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靴を落とすのはシンデレラですわ


*嵐は突然に暴風警報 *



それを見つけたのは、庭園に意中の女性を誘い出すことに成功した男爵の令息だった。


 茂みに隠されるでもなく、いかにもそのまま放置したことが見て取れる位置に、華奢で真っ赤なハイヒールが、主を失ったまま転がっていた。

 すぐに衛兵へ伝えられ、そして本日の主催者である王子に報告が上がったのは、ちょうど王が臨席するとの触れが出る直前のことだった。


 ただ一つ残されたハイヒール。


 それは事件なのか事故なのか、そして誰がいなくなっているのか。

 衛兵から報を受けた途端、リゼル王子には先ほどから姿の見えない令嬢のことがすぐに頭に浮かんだ。


「アンジェリカ・グラデュラス公爵令嬢を探せ。休憩室はもちろん彼女が使っている部屋も、この王宮内も隅々まで探せ」


 参加者に不用意な憶測を抱かせぬように内密に指示を飛ばし、大騒ぎにしないようにと務めているリゼル王子の様子に、会場にいたシャリル王子も気がついた。

 今、まさにアンジェリカから言われた種まきをしようとココア・モスドナルド令嬢に近寄って声をかけたところだった。


「シャリル王子殿下ぁ、私にお話ってなんでしょうか?」


 甘い、男が好きそうな愛らしい声で問いかけてきたモスドナルド令嬢に、ニコリと笑みを見せたシャリル王子は、隣に立つエバンスの腕を引いた。


「私の補佐官のエバンスです、彼から話があります」


「ちょっ! 王子! なんで私ですか!」


 突然引き出されたエバンスが抗議の声を上げたが、シャリル王子が「兄上周辺の様子がおかしい、後は頼んだ」と小声でエバンスに告げたから、エバンスはすぐに顔を引き締めた。


「承知しました」


 サッと胸元に手を当てたエバンスにひとつ頷いたシャリル王子は踵を返し兄王子の元へと向かった。


 それを見送るエバンスの背中に「えええ~、シャリル王子じゃないなんてぇ、で、なんの話?」と、急に砕けた口調の言葉がかけられた。それは先ほどの甘さが七割減の声音で、エバンスは苦笑しながら振り返り、恭しく頭を下げてからアンジェリカに言われた通りに種まきを始めた。


「本日、リゼル王子が婚約発表をされるそうですね、おめでとうございます」と。


 これがこの令嬢にどんな意味があるのかはわからないが、先ほどファーストダンスをしていたことから考えるに、彼女が婚約者であると思わせる作戦なのだろうかとエバンスはアンジェリカの作戦を推察する。


(アンジェリカ様はああ見えて頭の回転は速いし仕事能力も高い。それに高位貴族なのに飾らない雰囲気で私にも気安く接してくださる。あの方がシャリル王子の伴侶になってくださると、どれほど安泰で――主に自分の休養面が――、どれほど安心か――主にシャリル王子の精神面が――。だから申し訳ありませんがリゼル王子とアンジェリカ様の婚約は邪魔させていただきます)


 眼鏡をクイッと押し上げてニッコリと目の前の令嬢に恭しく頭を下げた。


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