出る幕なしですわ
狭い小屋の中だ。男たちが野菜の皮をむいたり保存用の肉を切ったりしているのが丸見えなのだが、その手元がかなり慣れたものだった。
彼らは傭兵崩れなのか、手際よくシチューに似た料理を作っていく。
(ゲームの中ではヒロインが男たちの料理を見かねて手伝いを申し出て、男たちもヒロインの料理の美味しさに歓喜の声を上げていたけど……この人たち、私より手際良いわ)
出る幕なし。
彼に振る舞うために色々と料理は勉強したし料理が苦手な訳では無いけれど、皮むきはいつもピーラーを使っていたから、男たちがサクサクとジャガイモの皮を、しかも丁寧にむいている技に感服するしかない。
じっと見ていたことに気がついたのか、一人の男がむいたジャガイモをぽいっと投げながらアンジェリカに顔を向けた。
「貴族のお嬢様には料理しているところなんざ珍しいのか? そんなに熱く俺を見つめるなよ」
クッと下卑た笑いを上げると、他の男たちも顔を上げて私を見た。
「あー、やべっ、見てしまった。おまえらもあの女、見るんじゃねえよ」
(ちょっと! なにその発言!)
見てしまったとか、あまりにも酷い言われようじゃない?
しかも汚らわしいものを見るような不愉快な表情からして、男たちに相当嫌われているようだ。
アンジェリカさん……あなた、何もしなくても人から嫌われる運命のようですよ?
悲しすぎない?
これも全てシナリオのなせる技なのか。悪役令嬢は何をしても悪役令嬢なのね。
ズーンと気分が沈み込んだ私は、男たちから視線を外して考える。
(とにかく逃げるなら、男たちが料理に域が向いている今しかない)
男たちはまるで私が存在していないかのように無駄口をたたき合いながら料理を続けている。ベッドの上に完全放置だ。
これならそっと縛られている縄を焼き切り、不意を突いて逃げ出せそうだ。
だがその決心はすぐに翻される。
なぜなら、タイミングを計ったように良い匂いがしてきてこんな切羽詰まっていると言うのにお腹が小さく鳴ったから。
一度自覚してしまうと空腹感が我が身を支配する。
うーん、と考えつつも心は決まっていた。
(よし、ご飯をいただいてから脱出しよう)
ギースは明日まで待っていろと言った。だから今夜一晩中不在にしてるはず。急ぐ必要はないよね、などと自分に言い訳をした。




