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第10話 等級試験2

「次。ネザー・ランド」

 

「は、はい!」

 

 ノーマの呼びかけに答え、ネザーがノーマの前に立つ。

 僅かな風でも揺れる【ミニスカート】から、依然ノーマはネザーの能力を読めないでいる。

 

「さあ、いつでも来てくれ」

 

 が、その表情はいくらかの楽しみを噛み殺していた。

 

 無等級とは、授けられた冒険者にとって悲しむべき装備だ。

 攻撃も防御もできない、と宣告されているようなものなのだから。

 一方、他人の無等級ほど、楽しい装備はない。

 能力の予想がつかないという未知は、刺激を求める冒険者にとって最高のスパイスだ。

 

 ネザーは大きく深呼吸をし、両手を前に出す。

 ネザーの掌には魔力が集まっていき、周囲の空間を僅かに歪ませる。

 魔力の密度が上がることによって、屈折率が変換することによって起こる現象だ。

 少なくとも、B級冒険者と同程度の力を持たなければ、起こりえないが。

 

(あれだけ魔力が集まれば本来、彼女の手もただでは済むまい。だが、彼女は魔法の成績の主席。そんな基本を知らないわけがないだろう。ならば、おそらく無等級装備【ミニスカート】の力は、魔法の行使の補助)

 

 ノーマもまた、魔力を自身の装備に込める。

 

 ノーマの装備は、B級装備【柔らかい鎧】。

 その名の通り、柔らかい素材でできた装備であり、打撃攻撃を高いクッション性によって受け止める防具である。

 鉄製の防具と比べて大幅に軽く、機動力を落としにくいというメリットが存在する。

 また、魔法攻撃に対しても多少の防御性能も誇る。

 つまり、対打撃に強い防具。

 

 ノーラは、【柔らかい鎧】の弱点を克服するべき、自身の魔力を加えることで防御性能を向上させる術を編み出した。

 相手が炎を放つなら、水の魔力を加える。

 相手が水を放つなら、地の魔力を加える。

 受け止める魔法に対して相性の良い魔力を練り込むことで、【柔らかい鎧】は魔力攻撃さえ吸収することを可能とした。

 

(さあ、何の魔法が来る?)

 

 重要なのは、魔法の属性。

 ノーマはネザーの魔力の動きをじっと観察する。

 

「行きます!」

 

 が、ノーマにはついに魔法の属性が見抜けなかった。

 ネザーの掌に集まっていく魔力は、一切の色を帯びなかった。

 

「無属性魔法か!?」

 

 無属性魔法とは、定型化された魔法の外側。

 炎も水も放つことができない代わりに、固有の事象を引き起こす魔法。

 当然、攻撃をくらうまではどんな魔法か予想ができない。

 

「何もかもがイレギュラーな装備だな!」

 

 未知の攻撃を前に、ノーマは楽しみと警戒を強める。

 一方で、まだ表情には余裕が残る。

 

 繰り返す。

 無等級とは、武器や防具ではない装備につく等級である。

 武器や防具ではないということは、装備の力を使った物は全て、相手を傷つけることはないということだ。

 

 ネザーの手から放たれた無色の光線もまた、決してノーマを傷つけることはない。

 だからネザーは、今回は回避をしなかった。

 

「受けてやろう!」

 

 どんな能力かを確かめるために、ノーマは魔法を浴びた。

 等級試験で知り得た情報は、関係者以外に漏らすことが許されていない。

 しかし、ノーマ個人の知識としては蓄積される。

 ノーマは、喜んで未知へと飛び込んだ。

 

 光によって、ノーマの視界は真っ白に塗りつぶされる。

 

(痛くない。やはり、攻撃ではない。だとすれば、なんだ? 目くらましの魔法か?)

 

 ノーマは痛みのないことを確認した後、耳を澄ませる。

 もしも、ネザーの攻撃が目くらましだとすれば、次にネザーは装備を使わずに攻撃魔法を放つか、接近して殴打を食らわせて来る可能性があるからだ。

 しかし、ノーマの耳に、怪しい行動の痕跡は届かない。

 ネザーは魔法を放った場所から一歩も動いていなかった。

 

 もちろん。これは等級試験だ。

 あくまで装備を使って実力を見せる場とネザーが解釈していた場合、追撃をしてこないのは不自然ではない。

 だが、ノーマとしては、それでも勝利にこだわって追撃をするくらいの気概を見せて欲しかった。

 追撃しないことが減点になることはないが、ノーマの加点が無くなることは確かだ。

 

 光が収まる。

 ノーマの前には、ノーマをまっすぐ見るフレミーと、ノーマから視線をはずすネザー、ベレイ、ニルヴァーナが立っていた。

 

「なんだ? どうかしたのか?」

 

「え、えーっと……。そのぉ……」

 

 視線を逸らしたままのネザーが、恐る恐るノーマを指差す。

 具体的には、ノーマの下半身を。

 

「は、履いて……ください……」

 

「履く?」

 

 ノーマは意味が分からないといった表情で、自身の下半身を見る。

 

 

 

 そこにズボンはなく、パンツだけがあった。

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「きゃーっ!?」

 

「ご、ごめんなさーい!?」

 

 ノーマは両手でパンツを隠そうとするが、当然隠しきれるわけもない。

 急いで辺りを見渡すと、ノーマの後方をひらひらと風で舞うズボンがあった。

 ノーマは急いでズボンを掴みとった。

 すぐに履こうとするも、鎧を着ているせいで履くことができないと気づき、てきぱきと鎧を脱ぎ始める。

 

(鎧を脱がさず、ズボンだけ脱がす? なんて訳の分からない魔法だ。使い道が……わからない……)

 

 ノーマはズボンを履き直し、鎧を装備し直すと、改めてネザーの方を見た。

 

「相手のズボンを吹き飛ばす魔法、という訳か?」

 

「た、多分……そう……です……」

 

 パンツ姿のノーマが記憶に残り続けるネザーは、赤面したまま答える。

 

 ノーラはパンツ姿を公開された遺恨をいっさい残さず、正々堂々とネザーに審判を下した。

 

「君は、C級冒険者かな」

 

「で、ですよねー」

 

 審判結果は、ネザーの予想通りだった。

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