肩の荷が下りたようですわ
だが、ふと思いついた。
さすが騎士になるだけあって、ガゼルはきっと正義感がとても強いだろう。
王子が後ろ盾だけを得ようとしていると思って、義憤に駆られたのかもしれない。
だから私はガゼルを見上げてふわりと笑った。
「ありがとう、ガゼル卿。その気持ちが嬉しいわ。でも自分で解決しなければいけないことだと思うの。どうしても無理な時はガゼル卿を頼らせてね」
私の言葉にガゼルは少しだけ眉を下げて笑みを浮かべる。
柔らかな印象の茶色の瞳が愛おしげに見つめてくるから、少し心が揺れた。
(ガゼル卿……恐ろしい子っ)
アラサー喪女の心を眼差し一つで揺らしてくるとは、恐ろしい子だわ。
二人並んで部屋の前まで来た時、中から扉を開いた三侍女がまた(キャー、ガゼル卿!)と声にならない叫びを上げていることに気がついて私は苦笑する。
「ガゼル卿、ありがとうございました」
「アンジェリカ、どんな事でも僕に頼ってください。必ず駆けつけます」
手の甲に軽く唇を触れ、それから右手を胸に当てる騎士の礼をして戻って行った。
「きゃあー! ガゼル卿、格好いい!!」
「さすがアンジェリカ様! 愛されてるぅぅぅ」
「この美貌に惹かれない男なんていないのよ! 『僕に頼って』とか、きゃあああ!」
一気に騒ぎ出す三侍女さんたちに、もう笑うしかない。
惹かれてもないし、愛してないっての。あの人は又従兄弟なだけですが。
なんて水を差すのはやめておいた。
リゼル王子の婚約の噂が根も葉もないものと聞いた私は、肩の荷が下りてソファーにポスンと腰を下ろす。
意外と緊張していたようだ。本当に婚約者とする、なんて言われたらどうしようと気を張っていたみたい。
すぐに侍女が温かい紅茶と焼き菓子をタイミング良くテーブルに並べてくれ、その香りと気遣いにホッとする。
「ありがとう。みんな本当に気を遣ってくれるから快適に過ごせているわ」
そんなお礼の言葉も軽い心からは口をついて出てくる。
まあ! と三侍女たちは感動のジェスチャーをして、それから口々に話し始める。
「アンジェリカ様は美しいだけでなくお優しいのですね!」
「最初は怖い方だと聞いていたのに、人の噂は当てになりませんよ!」
「そうですよ! ああ、でもアンジェリカ様はリゼル王子殿下の婚約者候補ですわ。私はシャリル王子殿下とお似合いだと思うのに!」
「いえいえ、やっぱり女は愛されてこそ! ガゼル卿に一票ですわ」
「そういえばエバンス卿もあのメガネが心そそりますよー」
「えー、エバンス卿? ありかなしかで言えばなしじゃない?」
キャッキャうふふと騒ぐ侍女たちが女子高生のように見えて可愛くて仕方がなかった。
(エバンス、かわいそう。まあ、どの相手とも私とは結ばれないけどね)
その様子を安心から心が軽くなった私はただただ愛おしく見つめていた。




