3話:立志
「ここでようやく本題に入るんだな。なあ爺さん。ここはどこで俺達は何のためにここに来させられたんだ?」
「ふむ。魔族の王を倒し、平和を取り戻すためにお主らを呼んだんじゃ。勇者召喚の儀式でな」
「勇者?」少年は疑問があるような声のトーンで繰り返した。
「うむ。お主ら勇者は召喚の儀式によって神の力を持った状態で召喚される。まあ、そちらの青年には無いが。召喚の儀式は我が国に危機が迫った時に行い、召喚された勇者は我が国の危機を救った後、元の世界へ帰ると言われておる」
「ということは、俺たちは魔王を倒さないと帰れないってこと?」
「それは分からん。だが言い伝えの解釈通りならそうなるだろう」
少年とヨレヨレデブはお互いに顔を見合わせる。マジかよ……とショックで開いた口が塞がってなかった。
「無論、最大限の援助はしよう。もはやこの世界を救えるのは勇者しかおらんのだ。頼む」
お爺さんが頭を下げる。「この世界を救って欲しい」
「ま、まあ。どうせ帰れないんだし……」
少年は「やるだけやってみようかな」と承諾した。
「マジかよガキ本気か? 確かにこりゃあアニメで見た異世界転移ってやつだし、俺達絶対チート能力持って無双できる感じのやつだろうぜ。でもよ、そんな能力持ってたって、戦わなきゃいけないことには変わらないだろ。出来ると思うのか? 俺は無理だと思うぜ。平和な日本でぬくぬく生きて、引きこもってた俺には出来ねえ」
「そうかもしれないけど。でもやらなきゃ帰れないんだろ? だったらやるしかないじゃん。それに俺達は神の力を持ってるって言ってたし」
「その神の力ってやつ、どういうものなのか分かんのかお前は」
「わ、分からないけど。でもだったらどうするのさ。どうやって俺達は帰るんだよ」
「帰る必要ねえだろ」
ヨレヨレデブは自嘲するように笑う。「どうせ帰っても地獄なだけだ」
「ここに残ったって、魔王がいるんじゃ満足に生きられないだろ。なら帰るにしても残るにしても、魔王を倒せる力を持ってる俺達がやらなきゃいけないんじゃないのか?」
「無駄に正義感出しやがって。勝手にやってろ」
ヨレヨレデブは「ケッ」と唾を吐く真似をしてそっぽを向いた。
どうしようもないクズを見たと少年はため息をつく。「お爺さん。あいつはともかく、俺はやるよ」
「そうか。急に呼び出しておいて虫のいい話だと自分でも思う。だが、協力してくれるのはありがたい。感謝する」
お爺さんは目線を「へへっ」と照れくさそうに笑う少年から詩音に移す。
「お主。お主は勇者として呼ばれてはおらん。だが勇者と同じく魔王を倒さねば帰ることは出来ないだろう。しかしお主、神の力は無いがとても常人とは思えぬ力を持っておる。その力をこの世界を救うことに使う気はないか? いや、言い方が悪い。お主も魔王討伐に協力してはくれんか」
お爺さんと少年が詩音に注目する。見るからに戦力になりそうな男が何を言うのか。二人は固唾を呑んだ。
詩音は、正直この世界の平和に興味は無かった。というか、特に考えていなかった。まだ召喚されたという事実についてあまり実感が無かったからだ。
だが詩音は同時に、「これも師匠の言う修行なのだろう。寧ろ『技を磨き、男を磨き、人としての正道を歩む』いい機会なのでは」とも思った。「世界の平和」や「魔王を倒す」などはとりあえず置いといて、これも己に与えられた試練であり、これを乗り越えれば更に磨かれた技に、心身ともに強い男に、そして生き様の素晴らしい人に慣れるだろうという予感を感じ、決意を固める。
そして詩音は「やろう」と一言だけ添えて頷いた。
「だ、だよな! そう言うと思ってた!」少年は内心ほっとしてそうな様子で言う。
「うむ。その言葉を待っておった。では勇者たちよ、必ずや魔王を倒し、この世界の平和を取り戻したまえ!」
「はい!」
「押忍」
詩音と少年は元気のある返事をすると、お爺さんに背を向け冒険に旅立っ。
「待て。用意してあるから旅の準備をしてから行け」
「あ、はい」
「押忍」
その前に、詩音たちは準備に取り掛かるのだった。
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