第二回やっちまいましたわ
「おまえ……なぜ俺の名前を知っている」
獣の唸るような低い声に、ハッとしてから血の気が引いた。
(し、しまった……私が知っていたら不自然よね。待って、殺気がまき散らされてますけど!)
やっちまいましたよ……。
男燃やしたのに続いて、やっちまった第二弾だわ……。
いや、でも名前を当てろってあなたが言いましたから。あああ、ごめんなさい、めっちゃ殺気ダダ漏れですやん。
答えない私の首を片手で乱暴に掴み上げると、低い低い声で再度尋ねてくる。
「おい、なぜ知っている」
あー、ほんと、やっちまいました。泣きたい。
柴崎菜央であろうとアンジェリカであろうと、女性の首ぐらいひとひねりで殺ってしまえますね、この人の手の大きさと強さなら。絶体絶命だわ。
こんな場面でできることはただ一つ。
私は首を掴まれたままで口を開く。
「あな……たの……後ろの……」
喉仏辺りを掴んでいるから上手くしゃべられないと気がついたのか男の手が緩み、私はケホッと軽く咳をしてからもう一度話す。
「あなたの後ろに誰がいるのかも知っているわ。だからあなたの名前は知っていたの。今思い出したのよ」
「俺の後ろに、だと?」
「ええ」
私は真っ直ぐにギースの見えている片目を迷いなく見つめた。
「シュバリエ大公、でしょう?」
ハッと息を呑んだあと、ギースは首にかかっている手を外して盛大に笑った。
「あははは! ハッタリかと思いきや、そう来たか。グラデュラス公爵令嬢さんよ、その情報はどうやって手に入れたんだ。他には誰が、どこまで知っている」
「簡単に言うと思っているの?」
本当は全身がバイブレーションモードくらいに震えているけれど、欠片もそんな様子を見せずに偉そうに告げると、舌なめずりをして薄い唇を湿らせたギースは、ベッドに片足をかけてグイッと顔を寄せてきた。
「正直に言え、アンジェリカ。殺されたいのか?」
狂気に満ちた目をしている。危険な男だ。
だがこんな時、こんな相手には従順になるよりも駆け引きをするべきだ。




