言うたやないかーい、ですわ
主催であるリゼル王子が開始の合図を高らかに告げると、音楽が鳴り始める。
ファーストダンスをまずは王子が踊らなければならないが、リゼル王子の周囲にサササッと婚約者候補の令嬢たちが駆け寄った。もちろんその中にヒロインも含まれる。誰よりも力強く令嬢を押しのけて近寄って行っている。
「っと、エバンス卿、私はしばらく席を外すわ」
なぜか私に視線をロックオンしているリゼル王子にイヤな予感しかしないので、忍者のごとく気配を殺して会場から出て行こうとしたが、エバンスにサッと手を捕まれた。
「待ってください。ほらシャリル王子殿下がこちらに来られます。ファーストダンスを踊られては?」
やけにシャリル王子を推してくるね、エバンスさん。
でもね、私は誰とも踊りたくもないし噂にもなりたくないんですよ!
せめて人の視線を避けるようにとエバンスと共に柱の陰に隠れるように控えながら「じゃあ、エバンス卿が私とファーストダンスを踊ってくださる?」と冗談めかして笑いかけると、一気に顔が引きつり青ざめた。
え、待ってよ、その反応。まだそんなに嫌われていたの? ちょっとショックなんですけど!
「そ、そのような! 恐ろしいことを!! 私、殺されてしまいます!」
誰に殺されるってのよ。
問いかけようとしたが、すぐに私の元に成瀬の顔をしたシャリル王子が歩み寄り、眉根に皺を寄せた。
「アンジェリカ嬢、ゆゆしき事態が起きてるよ。兄上、やはりアンジェリカ嬢を婚約者に決定するって、先ほども控え室で僕に宣言してきたんだよ。遅れて参加される父上には、詳細は会場でと期待を煽っていたらしい」
うそ、でしょう……?
「父上まで呼び寄せて正式な発表にするつもりだよ?」
サアっと血の気が引いていく。
ちょ……え……うそ……えっ……?
おいぃぃっ! 根も葉もない噂だって、おまえ言うたやないか――い!!!
どこから出た噂かもわからないとか言うてたやないか――い!!!
盛大に声を大にして突っ込みたい!!! 辺りはばからずに叫びたい!
「待って……どうしよう。え、待て待て、落ち着けリゼル王子さんよ。早まるな、落ち着いて、落ち着きなさい」
焦りに顔色を失う私がブツブツと呟いていると成瀬が顔を寄せてくる。
優雅な音楽がBGMのように流れる中、あいつは耳元で囁いた。
「先に僕との婚約を発表しちゃいましょう。父上の準備ができるまではまだ時間がかかるそうだから、その前に婚約の宣言をしてしまおう。ほら、僕の手を取ってアンジー。僕たちの愛を見せびらかせてしまおう、ね?」




