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★入学式とその後


 私がロボ蔵の頭を被り、入学式の行われている体育館に入ったのは10時過ぎだった。


 メイのお爺さんの話も終わり、今年入学の特待生の紹介が済んだ所でロボ蔵の入場だ。私は司会者の言葉に合わせ、ステージ横のドアから体育館の中に足を踏み入れる。


「先ほども紹介いたしましたが……特待生主席のドクター・メイさんの作ったロボットです。ご本人が式に間に合わないとの事で、代わりに挨拶をしてくれるそうです!」


 私は【影の息】で気配を消して、ロボットのようにぎこちなく歩き、マイクの前に立つ。


「ハジメマシテロボ ワタシハ ロボゾウ ミナニ メイノ コトバヲ ツタエルロボ」


 とりあえず私は、アドリブで挨拶をして、そして暗記していたメイの言葉を伝えた。


「――ワタシノ ナマエハ ドクター・メイ コノガクエンニ ザイセキチュウニ セカイヲユルガス イギョウヲ タッセイスルコトヲ ヤクソクシヨウ。 ミナ ワタシノ ナマエヲ オボエテオクガイイ イズレ レキシニ ナヲノコス モノノナダ ロボ……」


 私は、暗記した文章を間違えずに言えて、ほっと一息つく。


「メイさんの作ったロボット! 素晴らしいですね。しかも、なんとこの後、ダンスを披露してくれるとの事です! それでは準備はいいですか? ミュージック! スタート!」


 え? え? うそ! 


 私は司会者の言葉に耳を疑う。ダンスなんて聞いてないし!


 私はメイを恨みながらも、会場に流れ出したヒップホップのリズムに合わせて体を動かす。


 リズムに乗り切れないぎこちなさが、リアルに見えたのだろうか? 会場の全員が拍手をしたり爆笑したり、大盛り上がりだった。私は【影の息】に集中しつつなんとか踊る。


 まさかの2曲目が始まった時には、むしろ楽しくなってきてノリノリで踊ってしまった。


「ロボットさん。素晴らしいダンスをありがとうございました!」


 司会者の言葉が終わる前に、私は体育館の出口に向かい台車のダンボール箱の中に納まる。15分足らずの時間だったと思うが、精神的にも肉体的にも疲弊し切ってしまった。


 もう! メイったら! この貸しは大きいんだから! まぁ、ちょっと楽しかったけど。


 私はそんな事を考えながら、自動で動く台車でガタゴト運ばれる。



 私を乗せた台車が、寮の入り口に来た所で、手はず通りメイが駆け付けてくれた。メイは走って来たのか息を弾ませている。


「ミキキ、お疲れ様。助かったわ」


 そう言って、メイはロボ蔵の頭を外してくれた。


「メイ! ダンスなんて聞いてなかったんだけど! どういう事よ!」

「あらあら、ゲン爺には挨拶だけにするって訂正しておいたのに……ごめんなさいね」


 メイに素直に謝られて、私は何も言えなくなってしまう。


「もう! 焦ったんだから! 少しだけ楽しかったけど~」

「フフフ……。ミキキならトラブルが有っても、なんとかしてくれると思っていたわ」


 メイは私の乗った台車を押しながら、寮のエレベーターに乗り込む。いつまでもメイに押してもらうのも悪いので、私はエレベーター内でダンボールから出て、自分で歩く事にした。もちろん首から下はロボ蔵のままだけど、今は寮の中に誰も居ないので大丈夫だろう。


「ねぇ、メイ。テンくんに会ったんでしょ? どうだった?」


 私は部屋まで待ちきれずにエレベーターの中で、メイに聞いてしまう。


「フフフ……彼ったら、私の胸ばかり見ていたわよ」

「え? やだ! き、きっとメイが、そ、そんなに胸元を開けているからよ!」


 私は、なんとなくテンくんを庇ってしまう。一応、家族だし……。


「フフフ……冗談よ。素直そうで優しい感じの男子だったわよ」

「そ、そうよね! そうだと思ったわ! 良かった!」


 私はメイの感想が、自分がテンくんの写真を見た時の感想と同じだったので安心した。4階でエレベーターから降りた所で、メイは立ち止まり私に言う。


「この後、ミキキはどうするの? テンくんとの出会い方を改めて考える?」

「えっと、そうね。さすがにちょっと疲れちゃって……少し休みたいわ」

「そう……確か制服は、私の部屋に置きっぱなしだったわよね。ベッドも使っていいわよ」


 そう言ってメイは台車を押しながら研究室に向かう。ほぼロボ蔵の私もそれに付いていく。メイが研究室のドアを開けると、血まみれの犬蔵が勢いよく走り去って行った。


「きゃ! 犬蔵? あらあら、どうしたのかしら?」

「え? なに犬蔵? 血だらけじゃない!」

「あれは、のりっ……いえ、ブラッディ・フラワーね」


 メイは、走り去った犬蔵を気にしつつも、私を研究室内に入れてくれた。私がロボ蔵の体から出ようともがいていると、メイが困ったように言う。


「あらあら……大変。犬蔵の仕業かしら?」

「ん? 何? どうしたの?」


 私は、足元にちらばったビンや本を見て、何となく察した。犬蔵がひと暴れしたようだ。


 メイは、しゃがんで何かをそっと拾い上げた後に、はぁ~ とため息をついた。その後、部屋を見渡してから私の方を振り返り、申し訳なさそうに言う。


「ごめんなさい。ミキキ……貴方の制服が……」


 メイは、床に落ちていた私の制服の上着を持って見せる。その白い上着は、血塗られたように真っ赤に染まっていた。


「あぁ、ビックリした。本当にリアルよね。でも消えるんでしょ?」


 私はブラッディ・フラワーが綺麗に消えるのを知っているので、慌てる事は無いと思った。


「まぁ、そうなのだけれど。これはテストで調合した奴で4時間は消えないわ」

「え? そんなに?」


 私は時計を確認する。今は10時40分だから……14時40分まで消えないって事?


「さすがに、ちょっと困るかなぁ……寒いし」

「そうよね。悪いのだけれど、しばらくこれを着ていてくれるかしら?」


 そう言ってメイは、私に一般生徒の制服を渡す。予備で持っていた物らしい。


「うん。まぁ、いいよ。制服なんて何でも」


 私は別に、特待生にこだわりは無かったし、制服の色もさほど気にはしていなかった。


「じゃ、ゆっくりしていていいわよ。私は犬蔵を探してくるわ」


 そう言ってメイは、リードを片手に持ち研究室を出ていってしまった。さてと、私は血塗られた白い制服と一般生徒用の緑の制服を抱えて、着替えるのに足元の広い場所を探して、ロボ蔵姿でウロウロする。すると、床に転がっているビンを踏んで転びそうになりビックリする。


「危なっ! 気を付けないと……ん?」


 私は、その蓋の開いた空のビンのラベルに書かれた文字を、思わず口に出して読んでいた。


「ん? G型……2号? え?」


 私は一瞬で青ざめる。朝、メイが逃がしたG型は4号と言っていた……。


 え? ひょっとして別のアレが逃げたの? 居るの? この部屋に?


 私はアレが居る可能性を考えるだけで、足元を見るのが怖くなる。ここで着替えて休むなんて出来っこない!


 私は2つの制服を抱えつつ、首から下がロボ蔵姿のままで部屋から飛び出した。廊下には、先程まで私の乗っていた台車が、置かれたままになっていた。私は、今の姿を誰にも見られたくないので、いざという時に隠れられるように、一応その台車を押しながら、自分の部屋に向かう。


 すると、何故か私の部屋のドアは、開いたままになっていた。


 あれ? なんでドアが開いてるの? せっかくカードキーをゲットしたのに。ゆっくり考える余裕は無いので、とりあえず私は、台車ごと部屋に入り、ドアを閉める。こ、これで、とりあえず安心……。


 落ち着いて部屋の中を見ると、ベッドが2つ置かれて荷物も所狭ましと置かれている。


「あぁ~ そういえば、テンくんのベッドを運んでもらったんだった……」


 私は、思い出したように独り言を呟く。


 ドアが開いたままだったのは、業者が荷物を運んだりしたからだろう。台車が置ける場所なんて無かったけど、廊下に出しておくのも邪魔だし、仕方なく脱衣所に押し込んでしまった。ふと、脱衣所の正面にある大きな鏡を見て、ロボ蔵の体部分が、血まみれになっている事に気が付いて、ビックリする。


「きゃ! 殺人ロボみたい……」


 血まみれの制服を抱えてきたので、体も血まみれになってしまったのね。私は苦労しつつも、ロボ蔵の体から抜け出すと、台車に乗ったままのダンボール箱に、抜け殻となった血まみれのロボ蔵をしまい込む。脱衣所が窮屈になってしまったけど、一旦ここに置いておこう。


 うぅ……しかも血まみれの制服からまだ塗料がしたたり落ちている……。


 私の制服は、仕方ないのでバスルームに干しておく事にした。近くに置いてあったバスタオルで一応、制服の塗料を拭いてみようかな。私は制服をゴシゴシとタオルで擦ってみる。


 う~ん、全然だめだ。タオルが赤く染まっただけ。やっぱり時間が経つのを待つしかないみたい。


「本当に血みたい。リアルで凄いわね……さすがメイ」


 私は独り言を口にして、一般生徒の制服を羽織りベッドに向かう。部屋の中は、テンくんのベッドと荷物も加わり、かなり狭く感じてしまう。


 これはさすがに、ちょっと片付けるかなぁ~。


 そう思い、荷物の整理をしようとダンボールを何個か開けた所で、白い壁に動く黒い何かに気が付いてしまった。


 え? ま、まさか……。私は、恐る恐るそれを確認する。


 それは間違いなく黒光りしたアレだった!


 ひぃ! 私は叫びそうになるが両手で口を押えこらえる。下手に動いて刺激したらやばい。


 部屋に1人きりの最悪のタイミング! 武器も何も無い! どうしよう……。


 私がじっとしていると【影の息】が作動したのだろうか?アレも私に気付いていないみたいで、壁に張り付いたまま動かないでいる。ひょっとして、これはチャンス? このまま仕留めるしかない! 見失ったら終わりだ!


「や、殺るしかない……」


 私は自分に言い聞かせ、覚悟を決める。私は息を殺しゆっくりと歩きだす。でも、どうしよう? 


 その時、アレが動き出す。私は咄嗟に目に入った白い内線電話を持ち上げ、壁に投げつけた。


 ガシッ!


 電話はテンくんのベッドの上に、潰れたアレと一緒に落っこちる。アレは、まだ足をピクピクさせているが、どうやら仕留められたっぽい。


 や、やった……。でも、これからアレをどう処分するべきか……。


 私は少し考える。


 そしてとりあえず、さっきの血まみれになってしまったバスタオルで、アレを電話ごとくるみ、ロボ蔵のダンボール箱に押し込む事にした。と、とりあえず、一旦はこれで……。


 コン! コン! 背後でドアがノックされて鍵が開いた。


「ミキキ? 居るのかしら?」


 メイ! ちょうどいい所にやって来てくれた。私はアレと戦った事で、疲れがドッと押し寄せ、座り込んでしまう。もう体力の限界だった。


「あらあら、大丈夫? 研究室に居ないから探したわよ」


 そう言って、メイは私をベッドの上に運ぼうとするが、そこはさっきアレが落ちた所……。


「ね、ねえ! メイ。お願いだから……保健室に連れて行ってくれない?」

「それもそうね……保険の先生も居るといいけど。そういえば、ミキキが入学式を欠席した理由は、体調不良と言っておいたので、保健室に居た方が自然ね」


 あ、私、体調不良だったんだ。ノリノリで踊っていましたけど……。そんな事を思いつつも、メイの肩を借りて保健室へと向かった。


「あの、すみませ~ん。お邪魔します~」


 私はそう言いつつ、メイと一緒に保健室に入る。中には女の先生が1人居た。その先生は、私が疲れただけだと伝えると、すぐ戻ると言って出て行ってしまう。私はアレとの闘いや、ダンスで疲れていただけで、具合が悪い訳ではないので問題ない。

とは言え、一応ベッドに横になり一息つく。


 はぁ~ 今日は朝から大変だった。まだテンくんと会えないなんて……。メイはベッドの横に座り、私に話しかける。


「――で、一体どうしたのよ? 研究室で休んでいるかと思っていたのに……」

「そう! 研究室! G型のアレが逃げているわよ!」

「それは朝に言ったじゃない。4号でしょ?」

「違うわよ! えっと……確か2号! 2号も逃げているのよ!」

「あぁ……2号ね。ミキキも気付いたのね」


 メイは申し訳なさそうに言う。どうやら知っていたようだ。


「どういう事? アレが逃げていると知った上で、そこで私に休めと言ったの?」


 私は、アレが本当に苦手なのだ。メイが思っている以上に!


「あらあら、ミキキが休もうとした時には2号はもう処分済よ。犬蔵が潰してしまったの」

「犬蔵が? そ、そうなんだ……」


 お手柄と言ってあげたい所だけど、そもそも犬蔵が暴れたせいで2号が逃げた訳だし、私はなんとも言えずに言葉を詰まらせる。


「研究室に2号の空きビンが転がっていたから、ビックリしたのよ。それで、自分の部屋に避難したら……もう1匹のアレが居たのよ! どういう事?」

「あらあら、それはきっと、朝に逃げた4号ね……」

「1人だったし死ぬかと思ったわよ! なんとか、かえり打ちにしてやったけど!」


 私は武勇伝のように自慢げに話すが、メイは少し悲しそうだった


「――で、殺してしまったの?」

「うん……だって仕方ないじゃない……」


 私は、メイが悲しそうな顔をするので、ちょっと罪悪感を感じてしまう。


「あの子、昨日までは元気だったのに……死んじゃったのね……」

「ちょっとやめてよ、そんな言い方。私が悪いみたいじゃない」


 メイは本当に残念そうだが、あの場面で「仕留める」以外の選択肢は無いと思う。


「なにも殺さなくても……。――で、亡骸はどうしたのよ?」


 でもまぁ、メイの飼っていた生きものには違い無い……。私は気を使いながら答える。


「まだ部屋に置いたままだけど……後で外へ運んで埋めるわよ」


 お墓でも作ってあげれば、少しはメイの気も済むだろうか?


「貴方1人で? 出来るのかしら?」


 確かに、死骸とはいえアレは見たくないし、触るなんて絶対無理!


「うぅ……いざとなったら、彼にお願いして手伝ってもらうから……」


 テンくんなら、きっと手伝ってくれると信じるしかない!


「彼って……テンくんの事?」


 メイは当たり前の事を聞いてくる。私は大きく頷き答える。


「もう台車に乗せてスグに運べる準備はしてあるし。中身は見せないわ」

「ミキキ……貴方って……ホント」

「あはは。準備がいいでしょ?」


 テンくんも同じ部屋だし、脱衣所にいつまでも台車があるのは邪魔だと思うし……。


 私は、まだ会ってもいないのにこんな事をやらせる予定で申し訳ないと思いつつも、少し嬉しく感じた。頼れる家族が近くに居るってやっぱり安心。


「あらあら、誤魔化すにも限度って物があるんじゃない?」


 メイはまた大げさな言い方をする。誤魔化す訳じゃなく詳細を言わないだけだし。


「解ってるわよ、上手くやるわ。メイは相変わらず心配症なんだから」


 メイは肩をすくめて呆れたように微笑む。


「そういえば、さっき……フフフ……」


 そう言ってメイは、私の耳に顔を近づけてきた。


「私、テンくんとハグしちゃったの。背中トントンもよ。フフフ」

「な、なんで? そんな事をテンくんに?」


 私も思わず、声をひそめてメイに聞く。


「フフフ……ハグは男女の仲を親密にするコミュニケーションの1つなのよ」

「え? ズルい! なんで? どうやったのよ?」

「フフフ……心配するフリをしつつ……ね。凄く自然にやれたと思うわ」


 うぅ……私はまだ会えてもいないのに、メイだけそんな親密になっているなんて……。


「ふ~ん。そうなんだ~ ふ~ん。ま、いいけど」


 私は強がって見せたけど、気が気じゃなかった。私も運命の出会いをしなきゃ!


「えっと……あ、ところでメイ。これを渡しておくわ。今日中に済ませたいし」


 私は気を取り直し、少し強引に話題を変えようと、メイに今日のCM撮影計画書を渡す。とりあえず、今日やるべき計画を進めないと。


「あぁ、例の。ふ~ん……完璧じゃない。さすがミキキね」


 私の考えたCMの内容は、実にシンプルな物だ。誰かがメイに銃で撃たれて派手に血が飛び散るシーンを撮影して、ブラッディ・フラワーの文字テロップを乗せるだけ。1本目は校庭で撮影して、2本目は桜の花びらが舞う場所が良いと思っている。最初に撃たれる役は、もう既に朝会った華菊さんにお願いしてあるのよね。


「でしょ? それにターゲットはもう決まっているわ。凄い美人なのよ」


 私はスマホの画面をメイに向けて、今朝撮った華菊さんとのツーショットを見せる。


「フフフ……それは準備が良くて助かるわね」


 メイは関心したように言った後、保健室の入り口の方を見て呟く。


「あら? 今……」

「え? 何? どうしたの?」


 私もドアの方を確認するが、時に何もないけど……。メイが小さな声で私に言う。


「ドアの擦りガラス越しに人影が見えたわ。誰か居るのかもしれない……」

「え? さっきの先生かしら?」


 メイに合わせて、私もメイの耳元でヒソヒソと話してしまう。


「ひょっとしたら、本当に具合の悪い生徒が来たのかもしれないわね」


 メイは、心配そうな顔で言う。


「だったら普通に、入ってくればいいじゃない?」

「私達が楽しそうに話をしているのを聞いて、遠慮したのかも……」

「え! えぇ~! うん。そうね……」


 私は思わず、少し大きな声を出してしまう。そんなに楽しそうな会話だったかしら? でも、確かに入学初日だし、気の弱い子だったら入りづらいのかも。


「ねぇ、じゃあ、どうするのよ?」


 私は再び声をひそめてメイに尋ねる。もうこの件はメイに任せよう。


「私が、もう出ていくと、大きめの声で言うから、話を合わせて」


 そう小声で言うとメイは立ち上がり、今度は、わざとらしく大きめな声で言う。


「それじゃ! そろそろ私は、行くわね!」


 メイは私の顔をじっと見つめる。――あ、私の番か。


「う、うん、ありがとう。後は自分で何とかするから!」


 なんかよくわからないけど、私は咄嗟にそれっぽい事を言ってしまう。


「あ、研究室に帰るの? 私も後でいくわ!」

「フフフ……わかったわよ。それより1回くらい教室に顔出しなさい」

「それもそうね……」


 私は、本当にその通りだと思い、まだ一度も教室に顔を出していない事を思い出す。


「じゃ! そろそろいくわ~」


 メイはドアに向かって歩きながら、わざとらしく呼びかけるように言う。そしてメイは、一息ついてからドアを開ける。


「あら? あらあら?」


 メイは廊下に顔を出してから、再び私の方を見る。


「え? なに? メイの勘違い? 誰もいなかったの?」

「いえ、誰かが走ってトイレに駆け込んでいく姿が見えたわ」

「え? どういう事なの?」

「多分、お腹が痛くて保健室に来たのだけど、私たちが居たから入るのに躊躇っている内に、急激にトレイに行きたくなったのだと思うわ」

「そ、そう……? まぁ、でも走れるくらいなら大丈夫かな?」


 とりあえず、誰か居たのは確からしい。


「う~ん。誰だかわからないけれど、心配だから一応声を掛けておくわ。実は1階のトイレの周辺だけ携帯がつながるから、それを教えてあげようかしら」


 そう言ってメイは、保健室を出て行ったしまった。


 ――っていうか、なんでトイレ周辺だけ携帯つながるのよ?


 なんか、全然休めなかったけど、メイと話してたら元気になった気がする。ベッドから降りて上履きを履いていると、ドアが開いて保険の先生が帰ってきた。


「あら? もう大丈夫なの?」

「あ、はい。お邪魔しました。もう元気になったので教室に戻ります!」


 私はそう言って、先生に向かって軽く頭を下げて廊下に出る。


 ――さて、私も教室に行かないと。


 1年生の教室は確か3階だったかな?


 教室に行けばテンくんに会えると思う……。ここまで来たらもう運命の出会いは諦めるしかないかな……残念だけど。


 私は教室の前で立ち止まり、深呼吸をしてから中に足を踏み入れる。休憩時間中だからか誰も私を気にする素振りはない。白い制服の男子がテンくんのはずだけど、教室の中には見当たらない。


 あれ? おかしいな……。


「あ、ミキキちゃん! 良かった。具合大丈夫ですか?」


 私が入り口付近で立ち止まっていると、後ろから声を掛けられた。振り向くと、朝に出会った華菊さんが駆け寄って来る所だった。


「華菊さん! 一緒のクラスだったんだ! 嬉しい!」


 私は顔見知りがクラスに居た事で安心する。


 そうだ、みんなにも挨拶をしておかないと。私は黒板の前に立って、教室内の全員に聞こえるように大きな声で挨拶をし頭を下げる。


「みなさ~ん。入学式に出れなくて挨拶が遅れてごめんね。事情があって今は白い制服じゃないけど、このクラスの特待生の閃 ミキキです。よろしくね!」


 数人から拍手と歓声が起きるも、やっぱりテンくんは居ないみたいだ。私は華菊さんと数人のクラスメイトに混ざり、テンくんが来るのを入口で待つ事にした。


「あの……ところで体調は大丈夫ですか? 朝寒い中、私が付き合わせちゃったから……」


 華菊さんが申し訳なさそうに言う。


「あ、いや、それは全然関係ないの! 元気だし。入学式は、ちょっと用事があっただけ」


 私は、華菊さんがそんな事を気にしていたと知って、逆に申し訳なく思う。


「あの、ミキキちゃん。制服どうしたんですか?」

「あ、うん。ちょっと汚しちゃって……えへへ」


 華菊さんに言われて、やっぱり白い制服って目立つんだなぁと再認識する。


「ミキキちゃん、学園の説明とか聞けなかったんですよね? 大丈夫ですか?」


 華菊さんがプリントを片手に、色々と説明をしてくれようとする。


「あ、あの、私……。このクラスのもう1人の特待生のテンくんに用事があって……」

「あ、そうなんですね。今いないみたいだけど……ここで一緒に待ちましょう」


 華菊さんは、そう言って微笑んでくれた。本当にいい子!


 ――と、そこに廊下を走ってくる白い制服の男子が見える。


 あれはテンくんだ! もう来た! 私は一気に緊張してくる。あ~ どうしよう! 第一声になんて言うか考えてなかった!


 そうこうしている内に、もうテンくんが私の目の前に来てしまう。

私は、緊張して声が思うように出ない。


 目の前にテンくんが居るのに!


「あ、あの……テンくん?」


 声を掛けはしたが、やっぱりこんな出会いじゃ、嫌! 


 テンくんは、私の声が聞こえなかったみたいで、そのまま通り過ぎて行ってしまう。どうやら、思わず【影の息】を発動してしまったみたいだ。私は頭が真っ白になり教室を出て廊下を走り出す。


「あぁ~ 私のバカ! バカ! 自分から声を掛けておいて気配を消すなんて!」


 私は、独り言を呟きながら階段を駆け下り、気付くと昇降口まで来ていた。これからどうしよう……。今更、教室に戻って話しかけられないし。


 そうだ! そういえば1階のトイレの周辺だけ、携帯が通じるってメイが言っていたっけ。私はトイレに駆け込み、メイに電話をする。幸いメイはすぐに電話に出てくれた。


「もしもしメイ? テンくんとの出会い、どうしよう! やっぱり、普通に挨拶じゃ嫌!」

「あらあら、ミキキ? どこから電話しているのかしら?」

「1階のトイレよ! ここだけ電波が通じているって言っていたでしょ?」

「それはそうだけれど、どうしてそんな所から? 研究室に来ればいいじゃない」

「急いでいるの! すぐにアドバイスが欲しいの! ねぇ、パンを持って直ぐに来てよ」

「あらあら、落ちつきなさいミキキ。パンはすぐには焼けないわよ」


 うぅ……た、確かに落ち着かないと……。私は深く息を吸って一息ついて返事をする。


「じゃあ、どうしよう……代わりに何を咥えれば……」

「ミキキ。実は、もう1つだけ運命の出会いの定番があるのだけれど……」

「え? 何? 空から降るのは無理よ?」

「私が使いたかった手なのだけれど、仕方ないわね……ミキキに教えてあげるわ。もう1つの定番はね、下駄箱の中に待ち合わせ場所を記した手紙を入れるのよ」


 手紙? 下駄箱の中に? 確かにアニメでそんなシーンを見た事があるような気がする。


「で、でもメイ! 手紙なんてすぐに用意できないし」

「それなら大丈夫よ。私の下駄箱にレターセットが入っているわ。フフフ……」

「えぇ? なんで下駄箱の中に? それが本当なら助かるけど……」

「私のシズカカトは下駄箱に入らないから、小物入れに使っているのよ」


 シズカカト……確かメイの作った音のしないハイヒールの事ね……。


「じゃあ、ペンは持っているからレターセットだけ使わせてもらうわ」

「私の下駄箱は1番よ。テンくんは確か32番ね。貴方の1つ下よ」


 私はメイにお礼を言って電話を切り、さっそく下駄箱に向かう。


 1番の下駄箱の中には本当に、文房具や手帳などと一緒にレターセットも入っていた。私は封筒と用紙を1セット手に取り、トイレの個室の中で手紙を書く事にする。それにしても何? このピンクの封筒……ハートのシールまで付いている。まぁ、もう選ぶ余地もないし仕方ない。


 ――確か、待ち合わせ場所を書くんだっけ?


 どこにしよう? ゆっくり話がしたいから人があまり来ない所が良いと思うけど。そうだ! 朝飛んで行ってしまった帽子も探したいし屋上にしようっと!


 私は急いで手紙に、待ち合わせ場所と名前を書き込む。ちょっと素っ気ないかな?そう思いつつも封筒にハートのシールで封をして、下駄箱に向かう。


 そこで、ちょうど12時を知らせるチャイムが鳴った。


 えっと、テンくんは32番だっけ……。私は下駄箱の蓋を開けて手紙を入れようとするが、思ったよりも大きな靴が入っていてビックリする。手紙を入れるのに靴を手に持った所で、階段の上から男女の話し声が聞こえてきた。


 あ! 誰か来ちゃった! 


 私は手紙を下駄箱に押し込み、急いでトイレの中に駆け込む。


 やばっ! 思わずテンくんの靴、持って来ちゃった。戻さないと……。昇降口で話し声が聞こえなくなったのを確認して、私は下駄箱に靴を戻しに行く。


 あれ? 32番の下駄箱に入れたはずの手紙が無い? あれ? 番号を間違えたかと思い、近くの下駄箱の蓋を開けてみるも、やはり手紙は見当たらない……。


 という事は……さっきの集団に、テンくんが居たって事? そして手紙を見つけた?


 下駄箱内に上履きが無くて、外履きの靴は私が持ったままここにあるって事は……。ひょっとして、もう屋上に向かったって事? 手紙を見て直ぐに! 


 やば~い! 来てと言っておいて私が居ないんじゃ、完全に嫌がらせじゃない!


 急いで屋上に行かないと! 私は、トイレの横の階段を3階まで一気に駆け上る。ここの階段は3階までだ。屋上にいくには廊下の先の階段に向かわなければ。私は1年生の教室の前を、なるべく目立たないように進む。


 3組の前で生徒が数人集まっている。どうやら特待生の男子生徒2人が、言い争いをしているみたいだった。しかし私は関わりたくないので、気配を消しつつ早足で通り過ぎる。


 もう! 初日から何をやっているんだか……。


 私はなんとか誰にも気付かれずに、屋上に向かう階段を上り切る事に成功した。テンくんが待つ屋上に……ついに来た! この扉の先にテンくんが居る?


 やばい! 緊張してきた……足が震える。


 私は屋上に続く鉄の扉の前で大きく深呼吸をしてから、思い切って扉を開ける。明るい陽射しに一瞬、目が眩む。私は風に煽られるスカートや髪を抑えながら、クルクルと回りながら屋上全体を見渡す。


 あれ? テンくんはどこ?


 誰も居ない……。私は屋上を一回りして隅々まで確認する。


 いや、これはこれで良かったのかな? テンくんよりも私の方が先に来たんだから。でも、じゃあテンくんは何処へ? 私が急いで来たから追い越したのかも……。もう少し待ってみようかな。失敗したなぁ~ 手紙に時間も書いておくべきだった。


 私は、時計を確認しながら後悔した。もう12時15分だ。


 そうだ! 朝、風で飛んで行ってしまった帽子は無いかな? メイは必要のない物だって言っていたけど、やっぱり見つけておきたい。


 確か、この屋上のフェンスを越えていったのは見えたんだけど……。私はベンチの下やフェンスの周りを探すが帽子は見当たらない。ふと、屋上への出口の扉がある建物の横側に、梯子があるのに気が付いた。


 一応、上って確認しておこうかな……。


 その梯子は高い位置にあったので、私はジャンプしてやっとつかまり必死でよじ登る。登り切った場所は、屋上の一番高い場所だ。そこに、ちょこんと帽子があるのを見つけた。


 あった! 私は風に飛ばされないように両手で帽子を掴み抱え込む。


 折角上ったので改めて屋上全体を見渡すが、やはり誰もいない。でも、山の山頂にある学校の屋上なので、景色は最高だ。凄く気持ちいい場所。ここでテンくんと会えれば最高なのに……。そんな事を思いつつ、梯子を下りようとした時に足元の扉が開く音がした。


 テンくんが来た? いや、違う。複数人の話し声が聞こえる。私は咄嗟にしゃがんで隠れてしまった。


 開いた扉からは3人の生徒が出て来た。女子が2人に男子が1人。女子の1人は白い制服を着ている。特待生だ!


 3人は何やら奇妙な話題をしつつ、ベンチに座ってお弁当を食べ始める。UFOがどうとか、心霊現象がどうとか……。変な内容の会話が聞こえる。どうやら特待生の子が、これから作る部活に2人を勧誘中らしい。


 私も、テンくんを誘って作りたい部活があるのだけど……今はそれ所じゃない。隙を見て梯子を下りようかとチャンスをうかがっていたけど、髪がボサボサの男子がキョロキョロと周囲を警戒するようにしているので、下りられない。


 さすがに【影の息】を使っても、姿が消えるわけでは無いので、見つかるだろう。


 今更、実はここに居ました~ なんて言うのも盗み聞きしていたみたいで怪しいし……。うぅ……あの男子なんなの? お腹も空いたよぉ……。


 彼らの様子を伺いながら30分程は待っていたけど、一向にテンくんが現れる気配はない。


 も~う限界!


 思わず私は、持っていたサインペンで床に「テンのバカ」と八つ当たりで書いてしまった。その時、風が強く吹き、再び帽子が飛ばされてしまう。


 あ! 私は声を出しそうになるのを我慢しつつも帽子の行方を追う。帽子は屋上の高いフェンスを越えて、校舎の裏に落ちて行ってしまった。


「ふうおぉおおぉ!」


 すると突然、奇妙な大声が聞こえてビックリする。


 え? なに? 


「兎角氏! 見たでござるか? 今のUFOを!」

「いや~ ごめん! 見てなかった~ あはは」


 そんな会話をしつつ、3人はフェンスに駆け寄り、帽子が飛んで行った方を見ている。


 チャンス! 今しかない! 私はその隙に梯子を飛び降り、校舎の中に走りこむ。


 も~う! 何? あの変な3人組。結局テンくんは現れないし……。



 ――私は、手紙作戦が失敗し、時間を無駄に費やした事を悔やみつつ、階段を駆け下りる。


 誰も居ない3年生の教室の前を通り、昇降口に向かう途中で13時のチャイムが鳴った。まずは、飛んで行ってしまった帽子を回収しないと! 


 私は校庭を横切り、校舎の裏に回れる場所を探す。


 どこかで、肉の焼ける良い匂いがすると思ったら、校庭に数十人の生徒が集まって楽しそうにバーベキューをしている。初日から、仲良しじゃない!


 さっき3階で、言い争いをしていた特待生の2人が中心になってやっているみたい。


 うぅ……お腹空いたから参加したいけど、今はそれ所じゃないよね。


 と、思いつつも、私は【影の息】で気配を消し、誰にも気付かれずに、肉を一切れだけ口に放り込み、そのまま校舎裏に走って向かう。



 校舎の裏には「大発山・山頂」と刻まれた古い碑石があり、そこに帽子が引っ掛かっていた。


 よし! とりあえず、帽子を回収する事に成功!


 午後からはメイとCM撮影をする予定だったっけ。まだテンくんと会えないのは大問題だけど、1本目の撮影は進めないとね……。



 さて、これから計画の立て直しだ!


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