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大変な流れを忘れていましたわ

 このヒロインの誘拐事件は王国を混乱に陥れたいギースの思惑通りに、王国軍が隣国の土地を蹂躙したとして、戦争にはならなかったがいざこざが起きてしまい、かなり賠償などでもめた末に、アンジェリカが隣国のおっさん国王に嫁ぐことで解決をみることになったんだった!!!


 なぜこんな大事な流れを忘れていたのか! 


(そりゃ自分がヒロイン目線だったから、アンジェリカがどんな風に嫁ぐことになったなんて、そこまで覚えてなくても仕方ないよね)


 散々嫌がらせをされ、本当にスマホ投げたいくらいウザいと思っていた相手なんだから、おっさん国王に嫁がされる、やったー! って思ったくらいで、経緯とかそこまで考えてなかった。話の中で賠償として~なんて出てきたエピソードだった。


 こうなれば一刻の猶予もない。

 こんなところでまんじりと救助がくるのを待っておらずに、自力で逃げ出して王軍がここに来ることを阻止しなければならい。


 ギースが猿ぐつわを外してくれたついでとばかりに親指で私の唇をなぞる。


「美味そうな唇だな。噛みついてちぎれば、きっと甘い血が溢れてくるんだろうな」


 目が……目が本気ですけど!


 ねっとりとした眼差しは蛇が獲物に狙いを付けたときのような執着を見せる。

 私を見つめたままでギースが男たちに命令する。


「おい、荷馬車に積んである食料を下ろせ。飯の支度をしろ」


 男たちは面倒くさそうに、それでもギースの言葉に従い部屋から出て行く。


「おまえの舌に見合う飯などないが、手の使えないおまえには俺が口移しで食べさせてやろう。きっと極上の味になるはずだ」


 クククと楽しそうに喉の奥で笑ってから立ち上がり「だが」と話を続けた。


「残念だが今夜の晩餐は一緒にできねえな。こんな早く追いつかれるのは予想外だったからな。連絡を入れにいかなきゃならねえんだ。明日まで大人しく俺の帰りをまっていろ、アンジェリカ」


 いちいち名前を呼ばないで欲しい。まるで恋人に語りかけているように錯覚をしてしまう声音に、ドキッとするよりゾクッとしてしまう。


「私が大人しく待っていると思っているの? おめでたいことね」


 生意気そうに聞こえるように精一杯ツンとして顔を上げると、ギースは一層嬉しそうに笑った。


「本当にいい女だな。まあ、そんなに俺を誘うな。いずれちゃんと殺してやるかな」


 誘ってな――――い!


 どんな思考回路していらっしゃるの、この男。脳のシナプスがあらぬところ同士で結びついているんじゃないの? 


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