いっちょやりますわよ!
うん、乗れるよね? 乗れるといいなあ。乗れますように。
ほぼ希望的観測を拠り所として、馬をかっぱらうことにした。
いっちに、さんっし、と屈伸運動とストレッチを繰り返しつつタイミングを見計らう。
男たちの楽しげにしゃべる声が響いている。油断していると思われた。
「さあ、いっちょやりますか、アンジェリカ!」
気合いを入れると同時に細めの炎を指先に灯して扉がある方と対面になっている板壁に線を描くように当てていく。ガスバーナーの要領で人一人が通れるほどの大きさに線を描く。もちろん前の世界でもガスバーナーなど使ったことはないので、あくまでもイメージで炎を細く強く出す。
「よし、我ながらうまく出来たわ。これを蹴っ飛ばせば抜け穴ができるわ」
ふう、と額に滲んだ袖で汗を拭う。
シャリル王子の元でシュレッダー代わりをしていたおかげか、かなり繊細な力調節ができていた。
――あいつのお陰で……。
考えただけで胸の奥底でジワリとなんとも言えない感情がわき上がる。
会いたいと、一度願ってしまった気持ちがどうしても消えない。
もしかしたらヒロインに心を奪われているかもしれないのに……
大切な人の気持ちを失う辛さをもう二度と味わいたくもないのに……
(なぜ私は会いたいなんて思ってしまったんだろう)
パン、と頬を叩いて気合いを入れ直し、今度は大きめの炎を手の上に出現させるや出入り口の扉の下に投げつけてから叫んだ。
「助けて――――!! 火事よ! 早く扉を開けて!!」
今はしんみりしている時じゃないのよ。
ギースのシナリオ通りにならないように逃げ出すの。おっさん国王との結婚なんてさせてたまるもんですか! 結婚なんてクソ食らえなんだから!!
私の叫びを聞いた男たちが外で騒ぎ出す。
「うわ! 扉から煙が!」
「ダメだ、鍵が熱くて触れねえぞ!」
「水、水を持ってこい! 早くしろ!」
よし、引っかかったな。
南京錠は金属製だから熱くなれば触れないので時間稼ぎになると目論んだが、まんまと引っかかってくれた。扉が早々に燃え落ちない程度の炎にしているが、鍵がある部分だけは高温になるように調整しておいた。
今のうちに反対側に作っておいた、蹴るだけで穴になる細工を思いっきり蹴っ飛ばす。
ガコッと大きな音と共に穴がぽっかりと開く。外で騒いでいる男たちにはその音は聞かれていないようだ。




