第11話 等級試験3
「最後。フレミー・マンスター」
「はい」
最後の一人、フレミーがノーマの前に立つ。
ノーマはフレミーの全身を舐めるように見つめ、眉間にしわを寄せる。
(こっちも、さっぱりわからない)
裸にエプロン。
ノーマの長い人生において、見たことのない装備だ。
ノーマにはおおよそ使用方法が分からず、無理やり戦闘での使い方を考えたところ、女が着用することで男の集中力をそぐ程度しか思いつかなかった。
だが、フレミーは男だ。
ノーマは、仮にフレミーが全裸になろうと、驚きこそすれ魅了も集中力の欠如もする気はなかった。
そして、驚いている最中だろうと、フレミーの攻撃を容易にいなす自信もあった。
「先輩」
「なんだ?」
「俺は今から、貴方の腹部を殴ります。怪我をしたくなければ、腹部の防御を固めてください」
だからこそ、フレミーの一言に、ぴきりと一筋の怒りを感じた。
これから冒険者になろうという少年に、二十年以上の歴を持つベテラン冒険者が、気を使われたと言われても仕方のない扱いを受けたのだ。
ノーマは努めて平常心を保ち、冷静に言葉を発する。
「まいったな。ぼくは、そんなに弱そうに見えるかい?」
皮肉を込めて言った一言も。
「いいえ。しかし、その鎧は攻撃の吸収と鎧自体が壊れないことに特化しているようにお見受けしたので、吸収できないほどの攻撃を放てば先輩にもダメージがいってしまうと思いまして」
フレミーの嘘偽りない言葉に返された。
「それはそれは。お気遣い、感謝するよ」
が、フレミーの言葉を聞いたノーマは、広げていた両手を閉じて、迎撃の構えへと変えた。
理由の一つには、フレミーの不遜な態度に対し、少しお仕置きをしてやろうという感情もある。
そしてもう一つは、【柔らかい鎧】の特性を見抜かれたことへの警戒。
装備が持つ特性を見抜くことは、冒険者として必須の能力である。
どんな攻撃、あるいは防御ができるかという知識の手札を持っておけば、戦闘が有利に進められる。
そのテーブルに乗せれば、フレミーは見てもいない【柔らかい鎧】の特性を見抜いてみせたのだ。
ベレイとの戦闘では、【柔らかい鎧】による防御は行わず、回避した。
つまり、【柔らかい鎧】が回避の妨げになりにくい特性を見せた。
ネザーとの戦闘では、【柔らかい鎧】による防御が意味をなさなかったものの、ただ受けてみせた。
つまり、【柔らかい鎧】が魔法に対する防御性能をある程度担保している特性を見せた。
物理攻撃への吸収に関する特性は、ただの一度も見せていない。
ベテランの冒険者であれば経験則から初見の装備の推測もできようが、フレミーは新人。
本来、ありえないことなのだ。
(何故、わかった? 偶然か? それとも、それが【裸エプロン】の持つ能力か?)
それ故、ノーマがそのありえないことを装備の力と考えたのは、ごく自然。
「では、行きます」
答えなど当然でないまま、試験は始まる。
フレミーは、ノーマに向かって駆け出した。
ノーマは近づいてくるフレミーを冷静に観察する。
(体への魔力の集中はない。これは、魔法ではない)
当然、腹部を殴ると言われ、言葉を全て信じるノーマではない。
言葉がブラフで、実際には魔法を放つという可能性も含めて、警戒に当たる。
試験と言えど、勝ちにこだわるのが冒険者の性だ。
だが、ノーマの想定とは裏腹に、フレミーは真っすぐノーマへと突っ込んで来た。
小細工なしに、まっすぐに。
フレミーは、ノーマの評価基準を看破していた。
裏をかいた一撃よりも、正々堂々の一撃を好むことを。
それ故、選択したのは真っ向勝負。
「おおおおおお!!」
ノーマまであと一歩。
フレミーは、思いっきり大地を踏みしめて、振りかぶった右の拳にぐっと力を込める。
(ここまで来れば、小細工もないだろう。宣言通りだったという訳か。いいだろう!)
ノーマは、フレミーの視線が集中する腹部に、【柔らかい鎧】の防御を集める。
より厚く。
より深く。
拳ひとつ程度容赦なく埋められるほど、深く。
「さあ、来てみろ!」
放たれたフレミーの拳は、何に邪魔されることもなく【柔らかい鎧】と接触する。
ずぐんと、まるで底なし沼のように、フレミーの拳が鎧の中に沈んだ。
そして、ノーマの腹に触れる。
「!?」
「おおおおお!!」
ノーマの腹部が、拳半個分へこむ。
「うっ……!」
腹部への衝撃に、ノーマは思わず咳き込む。
が、後退はしない。
ノーマは、フレミーの一撃を殺し、概ね防いでみせた。
「さすがです、先輩」
フレミーは拳を鎧から抜くと、残念そうな表情で言った。
ノーマに膝をつかせることもできなかったのは、フレミーとしては望んだ結果ではなかった。
フレミーは、ノーマに膝をつかせる気だった。
だが、平均からすれば成果は上々と言える。
攻撃を完全に防がれることなど、等級試験では珍しくない。
フレミーの一撃は、確かに賞賛されるべきものだった。
「……C級だ」
だが、ノーマから淡々と告げられた結果は、賞賛ではなかった。
「はい」
フレミーも、黙って結果を受け入れた。
「え、え? 攻撃は、通って……!」
受け入れられなかったのは、むしろ部外者のネザーだった。
過去の等級試験の過程と結果の噂を知っているネザーとしては、試験担当にダメージを与えたという過程とC級冒険者が与えられるという結果が、どうしても結びつかなかったのだ。
ノーマはネザーの方を見た後、再度フレミーに向き直った。
「理由は、わかっているな?」
「はい」
「この試験は、女神様から授かった装備を使って実力を見せる試験。【裸エプロン】の力を使わなかった君は、当然最低評価。C級だ」
「承知しております」




