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どこへ運ばれますの?

 同じ姿勢をしているから手の感覚も失せてしまって、口に噛まされた布がもう限界。言っておきますけど、布の猿ぐつわがいつまでも綺麗だなんてファンタジーの世界だからね!

 実際は飲み込めない唾液が布に……ってこれ以上は自重しますが、それなりに不潔な感じになるんだからね。仕方ないことだからね。


 まあ、本当に切迫した危険になればアンジェリカは火の魔法が使えるから、この縄なんかは燃やすことが出来るんだけど、今は相手の目的が見えないのでしばらくなすがままになっている。


 ガタンゴトンとちょっとした小石でさえも直接響いてくる揺れに辟易しながら考える。


(これってヒロインちゃんがシュバリエ大公の陰謀に巻き込まれた誘拐事件じゃないのかな? どうして私が? あれとは違う誘拐事件なんだろうか?)


 ヒロイン誘拐イベントは、もっとリゼル王子との仲が深まってから発生したはずで、今回の舞踏会では仄かに惹かれ合う二人の仲がドレスにより公然となるだけだ。

 ここから嫉妬の炎を燃やしたアンジェリカの虐めシーンが続き、リゼル王子はヒロインを守り、ヒロインもリゼル王子を頼りにしていくようになる。

 このタイミングで誘拐されるのはイベントとは別件のような気がする。


 ガタン、と大きく揺れてから馬車が唐突に止まった。


「……だろ、ここで……」


「……さけ……まあ……」


「……なおん……だな」


 切れ切れに男たちの声が聞こえてくる。それはとても貴族的な物言いではなく、平民どころか相当ガラの悪そうな野蛮な声と口調だった。


「そら、運ぶぞ」


 明瞭に男の声がした途端に麻の布袋に入ったまま持ち上げられた。


「しっかし貴族令嬢ってのはみんなこんな軽いのかね」


「怪力のおまえが担げば酒屋のかみさんでも軽いだろうよ」


 そんな軽口をたたき合いながら男たちはアンジェリカを何やら建物の中に運び込んだ。


「おい、お貴族のおじょー様よ、おはよーございまーす」


 ふざけた口調で笑いながら私を麻袋から出した男たちが、思わずと言った感じで口笛を吹いた。


「へええ、こいつは相当上物だなあ」


「ああ、貴族のお嬢様の中でも見たことねえ美人さんだな」


 そろそろ慣れたけれど、やっぱり彼らにも私はちゃんとアンジェリカに見えているのね。


 髪に触ろうとした男にキッと睨みをきかせるが、ゲラゲラと笑われただけだった。


(ふん、笑ってなさいよ。私には奥義、火だるまがあるんだからね)


 怖くないと言えば嘘になるが、幸い?アンジェリカには男を火だるまにした前科がある。いざとなれば三人まとめてってやる、なんて自分を鼓舞する。


(うん、いくらなんでもる、はいただけないわね)




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