一刻を争いますわね
「相手は怨恨目的と思われます。一日、いえ一時間でも早く救出しなければ命さえ危うい状況にあるでしょう。それに攫われたのはグラデュラス公爵家のご令嬢です。これを早急に救出したとなれば、きっと王家のためにもなりましょう」
オースチンの意見を聞いてもまだ是との応えを出さない国王に対してリゼル王子はせき立てるように言い募る。
「王宮で発生した事件です。ぬるい捜索などしていては王家に対してグラデュラス公爵家からの反発が起きましょうや。逆に、今こそ速やかに国軍まで供出して令嬢を救出したとなれば、王家の貴族家門を大切にしているとの真摯な態度は、グラデュラス公爵家のみならず他の家門にとっても何物にも代えがたき信頼となるでしょう」
現在、グラデュラス公爵家からは王家に対して抗議文を提出する用意があると言われている。
一大家門である公爵家の令嬢を容疑者呼ばわりして呼び出した挙げ句に王宮に留め置かれていたことを知った国王が頭を抱えたのはつい先ほど。
安全であるはずの王宮での誘拐事件、公爵家が抗議をしてくるのも当然と言えば当然だ。
これは対応を間違えれば王家にとってもかなりの痛手になる可能性がある。
誰も口出しのできない静かな部屋に、やや沈黙が流れてから国王がゆるりと告げた。
「わかった、リゼルの思うようにするがいい。軍を動かす権限を渡そう。私は休む」
珍しく喜色を浮かべたリゼルが「はっ、ありがたきお言葉」とその場で片膝を折り胸に手を当てて頭を垂れた。補佐官のオースチンも安堵したような笑みを口元に浮かべた。
ちなみに国王はすぐさま部屋に引き下がった。
会議が行われていた部屋を出た途端、シャリル王子はエバンスを執務室へ誘った。
神妙な顔をした二人は自然と足早になり、最後はほぼ駆け込むように執務室へと飛び込んだ。そして荒い息のままシャリル王子はその場に座り込んだ。
「……アンジー」
「王子、お気を確かに」
エバンスに背を支えられながらソファーへと移動し、項垂れるシャリル王子に部屋の隅に置かれている水をコップに注いで手渡す。手渡すエバンスの手もわずかに震えていた。
「僕が……彼女から離れなければ」
「そのように考えてはなりません」
慰めるエバンスの声にも悲痛な感情が交じる。シャリル王子はもちろんのこと、エバンスにもわかっていた。
あれは、わざとだと。
靴を落としていたのも、髪飾りを落としていたのも、すべてわざとだ。
金品目的でなく、狙いはアンジェリカだ。できるものなら探し出して見ろとあざ笑っている。馬車だって目立つように乗り捨てられていたのだ。




