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●すれ違いの昼食


 まだ自由時間中らしく、3階の廊下は生徒達が歩いている。ミキキは特待生だから、目立つ白い制服のはずだ。


 とにかく白! 白い制服だ。


 教室の入口では、4人の女子生徒が立ち話をしていて通れない。


 急いでいるのに……。


 僕はスイマセンと呟きながら、右手を手刀のようにして切り分けるように、女子生徒の間を通って教室の中に入った。


「あ、あの……テンくん?」


 何か声を掛けられた気がしたけど、僕はとにかく夢中で窓際まで進み、ミキキの席を見つめた。


 僕の前の席は、空席のままだ……。


 教室内を見渡しても、白い制服の生徒は僕以外居ない。


「まだ戻っていない……のか?」


 僕はそう呟いて自分の席に座り机に倒れ込む。はぁ~ 何か凄く疲れた……。


「ミキキちゃん可愛いな~」

「えっ!?」


 後から相田君が言った一言に、僕は凄い勢いで振り返った。


「あ、相田君! 今何て? いや! ミキキを見たの?」

「な、何言ってるんだよ? 今ソコに……あれ? 今の今までソコに居たのに」

「えっと、この教室に居たの?」

「うん。皆の前で、入学式に参列出来なかった事を謝ってから、自己紹介をしていたよ」

「そ、そう……なんだ……」


 僕はキョロキョロと辺りを見渡す。


「ミキキちゃん、ちっちゃくて元気な感じで可愛いな~」


 相田君がニヤニヤ笑う。


「そうね。人懐っこい感じもして可愛いかったわね」


 相田君の後から、眼鏡を光らせ鏡さんが言った。


「あ、そ、そうなの……?」

「なんだよ~? テンくん会えなかったのかい?」


 相田君の問いに僕は力無くうなずく……。


「まぁ、同じクラスだし、後で会えるから大丈夫さ~」

「そ、そうだよね?」


 また僕は、キョロキョロ教室内を見渡した。やっぱり僕以外に、白い制服は居ない……。


「そういえばテンくん、寮の説明とか聞いてないんだっけ?」

「え? もう終わっちゃった?」

「説明って言っても、担任がプリント配っただけだけどね。みんなもう部屋には、受付の後に行っているし」


 そう言って、相田君が僕の机の中を指さす。そこには1枚のプリントが入っていたので、取り出してみた。なるほど、寮の簡単な見取り図と、全クラスの部屋割り表が書いてある。


 みんなは一度、もう部屋に行っているのか……。


 僕の部屋は4階……。


「えぇっ!!」僕はプリントを手に、思わず立ち上がってしまった。


 周囲の注目を一気に浴びる……。


 ゴ、ゴホン! 咳払いをして席に着いた……。クスクスと周りから話い声が聞こえる。1番大きいのが、後の席の相田君の笑い声なのだが……。


「こ、これはどういう事なの!?」


 僕は後ろを振りかえり、相田君に問う。


「なんか……急遽決まったって、担任も驚いていたよ」

「だ、だって! 男女で一緒の、へ、部屋? 僕とミキキが同じ部屋なんて!?」


 そう、この表には、僕とミキキが同じ部屋だと書かれているのだ。


「いいな~ 羨ましいな~」


 相田君はニヤニヤしている。でも僕は、それ所じゃない……どういう事だ?


「皆の見本である特待生が、変な気を起こす訳……無いわよね?」


 相田君の後から、鏡さんが冷たい目で僕を見て言った。


「へ、変な事って……そ、そんな……え?」

「ワハハ、動揺しすぎだよテンくん」


 うぅ……恥ずかしい……。でもなんで? 普通男女は別の部屋にするのが当たり前だろうに。着替えとか、困るだろうし……。


 僕はその状況を想像しただけで顔が赤くなるのを感じた。


「ど、どうしよう……」


 僕は涙目で相田を見上げる。


「テンくんとミキキちゃんって、知り合いというか、親戚か何かじゃないの?」

「え?」

「いや、テンくんも、ミキキちゃんを知っている感じだったし……それに……」

「それに?」

「うん……。なんか他の特待生は個室らしいし」

「え? えぇ~?」


 ど、どうして僕とミキキだけ? 特別扱い? いや、この場合は普通扱いなのか?


「そ、それは、どういう事なのかな? 僕が特待生の資格が無いとか……」

「い、いやいや、さすがに部屋割り位でそんな……」


 相田君が、両手を振って必至に弁解してくれた。


「でも、変な話よね。部屋が足りなくて相部屋にするにしても、男女一緒って……」


 鏡さんがいつの間にか、椅子を持って僕の横に来ていた。


「や、やっぱり変だよね? 担任に聞いてみようかな……」

「もうすぐ昼休みだし、その後にしたら?」


 教室の時計を見ると、確かにもうすぐ12時だった。


 もう昼休みになるのか……。


「え~っと、この後の予定は?」


 僕は今日の予定なんかを、まったく聞いていなかったので相田君に尋ねる。


「各自、寮の食堂で昼食を取って、その後は部屋で待機らしいよ」


 相田君が、僕も手に持っているプリントを見ながら答える。


「朝は時間が無かったし、部屋の荷物も片付けないとな」

「そ、そうか、そうだよね……」

「さすがに部屋に行けばミキキちゃんとも会えるって。なにせ同じ部屋なんだから」


 相田君が笑いながら言う。


 そ、そうだ! 同じ部屋……。


 しかし僕は、さっきの保健室の会話を思い出して不安になる。


 ミキキらしき女子が、部屋に死体が置いてあるとか言っていた気がしたけど……。それってつまり、僕の部屋? いや、きっと聞き間違いだと思う。いくら何でも入学初日に殺人とか、そんな事が起きる訳がない。


 僕は折角ミキキに会えるのに、嬉しいような……怖いような……複雑な心境だった。


 一息ついた所で突然、見知らぬ女子が怒りながら近づいて来た。


「あ、あの! 針乃さん! さっきのは、酷いと思います!」


 その子はスラっと背が高く、姿勢の良い佇まいがクラス中の視線を惹きつけている。背中まであるフワッとした茶色い髪をなびかせて、その女子は僕を睨みつける。一度見たら忘れないような、大人びた雰囲気のある美人だが、全く見覚えは無い。


「え? な、何? 僕?」


 僕は、相田君に助けを求めるように見つめる。


「か、かか、華菊カキクさん!!」


 相田君の顔が尋常じゃなく赤い。な、なんだ? どうしたんだ?


「テ、テンくん! 華菊さんに、な、何を!!」


 相田君が興奮して立ちあがる。ワナワナ震えて今にも殴りかかってきそうな勢いだ!


「な、何? 僕、何か気に触る事したかな?」


 僕は汗だくになりながら精一杯答える。


 華菊さんというのか? この女子は。同じクラスみたいだけど、怒らせるような事をした覚えはない。


「ミキキちゃんが、せっかく針乃さんの事を待っていたのに! 無視するなんて!」

「えぇ?」


 ミキキの名前を聞いて、僕は一瞬で平常心を取り戻した。


「ミ、ミキキが居たの? 僕を待っていたって?」

「さっき、居たじゃないですか! 目の前に! 声も掛けたのに……」


 僕には、さっぱり覚えが無かった……。あれ? でも、そういえば教室の入口で、誰かに声を掛けられた気がしたけど……。


 僕が真顔で悩んでいるのを見て、華菊さんも冷静になったようだ。


「あの……もしかして、本当に気が付かなかったのですか?」

「う、うん……僕もミキキを探していたんだけど……」


 なんで気付かなかったのだろうか? 目立つ白い制服を見落とす訳は、ないんだけど……。


「ほ、ほら! テンくんは結構ボ~っとしている所があるから!」


 半ば強引に、相田君が話に入って来た。だけど目が泳いでいるし挙動も怪しい。


「あ、テンくん、彼女は華菊さん。華菊カキク 啓子ケイコさん! ね?」


 不気味だが、満面の笑みで相田君が、華菊さんの紹介をする。


「え、ええっと、はい……そうです。華菊です。はじめまして……」


 華菊さんは相田君の方を見て、不思議そうに首を傾げた。どうやら2人は、面識がある訳では無いらしい。


「あの、御免なさい。私、てっきり針乃さんがミキキちゃんを無視したのかと思って……」


 軽くウェーブのかかった長い髪を指で巻きながら、華菊さんは申し訳なさそうな顔をする。


「いや……でも僕、なんで気付かなかったのかな……」


 僕は小さく呟いた……本当に不思議だった。


「ミキキちゃん、ショックだったのか、走って教室を出て行ってしまったわ」


 華菊さんは眉毛をハの字にして本当に困ったような顔をしていた。


 それは大変だ! 僕はすぐにでも追いかけようと思ったが、誰かに腕を掴まれる。


「ねぇ! と、とりあえず、一緒に昼飯を食べない? 今日は寮の食堂で食べるんだよね!」


 鏡さんが僕の腕を引っ張りながら話に入ってきた。


「い、いや、僕はミキキを追いかけないと……」

「なに? 私達と一緒じゃ嫌なの?」

「い、嫌じゃないけど……ミキキが心配だし……」

「どこか閃さんの居場所にアテはあるの? どこに行ったかわかるの?」


 鏡さんに詰め寄られて僕は後ずさる。勿論そんなアテなんてある訳がない。


「闇雲に探しても仕方ないし、昼は食堂でって説明を閃さんも聞いていると思うから、そこで待っていた方が良いと思うの」


 相田君も大きく頷きながら言う。


「むしろ、もう食堂に行ったのかもしれないよな~」


 僕は少し考える。確かにその可能性も大いにあるだろう。とりあえず、食堂にミキキを探しにいくのは良いとしても……。


 みんなと食事? 僕が?


「折角だから皆で一緒に食べようって! ね? か、華菊さんも是非!」


 相田君が僕の背中越しに言う。ちょっと待って! 華菊さんも?


 振り返ると、相田君がぎこちない笑顔でコッチを見ている。


 うっ……思わず必要以上に大きく何度もうなずいてしまった。


「そ、そうね! それがいいわね! ね? ね? 華菊さん!」


 鏡さんが笑顔で華菊さんに話しかける。この強引さは見習いたいかも……。


「あ、えっと……はい。それでは……よろしくお願いします」


 華菊さんも、なんか断れないって感じだったけど、一応同意してくれた。ちょうど良いタイミングで昼休みを知らせるチャイムが鳴る。12時だ。


 そんなこんなで僕たちは、4人で寮の食堂に移動する事になった。僕は、すぐにでもミキキを探しに行きたかったけど、確かに鏡さんの言う通りでアテも無いし、お腹もペコペコだった。


 それにしても、どうせ昼食なんて1人で寂しく食べる事を覚悟していたのに……。4人で、しかも女子も一緒なんて……今までの僕にとっては、考えられない出来事だった。


 内心そわそわしているのを気付かれないように、みんなに合わせてゆっくり歩く。それにしても、なんで女子はこんなにゆっくり歩くんだ? 校舎から寮までは、職員室の先にある渡り廊下で繋がっているのだけれど、今日は使用できないらしい。


 1年生の寮は最近建築されたばかりで、所々まだ工事中との事だった。今日の所は、寮へは朝入って来た昇降口から、土足で外を通っていくようにと、指示されていたらしい。入学式の途中で、その辺の説明があったとの事だ。


 僕たち4人は、慣れない感じでよそよそしく会話をしつつ、階段を下りて下駄箱で、それぞれ外履きにはき替える。


 ところが……あ、あれ? 僕の下駄箱……確か32番だったよな?

 今朝、履いてきたはずの靴が無い……。


 まさか入学初日から……嫌がらせ? 何度か経験があるので、さほど驚かないけど……初日から暇な奴もいるもんだ。


 ん? 下駄箱の奥に封筒のような物が入っている……。

 これは……手紙? なんだろう? ご親切に靴の場所でも書かれているのか?


 手に取ると、封筒はピンク色でハートのシールで閉じてある。


 まさか! この見た目は……ラ、ラブレターという奴では?


 こっちは初めての事だ! ど、どうしよう……。


「あれ? テンくんどうしたの?」


 土足に履き替え終わった相田君が、不思議そうに近づいてくる。


「い、いや、な、なんでも……」


 僕は咄嗟に、手紙を上着のポケットに押し込み、しどろもどろに答える。


「あ、なんか僕、靴を無くしたみたいで……」


 僕は手に持っていた上履きを床に置いて、履きなおしながら言う。


「え? 靴が無いの? 誰かが間違えたのかな?」


 真っ先に、いじめや嫌がらせと考えない所が、僕とは違うよな……。


「あ、でも大丈夫。とりあえず上履きのままでいいよ」

「そう? でも今後、困るんじゃない?」

「2人を待たせちゃ悪いし……きっと、そのうち出てくると思う」


 多分、泥だらけでね……僕は心の中で思った。


「まぁ……そうだよね。間違えたとしたら、きっと1年生の誰かだしね……」


 相田君は、あくまで誰かが間違えたと思っているらしい。そんな訳ないのに……。仕方なく僕は、上履きのまま寮へ向かった。


 初日から靴が無くなったのは、ちょっとビックリしたけど……それ以上に、この手紙。もしかして……本当にラブレター? 僕に? 誰が?


 ――それと、忘れちゃいけない保健室で聞いた、ミキキとドクター・メイの会話……。


 信じられないような内容だったけど、あれはドラマやゲームの話じゃなかったと思う。だって僕の名前を言っていたし、死体を運ばせるとか……そんな事を言っていた……。僕は考える事が多すぎて、歩きながら天を見上げる。


 一緒に歩いていても、3人の会話が全く頭に入ってこない。僕はポケットの中の手紙を優しく握りながら、困ったような嬉しいような……少し怖いような……そんな複雑な感情を抱いていた。

それは、初めてミキキからのメールを受け取った時の感じに似ていた。


 僕達4人は寮の食堂で、いくつか置いてあった弁当から、選んで食事を取っていた。まだ食堂の準備が整っていないので、今日だけは弁当との事らしい。色々な弁当が置いてあったけれど、僕はチャーハンに惹かれて中華弁当にした。食堂は思ったよりも広く、空席も多い。


 皆で食堂内を見渡したけど、僕以外の特待生は1人だけしか居なかった。あれは朝、廊下ですれ違った、琴葉野さんだ。隣には僕にぶつかって来た眼鏡の子もいる。他の特待生の皆は、何処で食事をしているのだろうか? ミキキも……。僕も一応、特待生の目立つ白い制服なので、それなりに注目を浴びている気がする……。


 モデルのような容姿の華菊さんは、普通の制服でも注目を浴びているけど……。


「――ちょっと聞いてるの?」


 肘でつつかれて振り向くと、鏡さんが睨んでいる……。


「え? あ、ごめん……聞いていなかった……」

「も~う!」


 鏡さんは、呆れたように華菊さんに話しかける。


「ね? 針乃君って何時もぼ~っとしているから……ミキキちゃんを無視したのも、絶対わざとじゃないと思うのよ。ね?」

「そう……みたいですね……本当に、さっきから上の空ですもんね」


 華菊さんは、困ったような顔をしてチラチラ僕を見る。


 そんなにぼうっとした顔をしていたのだろうか? これから気を付けよう……。


「あの、ミキキには、本当に気付かなくて……僕も探していたんだけど……」


 僕は首を傾げながら弁解していた。本当に何で気付かなかったんだろう……?


「白い制服を着ているから、すぐ解ると思っていたんだけど……」

「え?」


 3人全員が声を出し、顔を見合わせる。


「え? え? 何? 僕、何か変な事言った?」


 相田君が牛丼を右手に持ったまま答える。


「そっか~ テンくん知らなかったんだね。そっか~ そうだよな~」

「うん、なら仕方ないか……」


 鏡さんもオムライスをスプーンで切りながら、大げさにうなずく。


「何? 何?」


 僕は助けを求めるように華菊さんを見た。


「えっと……ミキキちゃん、さっきは一般生徒の制服を着ていたんです……緑の……」

「え? え? 何で?」

「白い制服は、何かで汚しちゃったとかで……」


 そ、そうだったのか……。


 僕はミキキは白い制服だとばかり思いこんでいたから、気付かなかったのかも……。僕はもう一度、改めて食堂内をぐるりと見渡す。もしミキキが、一般生徒と同じ制服だとすると、見つけられる自信がない……。


 なにせ、僕が知っているミキキの顔は、2年以上前の画像だけなのだから。


 僕は携帯のミキキの画像を出して、華菊さんに見せてみた。


「2年前のミキキの画像なんだけど、今とどうかな? 結構変わっているかな?」


 僕は内心、ドキドキしていた……全然違う人だと言われたらどうしよう……と。


「これ、本当に2年前なの? なんか……ミキキちゃん、あまり変わらないわね」


 華菊さんが、少し驚きながら言う。鏡さんと相田君も、携帯を覗き込みうなずく。


「小さくて、今でも中学生って感じだったよな」


 相田君が笑いながら左右の女子に同意を求めるが、失礼だと感じたのか、それには2人とも同意はしてくれない感じだ。皆のやり取りを聞いて、内心僕は、心底ホッとしていた。


 別に見た目なんて気にしないと思っていたけど……。それでも、ずっとミキキだと思っていた画像の子が、実は違う人だったら、やっぱりショックだったと思う。


 華菊さんは、僕の古い携帯が珍しいのか、手に取ってひっくり返したり興味深そうに見ている。モデルのような華菊さんが持っていると、僕の携帯もオシャレなアイテムに見えてくるから不思議だ。


 そういえば僕が教室に戻った時に、入り口付近に女子が集まっていたのを思い出した。


「ひょっとして、ミキキって教室の入口付近に居た?」

「はい……私も一緒に……」

「そ、そんな……」


 何て事だ……確かに僕は、思いきり無視してしまったようだ……。


「で、でも、ワザとじゃないし、制服も違ったんだし! ねえ?」


 僕が落胆しているのに気づいて、鏡さんがフォローしてくれた。


「はい……私は……もういいんですけど……」


 そうだ、ミキキが誤解したままじゃ意味がない。


「ねえ! ミキキは、どこに行ったと思う?」


 華菊さんは目をつむり、黙って首を横に振った。


「針乃さんに無視されたと思ったのか、走って出て行ってしまいましたので……」


 うぅ……ワザとじゃないにしても、僕はミキキを傷つけてしまったのだろうか?


「でもどうせ寮に戻ってくると思うし、なんといっても2人は同じ部屋なんだしさ!」


 相田君がニヤニヤしながら話す。


 そ、そうだった……僕は同じ部屋なんだ……ミキキと……。


「そ、そうだよね……部屋で待っていれば、会えるよね……そこで謝るよ」


 僕は動揺しているのを隠し切れずにいた。


「はい。それが良いと思います。ミキキちゃん、ショックだったみたいだから……」


 華菊さんが、焼き魚の骨をつつきながら言った。


「う、うん……そうだね……じゃあ、ミキキが来るまで部屋に居た方がいいのかな?」


 僕は、今後の確認をするように聞いてみた。


「どっちにしろこの後は、みんな部屋で待機なんだから、それで大丈夫よ……」


 鏡さんが呟くように答える。そして僕の方をチラっと見た気がする。


「そ、そうだよね……」


 僕も何となく不安を感じつつも同意した。ミキキが今、何処に居るかわからないし、部屋で待つしかないか……部屋で……。僕は保健室の前で聞いた会話を思い出したが、とても皆に話せる内容ではない……。


「そういえば華菊さんは、私と相部屋なのよね……」


 鏡さんが、思い出したようにボソっと言った。


「はい! よろしくお願いしますね!」


 華菊さんがニコっと答える。その横で鏡さんを凝視したまま、驚いた顔で固まった相田君がいる……。それに気づいた鏡さんが、相田君のみぞおちにエルボーを入れた。相田君は胸元を抑えながら、平然と華菊さんに微笑む……が、ちょっと怖い……。


 華菊さんが絡むと、相田君の言動が明らかにおかしいな……。鏡さんが、相田君の頭を軽く小突く。なんかこの2人はお似合いだ。大げさに頭を抱える相田君を放っておいて、僕は華菊さんに話しかけた。


「華菊さん。あの……ミキキの事を心配していたけど……どうしてそんなに?」

「えっと……今朝ですね。お世話になったというか……」

「今朝? この学園でだよね?」

「ええ……。私、朝早く来すぎてしまって、1人で凄く不安だったし困っていたのです」

「ひょっとして、その時にミキキと会ったの?」

「はい。受付までの時間ですが、楽しく過ごさせてもらい、とても気が楽になって……」


 華菊さんは、自分のスマホの画面を見ながら優しく微笑む。それにしてもミキキは、なんでそんな早くから登校していたのだろうか?


「そ、そうなんだ……ミキキは、何か言っていたかな?」

「あ、その時に、一緒にクラブ活動をやらないかと、誘ってもらったのですけど……」

「クラブ活動? 何クラブだろう?」

「あの、私……すでに入りたい部活が決めてあったので、詳しく聞かずに断ってしまったのです。すみません……」


 華菊さんが、申し訳なさそうな顔をする。


「あ、いや……聞かなかったならいいよ……」


 ミキキがやりたいクラブ活動って何だろう? 初対面の人を誘うって事は、1人じゃ入りづらいクラブなのかな……。


「あ、あの! か、華菊さんが入りたい、ぶ、部活って?」


 相田君が華菊さんに問いかける。


「え……? あ、あの、演劇部です……けど」

「え、演劇!? 演劇……演劇……」


 相田君がうつむいて、ブツブツ言っている。


「へ~ 演劇部か~ 大変そうね」


 鏡さんが、相田君を押しのけて華菊さんの前に出る。


「大変だと思います。でも私、女優になるのが子供の頃からの夢なので……」

「じょ! じょ、じょゆ……」


 相田君が、凄いキラキラした目で華菊さんを見ている。


「あ、あの……あくまで夢というか、希望というか……」


 華菊さんは圧倒されつつ、しどろもどろに答えた。


「ちょっと相田! キモイ!」


 鏡さんがもっともな事を平然と言う。


「あ、あはは……」


 僕は何となく愛想笑いをしていた。華菊さんも困ったように微笑む。


「あの……ところでミキキって、入学式に出なかったんだよね? 体調不良とかで……」


 相田君はさて置き、僕はミキキの話題に話を戻した。華菊さんも頷いてそれに答える。


「そうなんです。それで、私が朝から付き合わせてしまったせいだと思ったので……。気にしていたんですけど……」

「けど?」

「あ、いえ……ミキキちゃんが、体調が悪かったのは本当なのだと思います。たぶん……」


 華菊さんが少し考えこんだ。


「あ、あの……ミキキちゃんは、体調不良と朝の件は関係無いと言ってくれて、それで私は、安心したのですけど、それ以上深くは聞いていなくて……」


 僕は、華菊さんの目が一瞬だけ赤く光ったのを見逃さなかった。でも、それはたぶん、華菊さんはミキキが仮病で入学式をサボったと、僕に思わせたくなくて、言い方に気を使ったんだと思う……。


「――そういえばテンくんって、どうして入学式に出席しなかったの?」


 なんとか立ち直った相田君が、今更ながらもっともな質問をしてきた。


「私、心配したんだから~」


 鏡さんが何気なく言ったと思ったら、ハッとしたように慌てて続ける。


「あっ、し、心配って言ってもアレよ! 同じ中学出身として! ほら! 初日からの遅刻とか、学校の名誉に関わるし、今後の後輩の為に……」


 凄く早口で一気に喋る鏡さんに、相田君が割って入る。


「はいはい、鏡さんがテンくんの事を心配していたのは、解ったから……」

「ちょっ! 違うって言っているでしょ! 心外だわ! し、心配なんて!」


 相田君と鏡さんのやり取りを横目に、華菊さんが聞いてきた。


「――で、どうかしたのですか? 入学式の時は……」

「う、うん。出席するつもりで登校したんだけど……色々あって……」

「色々? 何? 色々って!」


 鏡さんが、眼鏡をクイっと直しながら僕に詰め寄る。


「え? あ、あの……ドクター・メイとかいう、変な人に話しかけられたり……」

「針乃さんが会ったドクター・メイさんって、あのロボットの……ですよね?」


 華菊さんが鏡さんに聞いた。何故かそれに相田君が答える。


「そうそう! あのロボットはビックリしたよね~。ダンスまでして!」

「しかも喋ったのよ! 挨拶の言葉を、みんなの前で!」


 鏡さんも自慢げに僕に言う。


「私はむしろ、そんなロボットを作ったドクター・メイさんと、お会いしたいです!」


 華菊さんが胸元で、両手を祈るように握りしめて僕を見る。そんな華菊さんに相田君が見とれているが、それは無視しよう……。


「そのドクター・メイに呼び止められたりしている内に、式が終わってしまって……」


 そういえば、思い出した事がある。ドクター・メイは教室ではなく、研究室へ戻ると言っていた。保健室でミキキも研究室にいくような話をしていた気がする。研究室なんて物がこの学園内にあるのか? 理科室ではなくて? 僕は少し考え込む。


「まったく。一体どれだけ立ち話してたのよ~」


 鏡さんが、意地悪そうに言う。


「えっと……10分くらいかな? なんか立ち去りづらくて……」

「あれ? そんなもんなの? 入学式って9時から1時間半くらい、やっていたよね?」


 相田君がプリントを取りだして確認しながら説明する。


 え? 僕は思わず相田君の取りだしたプリントを覗き込む。


「僕の貰ったのと違う……僕のには10時半頃までに来れば良いって書いてあったはず」


 僕はプリントを思い出しながら弁解した。


「あら、特待生は、登校時間の指定が違ったのかしら……」


 鏡さんが首を傾げながら言う。


「かなり遅れて来た、特待生の女子が居たと思うんだけど……」


 僕は、彼女の名前を聞いて知っていたが、一応聞いてみた。


「その方は、琴葉野さんですね。長い黒髪が素敵でしたね」


 華菊さんが嬉しそうに答える。やっぱり琴葉野さんは、女子から見ても可愛いんだな……。


「へ~ 針乃君は、ああいう子が好みなんだ! ふ~ん」


 鏡さんが、自分の三つ編みを振りまわしながら睨む。


「い、いや好みと言うか、か、可愛いとは思うよ。普通に……」

「お、俺はか、か、かき……かき……」


 相田君が、壊れたロボットみたいになっている所でチャイムが鳴った。


 もう昼休みは、終わりらしい……。誰かと一緒だと、こんなにも早く休み時間が終わるのか……。

僕は、初めての体験に戸惑いつつも感動していた。


 そういえば明日の予定とか今後の事を何も聞いてない事に気付く。


「ねえ? 明日の予定なんだけど……」


 相田君が酷く落ち込んでいるので鏡さんに聞いた。


「え? 朝8時までに教室に集合よ! そんな大事な事も聞いていなかったの?」


 呆れながら鏡さんはため息をつく。


「今日は、自分の部屋を片付けなどをしたら、18時の夕食まで部屋で待機だよね?」


 相田君が鏡さんに確認するように話しかける。


「うん、そのはず。夕食の時に食堂で寮での生活について説明があるみたいだから……」


 鏡さんが僕の方をチラッと見る。


「だ、大丈夫だよ! ちゃんと出るよ!」


 確かに、毎回説明の時に居ないんじゃ、わざとサボっていると思われてしまう。今度こそちゃんと出席しないと……。


「18時前に俺が呼びに行くよ! 一緒に行こう」


相田君がニカッっと笑顔で僕を見る。


「あ、ありがとう。一応、そうしてもらおうかな……」


 なんか今日はいろいろあって疲れていたので、素直にありがたかった。


「相田だけだと心配だから、私も呼びに行ってあげる! 特待生の部屋も見てみたいし~」


 鏡さんが目を逸らしながら拗ねるように言った。


「ハハハ信頼無いな~」と、相田君が軽く笑う。

「うふふ、仲が良いんですね! 皆さん」と、華菊さんも微笑む。


 仲が良い? 確かにわざわざ部屋に向かえに来てくれる生徒が2人も居るなんて! これって友達が出来たと思って良いのだろうか? 僕は改めて相田君の方を見た。


「な、何? 涙目になっているけど……」


 相田君が困ったように言う。僕をからかっている訳じゃないよな……?


「ん? どうしたの針乃君?」


 鏡さんも真顔で心配してくれている。


「あ、いや、僕……なんか嬉しくて……今まで友達とか出来た事無かったから……」

「お、大げさだよ! テンくんは! ね、ねえ?」

「そ、そうよ! 針乃君、中学の時は人を寄せ付けない感じだったし、わざと存在を消している感じだったから……」


 そうだったのかな? 確かにあの頃の僕は、一方的に皆を避けていたかもしれない……。


「うふふ、私とも友達になってくださいね?」


 華菊さんが優しく微笑んで言ってくれた。相田君が僕の肩を両手で掴み、満面の笑みで言う。


「俺達4人! もうとっくに友達さ! ねっ!」

「あ、相田君……ありがとう!」


 相田君は、きっと冗談半分のつもりで大げさに言ったと思うけど、僕は、なんか感動してしまい涙が溢れ出していた。


「ちょ、あんた達……超恥ずかしいから! 私達、先いくわよ!」


 鏡さんは、華菊さんの手を引っ張りながら食堂から出て行ってしまった。華菊さんは何度かこちらを振り返り心配そうにしている。でも2人のその後ろ姿は、少し嬉しそうに見えた。相田君はやれやれという感じだったけど、僕に気を使って待ってくれていた。


 僕は、本当に嬉しかったのだ……。涙ぐむ目をハンカチで拭こうと思い、上着のポケットに手を入れた瞬間、ハンカチ以外の物が入っている事を思い出した……。


 下駄箱に入っていた手紙だ。


 そうだ……まだ、これもあったんだっけ……。

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