庭園に逃げ込むのですわ
「ではごめんあそばせ」
優雅にドレスを摘まんで膝を少し折り頭を下げる。
それからまだ「?」の浮かんでいるエバンスと成瀬に向けて低い声で念を押す。
「種まき、任せたからね」
本来、仕事も自分のことも人任せにするのは好きではないが、ヒロインと関わるのはアンジェリカではない方が絶対にスムーズだ。しかもシャリル第二王子は攻略対象でヒロインを溺愛する相手なのだから、きっとヒロインちゃんも素直に話を聞いてくれるだろう。
(これを機にシャリル王子がヒロインに惹かれたり……しない、よね?)
そう考えた瞬間、ツキンと胸の奥が小さく痛んだ。
その痛みが何かわからないまま、私はできるだけ目立たないように柱の陰から陰へと渡り歩いて会場を後にした。
背後で「あら、アンジェリカ様がダンスも踊らず帰られるわ」とか「グラデュラス公爵令嬢は体調不良だろうか」などなど話題になっていたことは知らなかった。
まず目立つなと言われても無理なド派手な紅の髪と人目を引きつける美しい容姿のアンジェリカなのだ、コソコソしてもどうしても目立つのだったが本人は全く気がついていなかった。
ふう、と夕闇に沈む庭園で息を吐く。
少し冷えた空気が胸を満たし、ようやく息ができたと感じる。
背後から小さく流れてくる音楽は、優雅なものから軽快なリズムの楽曲に変わっていた。
遊歩道の所々に明かりが灯され丁寧に整えられた庭が誘ってくるようで、私は部屋に帰らずに少し散策をすることにした。
さっきまでの絶体絶命感から解放された気分になる。
まあ、まだ何も解決はしていないのだが、目の前から問題が見えなくなると助かったような気になるのは、人間の悲しい習性だろう、なんて勝手に考える。
「失礼ですが、アンジェリカ・グラデュラス公爵令嬢でしょうか?」
誰もいないと思っていた庭園で不意に背後から男性に声を掛けられてびっくりする。
驚いて振り返った私の目の前に一人の騎士が立っている。足音さえ気がつかなかったが、思いのほか近くに立っていたから、少し警戒して問い返した。
「そう言うあなたは?」
逆光になっていたのではっきりとは見えなかったが、騎士は笑みを浮かべたようだ。
「ああ、間違いないですね。その美貌に赤い髪」
と、呟くのを聞いた途端、彼は私の首に腕を回し力一杯締めつけた。
「うっ……」
小さい呻きを漏らした瞬間、私の意識はブラックアウトしてしまった。




