名前を聞きましたの
「なぜおまえが攫われたかわかるか?」
ほら、来たよ、この質問。
うん、知ってますよ。
知ってるけど言わないよ? シナリオ通りに進めたいからね。
何も答えないのが正解だ。そうすれば勝手にあいつが話し始めるから。
「ふんっ、わかるわけねえよな。安穏と贅沢に過ごしているお貴族様にわかるわけないか」
予想通り自分からどれほど王家を憎んでいるかを話し始め、それから最後にこう言った。
「おまえは餌だ。王家の奴らをおびき出すための餌だな。俺と同じだけの絶望を与えるために、悪いが死んでもらう」
「餌、ね」
残念ですが私では餌にならないんだけど……。ヒロインちゃんとでは雲泥の差です、すみません。
あと、話の流れを知っているから泣けませんでした。
それに、どうしても現実感がないままだ。もしかしたら助けが来なければ殺されるかもしれないとわかっているのに、なぜか怖さも湧いてこない。
やっぱりゲームの世界だと思って、心が一線を引いてしまっているのだろうか。
だからついこんなことを聞いてしまった。
「ところであなたの名前は?」
名前を聞く下りはゲームにはないんだけど、個人的に気になっているだけで聞いてしまった。
「なぜそんなことを聞く。冥途の土産か?」
男がわずかに目を細めこちらを探るような視線を見せる。
深い意味はないのよ? 喉元まで出てるような気がしてるのに出ない時のモヤモヤがすっごく気持ち悪いだけなのよ。
なのになぜか急に男はやけに上機嫌そうに笑った。
「ははっ、この後に及んで俺の名前ねえ。うん、いいねえ、あんた。なかなか動じないその堂々とした姿、嫌いじゃないな。じゃあ俺の名前を当てたら、殺すときに苦しまずに殺してやろう」
「どっちにしろ殺すのね」
「まあね。それとも俺を誘惑して助けを懇願してみるか?」
「どうせ助ける気もないくせに。名前ねぇ……」
結局自分で思い出さないといけないことになって、やぶ蛇だったわ。
う~ん、と考える私を揶揄する瞳が見つめている。
なんか、ギがついたような気がする。ギ、ギ、ギルバート。違う。ギザール、ギン、ギーラ、ん? 近い気がする。ギ、ギーア、ギーイ、ギーウ、ギーエ……
「ぐはあ!!」
突然珍妙な叫びを上げた私に男は驚いて腰を浮かした。
「ギース!!!! そうよ、ギースよ!!!」
結構な音量で叫んだ私に、男は体を硬くした。
そう! 思い出した、ギースだ!!
あ~スッキリした、と満足する私と対照的に男――ギースが全身からブワッととんでもない量の殺気が吹き出した。




