怖さは隠しておきますわ
すぐに殺そうと思われないように、できるだけ引っ張る。いや、怖いけどね。
「あら、おめでたいことね。脅せば何でも従うとでも思っているの? どうせ殺されるんでしょ。ここで死のうが先で死のうが一緒だわ。でも約束したんだから楽に殺しないさいね、ギース」
上手く出来たかはわからなかったけれど、不敵な笑顔を浮かべてギースを見つめた。
眉間に深い皺を刻んだギースが射殺すほどの眼差しで、至近距離から私を睨んでいたが、ふいに殺気を緩めた。
「……いいねえ、おまえ。その気の強さも強い瞳も、悪くない」
ニヤリとしながらおもむろに私の髪の毛を鷲掴みにして上を向かされた。
晒された首筋にギースがいきなり噛みついた。
(痛っ!)
噛みつかれた痛みの後にすぐぬらりと舌で舐めとられる感触が走る。
(なななな、舐めた――――!!!?)
ぞわっと鳥肌が立ったが、そんなことはおくびにも出さないでフッと笑ってやる。
私の反応を観察していたのだろう。
ギースはしばし冷え切った眼差しで私を見下ろしていたが、やがてぽつりと言った。
「……おもしれー女だな。この続きを楽しみにしてろ。ゆっくりと吐かせてやる」
ベッドから身を起こしたギースは「明日、朝から移動だ。せいぜい今のうちに寝ておけ」と言い残して部屋から出て行った。
シーンと静まりかえった部屋。私の心臓がドクドクと痛いほど激しい鼓動を刻む。
(た、助かったの!? 今、乗り切れたの? もう戻ってこないよね?)
一気に緊張の糸が切れてベッドにヘナヘナと倒れ込んだ。
こ、怖かった~。本当に怖かったぁぁぁ!
この土壇場の度胸は元の柴崎菜央よりもアンジェリカの意志が出ていたような気がする。
元の私は長いものには巻かれろ精神で、不満があっても笑顔で流し、人と争うことを避けていた。あんなに強心臓はないはずだから。
(アンジェリカさん、あなたの強さが私を助けてくれたようです)
そう、最近は時々自分ではないような感情や感覚を抱く時がある。それにアンジェリカの今までの記憶らしきものが断片的に浮かぶこともある。
幼い頃の邸の庭の風景、大きく見える父親の背中、グラデュラス公爵邸の豪奢な廊下。
そんな風景がふいに脳裏に蘇る時があるのだ。間違いなくアンジェリカの記憶だ。




