの言葉に相槌を打ちながら裏庭の足で軽く鳴らし、持ってきた書類を抱え上げる。
今抱えている仕事が終われば、次の仕事へ。
ニルヴァーナの頭は、すでにフレミーたちから切り替わっていた。
「ノーマ様、次の等級試験は十分後です。ご準備の方、よろしくお願いします」
そして、次の新人を案内するために、速足で裏庭の出口へと向かっていく。
「わかってるよ」
ノーマはニルヴァーナの後姿に笑みを送った後、手足を伸ばして体をほぐした。




