第1話 神託
「ただいまより、【装備神託の儀】を執り行う」
春。
ラパン王国最大の大聖堂には、十五歳を迎えた少年少女たちが集められた。
彼らは皆、ラパン学院を卒業する生徒たち。
この日彼らは、九年間の義務教育を終え、晴れて成人を迎えるのだ。
そして、成人と共に執り行われる儀式の一つが【装備神託の儀】。
成人の祝いとして、女神より装備を授かる神事だ。
通常の装備であれば武器屋で防具屋で購入が可能だが、女神より授かる装備は特別だ。
女神は、少年少女たちの潜在能力を見抜き、最も適性を持つ装備を授けてくれるのだ。
何の装備を授かるか。
それは彼らにとって、今後の冒険者人生を左右する大きな出来事である。
例えば、ただの剣を授かる者と、魔力なしで魔法を行使できる魔法剣を授かる者、どちらが先頭に有利かは言うまでもないだろう。
中でも、A級装備と呼ばれる【装備神託の儀】でしか手に入らない装備を授かれば、冒険者としての成功は約束されたようなものだ。
「では、チップ・ポテト。前へ」
「んす」
名を呼ばれた生徒が席から立ち上がり、礼拝堂の中央通路を歩いていく。
中央通路の左右には無数の椅子が備え付けられており、祭壇に近い最前列には王族、二列目に王族の護衛、三列目以降に生徒たちが座っている。
名前を呼ばれるのは、ラパン学院における成績のワースト順。
言い換えれば、冒険者として期待されていない者から、王族の前で神託を授かるのだ。
ラパン王国の王族は、美味しい物を最後に食べるきらいがある。
チップは、祭壇の前に立つ司教の前で立ち止まると、軽く頭を下げた、
司教はチップの頭に掌をかざし、魔力を込めながら女神との対話を始める。
「この世界を司りし女神よ。どうかその慈愛の心で、チップ・ポテトに加護をお与えください」
チップの全身が白い光に包まれると、司教は女神から授かった言葉を叫ぶ。
「反射の盾!」
礼拝堂の中が、ざわりと震える。
「反射の盾とは、どんな装備かな?」
ラパン国の国王が、周囲への説明も込めて司祭にあえて問いかける。
「はい。【反射の盾】とは、攻撃魔法を跳ね返すことができるA級装備です。この者は良き冒険者となり、必ずや王国に功をもたらしてくれることでしょう」
「ふむ。一人目からA級装備を授かることができるとは、めでたいことだ」
国王が立ち上がり、チップに向って拍手をする。
国王に倣うように、女王、王子王女たち、そして護衛たちも立ち上がり拍手をする。
ラパン学院で最下位という成績を取り、装備についても期待をしていなかったチップは、想定外の出来事にしばし固まり、慌てて周囲に頭を下げた。
「では、装備の授与を」
司教が告げると、チップを覆っていた白い光はチップの前方に集まり、高さ一メートルはある縦へと姿を変えた。
チップは盾を受け取った後、再度周囲に頭を下げ、席へと戻っていく。
「よくやった」
「おい、すげえな!」
席に戻るチップは、声援と羨望の声、そして一部の嫉妬の目で迎えられた。
例え学院の成績が悪くとも、冒険者の実力という形で逆転ができる。
A級装備を授かるとは、そういうことだ。
「次、クリーム・ロール。前へ」
「はい!」
装備神託の儀は、粛々と進められていく。
「短剣!」
C級装備を授けられ、露骨に落ち込む者。
「魔法剣!」
A級装備を授けられ、明るい将来に喜ぶ者。
悲喜こもごもな感情が現れては消え、装備が生徒たちに渡されていく。
そして、残るは二人、
今年度の次席と主席である。
「次、ネザー・ランド。前へ」
「は、はい!」
ネザーは立ち上がり、中央通路を歩く。
次席ともなれば、優秀な冒険者としての期待も高く、王族たちの視線が強く刺さる。
ネザーは、ただでさえ内気な少女だ。
無数の視線を前に、顔を真っ赤に染めて恥ずかしがり、震える足で祭壇の前へ立つ。
司教は礼をしたネザーの頭に掌をかざし、女神と対話を始める。
「この世界を司りし女神よ。どうかその慈愛の心で、ネザー・ランドに加護をお与えください」
ネザーの全身が白い光に包まれると、司教は女神から授かった言葉を叫ぶ。
「ミニスカート!」
「………………はえ?」
司教の言葉に、ネザーは思わず顔を上げて、丸くした目で司教を見る。
「司教。【ミニスカート】とはいったい?」
疑問は、ネザーに代わって国王の口から放たれた。
「はい。丈の短いスカートのことです。少なくとも、膝より上。まあ、いわゆる、無等級装備ですね」
女神から授かる装備は、三つの等級が存在する。
強力な順に、A級装備、B級装備、C級装備と呼ばれている。
ただし、このいずれにも属さない装備が存在する。
それが、無等級装備だ。
等級がつかない理由は単純で、武器や防具ではないからだ。
等級の判断基準は、冒険者としての戦闘能力をどれだけ向上させることができるか。
武器でも防具でもない装備は、等級の判断基準の、外も外。
C級よりもハズレ、と言う者もいるほどだ。
ネザーはゆっくり首を動かし、自分のスカートを見る。
膝よりも足首に近いほど長い、露出を抑えたスカートを。
そして再び顔を上げ、震える声で叫ぶ。
「む、無理! 無理です!」
内気な性格に起因する、普段の小さな声からは信じられないほどの大声で、ネザーは叫ぶ。
それほどに、膝より上という短さのスカートを着用することは、ネザーには受け入れがたいことだった。
「いや、まあ、気持ちはわかるが……加護はもう受け取ってしまったのでな。そ、それに、意外と気に入るかもしれんよ……。きっと……。多分……」
「無理です! 司教様! 本当に!」
「コホン。では、装備の授与を」
司教は、ちらちらとネザーのスカートに視線を送りながら、無慈悲に装備の授与を開始する。
その視線に、下心がなかったと言えば嘘になる。
ネザーを包んでいた白い光がネザーのスカートに纏わりつき、その形を変えていく。
「い……いや……!」
ネザーの履いていたスカートが足元にパサリと落ちて、代わりにネザーは【ミニスカート】を着用していた。
白い太ももが、王族、護衛、そしてたくさんの生徒たちの前で露になった。
「いやああああああ!!」
背後から感じる他の生徒の視線を感じながら、ネザーはしゃがみ込んだ。
落ちたスカートを拾って太もも周りを隠し、その場にうずくまったまま、恥ずかしそうに顔を膝にうずめた。
「……席まで、連れて行ってあげなさい」
国王の言葉で、護衛の一人が立ち上がり、ネザーを席まで案内する。
スカートで隠しきれない脚に、無数の視線を受けながら、ネザーは席に戻った。
「無等級とはな」
ネザーがいなくなった後で、国王は失望したように呟いた。
ラパン学院の次席ともなれば、本来は王国にとって大きな戦力となるはずの存在だった。
期待が大きかった分だけ、失望も大きい。
「最後、フレミー・マンスター。前へ」
それ故、国王は最後の一人への期待をより膨らませた。
ラパン学院の主席。
国王の耳にも届くほど、歴代最高傑作との呼び声高い優秀な生徒。
文武両道であり、王国への忠誠心も高い真面目な少年だ。
鍛えられた肉体で中央通路を堂々と歩くその様は、国王が武の噂を真実と断ずるに疑いの余地がなかった。
まるで王宮に使える騎士団長にも匹敵する威圧感を感じた国王は、ぶるりと全身を震わせる。
百九十センチメートルの巨漢は司教の前で頭を下げ、司教からの言葉を待った。
司教は、フレミーの頭へ掌をかざした。
「裸エプロン!」
礼拝堂が、しんと静まり返った。




